【月夜に彼女は何を思う】

文字数 2,933文字

 他人に隠したいこともあるだろう。

 これは人間の持つ心理としてはごく当たり前のことで、自分のコンプレックスや性癖、自分にとって都合のよくないことと様々な形を持っているのはいうまでもないだろう。

 かくいうおれにも出来ることなら秘密にしておきたいことのひとつやふたつぐらいはある。

 そもそもが少し前まではパニック障害というのも人には内緒にしておきたかったことのひとつだったりする。

 ただ、自分がひた隠そうとしていたパニックというモノをオープンにした結果、精神的に随分と楽になったのも事実で、自分がひた隠しにしようとしていること何て、案外気にしているのは自分だけなんてこともザラだったりする。そこでいえるのはーー

 やはり、大事なのは隠したいこととどう向き合っていくかで、自分がマイナスだと思っていることを隠すのではなく、如何に受け入れるかこそが大事なのだとおれは思うのだ。

 さて、今日はそんな秘密についての話。ごむリン?ーー明日書くわ。じゃ、やってくーー

 あれは高校二年の時のことだった。

 その日、おれは部活を終え、ひとりで停車するスクールバスに乗って、発車の時間を今か今かと待っていたのだ。

 ちなみにいつもは、後に靴下にハチが入っていたということを理由に一週間学校を休むこととなるユースケと一緒に帰っていたのだけど、この日の彼は用事があるとかで部活に出ずに先に帰っていたのだーーハチの記事がどれかわからなくて何て仮名をつけたか忘れたんで適当につけ直したわ、許せ。

 まぁ、そんな感じで座席に腰掛けてゆったりと待ってたんですよ。そしたら、

 外山がひとりで乗ってきたのだ。

 この当時、外山とはクラスも違えば部活も違ったため、会えば話をするとそんな感じの関係だった。互いに目が合い挨拶を交わす。外山はおれのとなりの席に座ると、リラックスした感じでいった。

「ユースケは?」

 おれはユースケがいない理由を語った。靴下の中にハチが入ってたんだってーーこれはまた後の話か。それはさておきーー

 やはり小学校からの仲で、中学時代は部活も塾も、三年時はクラスも一緒だっただけに会えば話も盛り上がった。まぁ、この時は今ほど仲良くもなかったのだけど、仲がいいことには変わりなかったのだ。

 そんな感じで久しぶりに会って互いのクラス事情や部活事情について話している内に、外山はこんなことをいい出した。

「今日、帰りにモモタロー寄るわ」

 モモタローとは、五村にあるゲームショップのことだ。今では閉店してしまったが、おれも昔は随分とここでゲームソフトを買ったモンだった。外山のひとことを聴いて、おれはーー

「マジかよ。おれも行こうかな」

 そういうと外山は、

 やたらと動揺し出したのだ。

 何というか、マンガかよと思えるくらい絵に描いたような動揺の仕方だった。とはいえ、この時のおれはバカもバカだったモンで、おれの勘違いか何かだろうと思って、それ以上気にすることはなかった。

 新川澄駅に着き、ふたりで電車に乗り込み五村へ向かう。が、五村に近づくにつれ、外山はやたらとソワソワするようになったのだ。

「どうした?」おれは訊ねた。

「いや。……マジでモモタロー来る?」

 おれは無情にも肯定した。この時点で外山が何か都合の悪い事情を抱えているのは明白だった。が、当時のおれはかなり空気の読めない男だったこともあって、普通に首を縦に振ったのだ。だからこそおれみたいなヤツは「KY」っていわれるんよなーーKYなんて、もう死語か。

 五村市駅に着いてふたりで自転車で走り、モモタローへと向かった。

 モモタローに来るのは久しぶりだった。高校にも入ると、アメリカやイギリスのロックンロールにハマっていたこともあって、ゲームショップではなく、CDショップに行くことが殆どで、家でゲームをやるにしても、スーパーファミコンのようなレトロゲームや、中学三年の受験期に買ってクリアしていなかったホラーゲームの新作をチョロチョロやるくらいだった。

 しかし、元来のゲーム好きとあって、ゲームショップに来ると気分が高揚する。棚の端から端までズラッと並ぶゲームソフトはまるで天の川を掛け渡す橋のよう。

 中古のソフトを手に取ってはパッケージやジャケットを眺めているだけで、高揚感が内から沸いてくる。が、それらをレジに持っていくことはない。おれはゲームを卒業したのだーー後に入学し直すんだけどな。

 そんな感じで手に取ったゲームソフトを棚に戻して外山を探した。外山は新作ゲームのコーナーでひとり唸っていた。

「どうした?」そう訊ねると外山は、

「あー、いやぁ……」

 外山はアダルトサイトを観ているところを母親に目撃されたように狼狽していた。

「何だよ。ゲーム買うんだろ。あ、もしかしてーー」おれはとあるゲームを指差した。「買おうとしてるの、これじゃねえの?」

 おれは冗談半分でそういった。が、外山は、

 有耶無耶に頷いたのだ。

 ……ん?

 正解でしたか。そうでしたか。うん、何か申し訳なかったな。おれは思わず苦笑いするしかなかった。それはおれが指差したソフトが、

 ギャルゲーだったからだ。

 この当時、外山は友人を含むクラスメイトたちから「オタク」と呼ばれて弄られていたこともあって、冗談半分でギャルゲーを指差したのだけど、まさか本当にそうとは。が、おれは引くこともなくむしろ笑ってしまったよな。

「いや、違うんだよ、友達に頼まれて!」

 外山は必死にそう弁明していたのだけど、おれにはそんなことはどうでもよかった。結局、外山はそのギャルゲーの限定版を買い、ふたりでモモタローを後にしたのだ。

 翌日、この話をユースケにしたところ、この件は外山のクラスにバーッと広まり、一気にネタ化してしまったとのこと。ウワサってガン細胞並に広まるの早いよな。

 で、時は過ぎ去って現在。今でもこの話はふたりの共通のネタとしてよく話すのだけど、以前、外山と焼鳥屋でふたりで飲んでいた時、外山はこの件に関してこういっていた。

「いやぁ、アレさ。本当に友達に頼まれてたんだよな。自分で買う勇気がないとかでさ。『破壊王』ってヤツに頼まれてたんだけどーー」

 破壊王。覚えていた。外山とユースケの一年時のクラスメイトで、外山とは部活が一緒だったこともあっておれもよく話す仲だったヤツだった。

 破壊王は、よく外山のことを『オタク』とネタにしていたのだけど、人のことをそうネタにした手前、自分でギャルゲーを買うということに抵抗感があったのかもしれない。

 だからこそ外山に頼んで買ってきて貰ったんだろうけど、それも明るみになってネタになってしまったワケで。やっぱ、人の趣味に口出しするモンではないよな。

 ちなみに外山は『ときめきメモリアル3』をやって四回連続で誰からも告白されないという残念な過去を持っていたりする。こりゃギャルゲー初心者だわ。

 人は誰だって胸の奥に秘密を抱えている。とはいえ、自分の好きなモノには自信を持っていいと思うのだ。まぁ、性癖に関しては……秘密にしておいたほうがいいかもしれないけど。

 とはいえ、自分の好きなモノは自分の写し鏡だからな。成長しても否定はしちゃいかんよ。

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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