【ナナフシギ~参拾死~】
文字数 1,276文字
砂は積もり山となった。
殴られ倒れていた鮫島は痙攣していたかと思いきや、突然砂となってしまった。森永はそんな砂の塊に恐る恐る近づくと両手で皿を作り、積もった山から砂を両手いっぱいにすくうと、そのまま穴の空いた容器から水が漏れ出すように砂をこぼしていった。
「鮫島......」
森永の手は震えていた。目も震えていた。それは紛れもない恐怖と絶望だった。
「鮫島が......、鮫島が......ッ!」
目いっぱいに涙を貯めて森永は弓永を見た。どうしてくれるんだ、という恨みもあったかもしれないし、これからどうすればいいか訊ねるような感じでもあった。が、弓永は表情をまったくといっていいほど変えることなく、口を開いた。
「鮫島が、どうした?」
その口調は非常に冷たかった。まるで、人のこころなど持ち合わせていないような、そんな絶対零度の声色。森永は信じられないといった様子で口をわななかせていた。
「どうしたって、お前......。鮫島がこんなんになっちまったんだぞ! どうすんだよ!」
声だけは怒りに満ちていたが、行動に怒りが反映されることはなかった。というより、恐怖に身体が支配されて怒りを反映させるほどの余裕が残されていなかったのだろう。
「どうするって、何がだよ?」
弓永は尚も冷酷にいい放った。森永はその弓永の態度に呆然とした。
「お前......、マジでいってんのかよ......」
「マジも何も、普通のことしかいってねえだろ。イカレたのか?」
「イカレてんのはお前だろ! 鮫島が目の前でこんなことになって、お前、どうしてそんなに冷静でいられんだよ!」
「これが本物の鮫島じゃないって確信してるからに決まってんだろ」
「......え?」
森永は目を大きく見開いた。が、そんな森永のことには構わず、弓永はため息をつき、砂を軽く蹴り飛ばしていった。
「お前、これが本物の鮫島だと思うのか?」
森永は微妙な受け答えしか出来なかった。混乱しているのが目に見えてわかるほどに目をキョロキョロさせていた。弓永は続けた。
「じゃあ、訊くけどな。お前はアニメやマンガ以外で砂になって死ぬ人間を観たことあるのか?」
弓永の目はジャックナイフのように細く鋭かった。森永は動揺しながらいった。
「あぁ、いや......」
「もし、これが本物の鮫島なら、砂になって消え失せたりはしないだろ。おれに腹を殴られてそのまま苦しみながら、おれに文句をいうに決まってる。それに、人間、そんな短時間であんな風に狂うことはないだろ。まぁ、幽霊に取り憑かれてたんなら別だろうけどな」
「じゃあ......」
「アレは鮫島じゃない。クソみたいな幽霊が見せた幻覚みたいなモンだろうよ。鮫島は何処か別のところだ」
森永はことばを失っていた。
「いつまで座ってんだ。鮫島もそうだし、石川先生も探さなきゃいけねえんだ。取り敢えず、ここからどうやって出るか考えないとな」
弓永は森永に手を差し出した。森永は最初はその手を見てどういう意図があるのか理解していなかったようだったが、すぐに手を取ってそのまま立ち上がった。
【続く】
殴られ倒れていた鮫島は痙攣していたかと思いきや、突然砂となってしまった。森永はそんな砂の塊に恐る恐る近づくと両手で皿を作り、積もった山から砂を両手いっぱいにすくうと、そのまま穴の空いた容器から水が漏れ出すように砂をこぼしていった。
「鮫島......」
森永の手は震えていた。目も震えていた。それは紛れもない恐怖と絶望だった。
「鮫島が......、鮫島が......ッ!」
目いっぱいに涙を貯めて森永は弓永を見た。どうしてくれるんだ、という恨みもあったかもしれないし、これからどうすればいいか訊ねるような感じでもあった。が、弓永は表情をまったくといっていいほど変えることなく、口を開いた。
「鮫島が、どうした?」
その口調は非常に冷たかった。まるで、人のこころなど持ち合わせていないような、そんな絶対零度の声色。森永は信じられないといった様子で口をわななかせていた。
「どうしたって、お前......。鮫島がこんなんになっちまったんだぞ! どうすんだよ!」
声だけは怒りに満ちていたが、行動に怒りが反映されることはなかった。というより、恐怖に身体が支配されて怒りを反映させるほどの余裕が残されていなかったのだろう。
「どうするって、何がだよ?」
弓永は尚も冷酷にいい放った。森永はその弓永の態度に呆然とした。
「お前......、マジでいってんのかよ......」
「マジも何も、普通のことしかいってねえだろ。イカレたのか?」
「イカレてんのはお前だろ! 鮫島が目の前でこんなことになって、お前、どうしてそんなに冷静でいられんだよ!」
「これが本物の鮫島じゃないって確信してるからに決まってんだろ」
「......え?」
森永は目を大きく見開いた。が、そんな森永のことには構わず、弓永はため息をつき、砂を軽く蹴り飛ばしていった。
「お前、これが本物の鮫島だと思うのか?」
森永は微妙な受け答えしか出来なかった。混乱しているのが目に見えてわかるほどに目をキョロキョロさせていた。弓永は続けた。
「じゃあ、訊くけどな。お前はアニメやマンガ以外で砂になって死ぬ人間を観たことあるのか?」
弓永の目はジャックナイフのように細く鋭かった。森永は動揺しながらいった。
「あぁ、いや......」
「もし、これが本物の鮫島なら、砂になって消え失せたりはしないだろ。おれに腹を殴られてそのまま苦しみながら、おれに文句をいうに決まってる。それに、人間、そんな短時間であんな風に狂うことはないだろ。まぁ、幽霊に取り憑かれてたんなら別だろうけどな」
「じゃあ......」
「アレは鮫島じゃない。クソみたいな幽霊が見せた幻覚みたいなモンだろうよ。鮫島は何処か別のところだ」
森永はことばを失っていた。
「いつまで座ってんだ。鮫島もそうだし、石川先生も探さなきゃいけねえんだ。取り敢えず、ここからどうやって出るか考えないとな」
弓永は森永に手を差し出した。森永は最初はその手を見てどういう意図があるのか理解していなかったようだったが、すぐに手を取ってそのまま立ち上がった。
【続く】