【振り向くとキミがいる】
文字数 2,916文字
初恋というモノを覚えているだろうか。
どのツラ提げて初恋とかいってんだコイツは、と思われるかもしれないけど、人間、誰にだって初恋はあると思うのだ。
ただ、それが成就されたか、されてないかはその時々の運にもよると思う。そもそも、初恋なんて、成就するほうが珍しい。
かくいうおれにもそんなモノがあったワケだ。まぁ、なかったら過去の話の中で女性とのやり取りというモノもなかったろうしな。
さて、今日はそんな話だ。ちなみに今回もオチはないーーいつも通りな。語るほどのことも大してない、と思う。んじゃ、やってく。
あれは小学校一年生の時のことだ。
その時はまだ入学したばかりで、右も左もわからないような状態だった。
登校といえば、となり近所の生徒で組まれた班でし、下校となれば、一斉下校ではない限り、同じ学年の同じ学区の人と班を組んで帰るのが通例となっていた。
さて、班ともなると、何人かで組まれたグループのようなモノを想像するかと思うのだけど、おれの場合はーー
女子がひとりいるだけだった。
つまり、おれとその女の子のふたりというワケだ。
いやぁ、これは班というかもはやユニットだよな。ふたりでもバンド、B'zか黒夢かって感じだったよな。まぁ、編成でいったら近年のドリカムのほうが近いかーーどうでもいいわな。
さて、その女の子は、同じ学区ではあるけど、家は少し離れている「ノリエちゃん」という子だった。
ノリエちゃんは髪が短めで、ボーイッシュな感じだったのだけど、寡黙であまり喋るタイプの子ではなかった。
ちなみに、五条氏とはクラスが一緒で、学校が終わると、そのままノリエちゃんと帰路に着く、とそんな感じだった。ちなみに、一応班長はおれ、ということになっていた。班長らしいことは何もしてないんだけどな。
ただ、まだ小学生という時分だったこともあって、女子とふたりきりの下校というのが、とても恥ずかしかった。
他の班は四人以上でワイワイと帰っているというのに、おれの班はおれとノリエちゃんのふたりきり。流石にそんなこととなると、他班のバカガキから冷やかされるのも日常的で、
「わー! 男と女のふたりきり!」
だとか、
「わー! カップルだ、カップルだぁー!」
とか、
「北斗とみぃなぁみぃ~♪」
だとかいわれるワケだ。最後のは、そもそもおれの世代のモノですらないし、特撮が好きじゃないと絶対にわからんよな。
それはさておき、そんな風にいわれるのは、多感な少年としてはすごく恥ずかしかった。そもそも、まだ女性と付き合うなんてことは頭になかったし、そんな風にいわれることが異常だと思っていた頃のことだから余計だった。
まぁ、そんなんだから、おれも帰るときは逃げるように早足で歩いたりしたよな。
だけど、不思議とひとりで勝手に帰るという選択肢はなかった。多分、そういう決まりごとを破ることに抵抗があったのかもしれない。
ただ、おれもそんな風に冷やかされれば、ノリエちゃんもいい気はしなかったろう。だが、ノリエちゃんは不思議とそんなことは気にしてもいないといわんばかりに、いつもおれのうしろに着いて、帰りを共にしていた。
会話なんかひとこともない。ただ、前後に並んでひたすら歩くだけ。おれが前を行き、彼女はひたすらについてくる。
この当時のおれといえば、自己中を絵に描いたようなクソガキだったこともあって、彼女に何かを配慮するなんてことはできなかった。気を利かせたひとこともいえなかったし、優しくすることもできなかった。
だが、ノリエちゃんはそんなおれのうしろにせっせとついてきていた。
ルールだから、といわれればそれまでだと思う。だけど、ノリエちゃんはイヤな顔ひとつせずにおれについてきた。
毎日、ことばを交わすことなく教室で顔を合わせ、放課後になったらことばもなく気づけば合流し、そのまま帰りを共にする。
ノリエちゃんは雨だろうが、台風だろうが、おれのうしろをついてきていた。
そして、おれはいつしかノリエちゃんのことが気になり始めていた。だが、正直になんかなれない。好きかもしれないという感覚はあったけど、だから何って感じだった。まだ付き合うとか、そういうのはわからなかったしな。
ちなみに、彼女とは友人を介して一緒に遊ぶことがあったのだけど、その時も何を話していいものかわからなかった。というか恥ずかしかったんだろうな。
そんな彼女と帰り道を共にするのも二年生まで。三年生になると、何となく気になっていたノリエちゃんと一緒に帰ることもなくなった。
そう、班下校がなくなったのだ。
そうして自由下校が主となり、おれは健太郎くんと一緒に帰るようになり、ノリエちゃんともクラスが離れてしまい、彼女との関わりも節目節目にある区の活動ぐらいしかなくなった。
それから時は経って中一。久しぶりにノリエちゃんと同じクラスになった。彼女は相変わらずのボーイッシュな感じ。だが、制服はブレザーにスカート。一見合わなそうな組み合わせだが、実際はその逆。かなり似合っていた。
ただ、小学校低学年の時と違い、ノリエちゃんはかなりお喋り気質になっていた。
どこかとぼけた調子で話し、引くことのない姿勢の彼女とは随分と口喧嘩みたいなことをしたモンだった。別に大したことじゃなかったんだけど、そうでもしないと会話もできなかったのだ。哀れなガキもいいところ。
さて、それからというモノ、ノリエちゃんとクラスが一緒になることもなく、中学卒業からは特に顔を合わせることもなくなった。
ただ、三~五年前、夏の夕暮れ時のこと。おれはブラストの公演準備を終えて、汗を流すために一旦家に帰ってシャワーを浴び、そのまま稽古に行くことにしたのだ。
ただ、夕飯を食っていないこともあって、どこかで腹を満たさなければならなかった。
が、ちょうどその日は区の祭りをやっていて、おれはそこにある焼そばや何かの出店で腹ごしらえをしようと区の公民館へ行ったのだ。
そこで、おれは焼そばやフランクフルトを買って食った。腹ごしらえはこんなもん。そのまま稽古に向かっても良かったのだが、せっかくの祭りということもあって、かき氷でも食おうと出店に並んだのだ。そしたらーー
ノリエちゃんがいたのだ。
ボーイッシュなショートヘアーも、大人になってセミロングになっていたが、そんなセミロングのノリエちゃんも随分と可愛かった。
が、声は掛けられなかった。
声を掛けるには時間が開き過ぎていたし、何を話せばいいかもわからなかった。それに彼女がおれのことを覚えているとも思っていなかった。会計の時に目は合ったけど、それだけだ。
それっきり、ノリエちゃんとは会っていない。ちなみに、同窓会にも来ていないとのことだ。彼女のその後を知っている人は、おれの周りにはいないけど、きっと今頃は結婚して幸せにやっていることだろう。
と、つい最近、女子大生に初恋の話を訊かれて、不意にそんなことを思い出したワケだ。でも、何だか懐かしくなると同時に、寂寥感が込み上げてくるんだよな。
結局、成就はしなかったからな。
アスタラビスタ。
どのツラ提げて初恋とかいってんだコイツは、と思われるかもしれないけど、人間、誰にだって初恋はあると思うのだ。
ただ、それが成就されたか、されてないかはその時々の運にもよると思う。そもそも、初恋なんて、成就するほうが珍しい。
かくいうおれにもそんなモノがあったワケだ。まぁ、なかったら過去の話の中で女性とのやり取りというモノもなかったろうしな。
さて、今日はそんな話だ。ちなみに今回もオチはないーーいつも通りな。語るほどのことも大してない、と思う。んじゃ、やってく。
あれは小学校一年生の時のことだ。
その時はまだ入学したばかりで、右も左もわからないような状態だった。
登校といえば、となり近所の生徒で組まれた班でし、下校となれば、一斉下校ではない限り、同じ学年の同じ学区の人と班を組んで帰るのが通例となっていた。
さて、班ともなると、何人かで組まれたグループのようなモノを想像するかと思うのだけど、おれの場合はーー
女子がひとりいるだけだった。
つまり、おれとその女の子のふたりというワケだ。
いやぁ、これは班というかもはやユニットだよな。ふたりでもバンド、B'zか黒夢かって感じだったよな。まぁ、編成でいったら近年のドリカムのほうが近いかーーどうでもいいわな。
さて、その女の子は、同じ学区ではあるけど、家は少し離れている「ノリエちゃん」という子だった。
ノリエちゃんは髪が短めで、ボーイッシュな感じだったのだけど、寡黙であまり喋るタイプの子ではなかった。
ちなみに、五条氏とはクラスが一緒で、学校が終わると、そのままノリエちゃんと帰路に着く、とそんな感じだった。ちなみに、一応班長はおれ、ということになっていた。班長らしいことは何もしてないんだけどな。
ただ、まだ小学生という時分だったこともあって、女子とふたりきりの下校というのが、とても恥ずかしかった。
他の班は四人以上でワイワイと帰っているというのに、おれの班はおれとノリエちゃんのふたりきり。流石にそんなこととなると、他班のバカガキから冷やかされるのも日常的で、
「わー! 男と女のふたりきり!」
だとか、
「わー! カップルだ、カップルだぁー!」
とか、
「北斗とみぃなぁみぃ~♪」
だとかいわれるワケだ。最後のは、そもそもおれの世代のモノですらないし、特撮が好きじゃないと絶対にわからんよな。
それはさておき、そんな風にいわれるのは、多感な少年としてはすごく恥ずかしかった。そもそも、まだ女性と付き合うなんてことは頭になかったし、そんな風にいわれることが異常だと思っていた頃のことだから余計だった。
まぁ、そんなんだから、おれも帰るときは逃げるように早足で歩いたりしたよな。
だけど、不思議とひとりで勝手に帰るという選択肢はなかった。多分、そういう決まりごとを破ることに抵抗があったのかもしれない。
ただ、おれもそんな風に冷やかされれば、ノリエちゃんもいい気はしなかったろう。だが、ノリエちゃんは不思議とそんなことは気にしてもいないといわんばかりに、いつもおれのうしろに着いて、帰りを共にしていた。
会話なんかひとこともない。ただ、前後に並んでひたすら歩くだけ。おれが前を行き、彼女はひたすらについてくる。
この当時のおれといえば、自己中を絵に描いたようなクソガキだったこともあって、彼女に何かを配慮するなんてことはできなかった。気を利かせたひとこともいえなかったし、優しくすることもできなかった。
だが、ノリエちゃんはそんなおれのうしろにせっせとついてきていた。
ルールだから、といわれればそれまでだと思う。だけど、ノリエちゃんはイヤな顔ひとつせずにおれについてきた。
毎日、ことばを交わすことなく教室で顔を合わせ、放課後になったらことばもなく気づけば合流し、そのまま帰りを共にする。
ノリエちゃんは雨だろうが、台風だろうが、おれのうしろをついてきていた。
そして、おれはいつしかノリエちゃんのことが気になり始めていた。だが、正直になんかなれない。好きかもしれないという感覚はあったけど、だから何って感じだった。まだ付き合うとか、そういうのはわからなかったしな。
ちなみに、彼女とは友人を介して一緒に遊ぶことがあったのだけど、その時も何を話していいものかわからなかった。というか恥ずかしかったんだろうな。
そんな彼女と帰り道を共にするのも二年生まで。三年生になると、何となく気になっていたノリエちゃんと一緒に帰ることもなくなった。
そう、班下校がなくなったのだ。
そうして自由下校が主となり、おれは健太郎くんと一緒に帰るようになり、ノリエちゃんともクラスが離れてしまい、彼女との関わりも節目節目にある区の活動ぐらいしかなくなった。
それから時は経って中一。久しぶりにノリエちゃんと同じクラスになった。彼女は相変わらずのボーイッシュな感じ。だが、制服はブレザーにスカート。一見合わなそうな組み合わせだが、実際はその逆。かなり似合っていた。
ただ、小学校低学年の時と違い、ノリエちゃんはかなりお喋り気質になっていた。
どこかとぼけた調子で話し、引くことのない姿勢の彼女とは随分と口喧嘩みたいなことをしたモンだった。別に大したことじゃなかったんだけど、そうでもしないと会話もできなかったのだ。哀れなガキもいいところ。
さて、それからというモノ、ノリエちゃんとクラスが一緒になることもなく、中学卒業からは特に顔を合わせることもなくなった。
ただ、三~五年前、夏の夕暮れ時のこと。おれはブラストの公演準備を終えて、汗を流すために一旦家に帰ってシャワーを浴び、そのまま稽古に行くことにしたのだ。
ただ、夕飯を食っていないこともあって、どこかで腹を満たさなければならなかった。
が、ちょうどその日は区の祭りをやっていて、おれはそこにある焼そばや何かの出店で腹ごしらえをしようと区の公民館へ行ったのだ。
そこで、おれは焼そばやフランクフルトを買って食った。腹ごしらえはこんなもん。そのまま稽古に向かっても良かったのだが、せっかくの祭りということもあって、かき氷でも食おうと出店に並んだのだ。そしたらーー
ノリエちゃんがいたのだ。
ボーイッシュなショートヘアーも、大人になってセミロングになっていたが、そんなセミロングのノリエちゃんも随分と可愛かった。
が、声は掛けられなかった。
声を掛けるには時間が開き過ぎていたし、何を話せばいいかもわからなかった。それに彼女がおれのことを覚えているとも思っていなかった。会計の時に目は合ったけど、それだけだ。
それっきり、ノリエちゃんとは会っていない。ちなみに、同窓会にも来ていないとのことだ。彼女のその後を知っている人は、おれの周りにはいないけど、きっと今頃は結婚して幸せにやっていることだろう。
と、つい最近、女子大生に初恋の話を訊かれて、不意にそんなことを思い出したワケだ。でも、何だか懐かしくなると同時に、寂寥感が込み上げてくるんだよな。
結局、成就はしなかったからな。
アスタラビスタ。