【帝王霊~百拾弐~】
文字数 774文字
詩織を抱き締めてうなだれるお兄さんの姿は見た目のいかつさに反して弱々しかった。
きっと、本当に妹のことを愛していたのだろう。考えてみれば、あたしだってヤエが同じような目に遭わされたならば、発狂して自分がどうなろうと犯人を殺すまで追い続けるだろう。どうしようもない姉だけど、あたしにとってはたったひとりの肉親で、ウンザリすることもあるけれど、やっぱり大好きだから。
「詩織はーー」あたしが口を開くと、みんなの視線があたしの元に集まった。「すごく純粋で、いつだって笑顔を絶やさないステキな子だった。何処までも真っ直ぐで、そこが逆に鬱陶しいこともなくはなかったけど、でも、そんな彼女があたしはすごく好きだった」
自分でも何といっていいかわからなかった。きっと、お兄さんの気持ちを少しでも楽にしてあげたいと思って口を開いたのだろうけど、自分でも考えてことばを選びながら喋っているのがわかった。
お兄さんの目は真っ赤に充血していた。充血した目はいうまでもなく潤んでおり、涙も溢れていた。だが、あたしを見詰めるその目は何処までも澄みきっていた。あたしは更に続けた。
「だから......、詩織が何で死ななきゃならないんだって、本当にムカついてくる。あの成松って男はそもそもあたしを狙ってた。それに巻き込まれて詩織は死んだ。いうなれば詩織を殺してしまったのはあたしだ。本当に、ごめんなさい......」
「んなことないだろ」弓永くんがピシャリといった。「武井がへまして詩織さんが死んだワケじゃない。成松に関していえば、武井はもちろんだが、おれも少なからず関わってはいる。そして、この女だ」
弓永くんは佐野を指差した。佐野は珍しく笑っておらず、表情が固かった。
「さて、そろそろ色々と話して貰おうか、佐野めぐみーー背面観察さん」
背面観察、あたしは耳を傾けた。
【続く】
きっと、本当に妹のことを愛していたのだろう。考えてみれば、あたしだってヤエが同じような目に遭わされたならば、発狂して自分がどうなろうと犯人を殺すまで追い続けるだろう。どうしようもない姉だけど、あたしにとってはたったひとりの肉親で、ウンザリすることもあるけれど、やっぱり大好きだから。
「詩織はーー」あたしが口を開くと、みんなの視線があたしの元に集まった。「すごく純粋で、いつだって笑顔を絶やさないステキな子だった。何処までも真っ直ぐで、そこが逆に鬱陶しいこともなくはなかったけど、でも、そんな彼女があたしはすごく好きだった」
自分でも何といっていいかわからなかった。きっと、お兄さんの気持ちを少しでも楽にしてあげたいと思って口を開いたのだろうけど、自分でも考えてことばを選びながら喋っているのがわかった。
お兄さんの目は真っ赤に充血していた。充血した目はいうまでもなく潤んでおり、涙も溢れていた。だが、あたしを見詰めるその目は何処までも澄みきっていた。あたしは更に続けた。
「だから......、詩織が何で死ななきゃならないんだって、本当にムカついてくる。あの成松って男はそもそもあたしを狙ってた。それに巻き込まれて詩織は死んだ。いうなれば詩織を殺してしまったのはあたしだ。本当に、ごめんなさい......」
「んなことないだろ」弓永くんがピシャリといった。「武井がへまして詩織さんが死んだワケじゃない。成松に関していえば、武井はもちろんだが、おれも少なからず関わってはいる。そして、この女だ」
弓永くんは佐野を指差した。佐野は珍しく笑っておらず、表情が固かった。
「さて、そろそろ色々と話して貰おうか、佐野めぐみーー背面観察さん」
背面観察、あたしは耳を傾けた。
【続く】