【ナナフシギ~参拾漆~】

文字数 1,025文字

 まるで巨大な蜘蛛の巣のような部屋。

 その真ん中には身体中を粘着する糸に巻かれている少年の姿があった。暗いせいもあって顔色はしっかりとは伺えないが、懐中電灯の強力な白色光で確かめたところでは、青白い顔をしているのがわかった。

 死んでいるのだろうか。いや、よく見ると腹部が膨らみ萎みを繰り返していた。岩渕は何の恐れも見せることなく少年の元へと歩み寄ると、少年の口許に耳を近づけた。

 確かに息はあった。

 呼吸はちゃんとあった。まだ生きている。岩渕はつまらなそうな顔をして少年の口許から身体を離した。それからあちこちへと目と首を向けた。岩渕はデスクの上にあるファイルを手に取ると、それで糸を叩いた。

 と、ファイルは見事にくっついてしまった。糸はとてつもない粘着力、オマケに大層な弾力を持っていた。衝撃をさもなかったかのように無にしてしまうほどに糸はたわんだ。

 蜘蛛の糸は鉛筆ほどの太さがあれば飛んでいる旅客機を捕らえることが出来るほどに頑丈だといわれている。だが、そんなのは所詮イフ、仮の話でしかなく、現実にはそんな太さの蜘蛛の糸など存在しない。

 だが、岩渕が見る限り、その糸は間違いなく鉛筆ほどの太さを持っていた。だとしたら、それを叩き切ろうなどというのは無理な話でしかない。

 岩渕はデスクや棚を漁った。と、棚の中にビニール製の手袋を見つけると、それを埃を払って手にはめた。それから、懐からキャンプ用の鋭いナイフを取り出すと、その刃で糸を切ろうとした。

 鈍い感触。切りづらさはあった。余程頑丈なのだろう。だが、少しずつではあるが、刃は糸へと食い込んでいった。一本を切り終えるのに二分ほど掛かった。岩渕は細目な糸を優先的に切った。と、ナイフの平は糸の粘着でベチャベチャになってしまっていた。ここから出たらまずもう使いモノにはならないだろう。岩渕は凍りついた目でナイフを見、糸で繋がれていた少年を見た。

 少年を拘束していた糸はすべて切りほどかれていた。岩渕はナイフをデスクに置こうとした。が、ナイフは手をはなれなかった。糸の粘着で、握ったままの状態で手袋とナイフが固定されてしまっていた。

 岩渕は何とかナイフのくっついた手袋を外し新しい手袋に変えると、糸から解放された少年をゆっくりと引き寄せた。

 少年が目を覚ます気配はなかった。何度か頬を叩いてやると少年はゆっくりと目を覚ました。

「誰......?」少年はいった。

「ただの男ですよ」岩渕がいった。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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