【帝王霊~死拾捌~】

文字数 1,317文字

 目が回るような感覚、多分疲れているのかもしれない。

 それもそうだろう。いくら自分を見失うような暴挙に出たからといって、自分を見失うのは一瞬だ。怒りのエネルギーはとてつもなく大きくて長続きはしない。当たり前だが、学校から出た時点で、ぼくは完全に正気に戻っていた。でも、後戻りは出来ず、ぼくは怒りを引き摺っている振りをした。

 でも、それも関口にはバレバレだったに違いない。でなければ、あんな風にぼくのところまでやって来て、あんなことをいったというのは、まずぼくが怒りを引き摺っていないとわかっていたからだろう。

 いや、それともぼくが怒りを引き摺っていようと、制圧できるという自信から来る余裕だったのだろうか。

 確かに、感情のままに関口に殴り掛かったところで、勝てはしないだろう。あんなにも運動能力に優れ、動体視力に優れ、合気の技能に優れた関口なら、ぼくを制圧するなど朝飯前だろう。そして、下手したらーー

 しかし、これで本当に良かったのだろうか。

 確かに野崎は集団で片山さんをイビり、詰った。だが、だからといって武力でそれを解決しようというのは間違っていたのではないか。考えれば考えるほどにドツボにハマって行く。

 この世の中、肉体的な暴力は御法度ながら、精神的な暴力は公然と許されている。もちろん、推奨されてはいないし、むしろ忌避され弾圧されるべきモノとされてはいるけれど、だとしても精神的な暴力は何処を見ても存在し、まかり通っているのが現実だ。

 恐らく、これはもはや解決など出来ることではないのだろう。

 人間は遺伝子レベルで他者よりも優れていたいと願うモノだ。それはスポーツだったり、勉強だったり、はたまだ芸術だったりと様々である。そして、何も持たない、あるとして中途半端な力や地位を持ってしまった者が自分の優位性を示すためにするのが、イジメなのだと思う。

 考えてみれば、野崎だってそうだ。あの女には中途半端な能力と地位、何となくの容姿の良さと地位の確立のためだけに集った金魚のフンがいるだけで、野崎自身は勉強も運動も、芸術も何もかもがダメで、これといった趣味や特技もないと来ている。だからこそ、自分の優位性を保つためにも、いかにも弱そうに見える片山さんを狙って自分の地位が高いモノだと錯覚させたいのだろう。

 ......下らない。

 内省的になったところで現実は常に動いている。ぼくはその現実と向き合わなければならない。ぼくはスマホに目を通す。田宮、辻、和田、海野に山路、みんなが心配のメッセージを送ってくれている。

 だが、春奈からのメッセージはない。

 ぼくは少しばかり落胆した。そして、突然電話が鳴る。電話の主はヤエちゃんだ。きっと野崎のことでの電話だろう。ぼくは大きく一回息を吐いて通話ボタンをスライドさせたーー

「もしもしシンちゃん!?」

 ヤエちゃんは焦っているようだった。野崎との一件がそこまで大事になっている、ということなのか。いや、にしては危急というか、何かそれ以上の緊急事態が起きてしまったとでもいわんばかりだった。

「どうしたの?」ぼくは呆気に取られながらいう。

 ヤエちゃんのことばを聴いて、ぼくはことばを失った。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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