【ナナフシギ~死拾~】
文字数 1,113文字
ワケのわからないことばかりだったろう。
そう思っているのは清水の表情に明確に表れていた。蜘蛛の糸にまみれた顔を引きつらせ、岩渕のほうを見ていた。
「おじさん、鈴木のこと知ってるの?」
岩渕はニヤリと笑った。
「ということはキミは祐太朗様のことをご存知ということで?」
「え?」清水はたじろいだ。「......いや、別に仲良くなんかないけどさ。アイツ、霊感があるとか適当なこといって、夜の学校がヤバいとかいっておれたちに着いてこようとしねえから、ウソつきだって」
「ウソつき、ですか」強調するようにして岩渕はいった。「で、実際の夜の学校はどんなところでしたか?」
そう訊かれて清水は黙ってしまった。黙らざるを得なかったのだろう。すべては祐太朗のいう通りだったのだから。ナメていたのは自分たちだった。が、その結果がこのザマとなると、もはやことばは出て来ないだろう。
「如何なさいました?」
岩渕の問い掛けが皮肉に響いた。清水は下を向いて力なく棒立ちになっていた。だが、そんな少年に対して、岩渕はわざと大きく屈み込んで俯く清水の顔を覗き込んだ。
「黙っているだけでは何もわかりませんよ」
だが、こんなんで清水がまともに話を切り出せるワケがなかった。沈黙は不気味に辺りを漂っていた。岩渕は軽くため息をつくとゆっくりと立ち上がった。それからただうなだれる清水をゴミを見るような冷たい目で眺めると、突然清水の髪を掴んで無理矢理顔を上げさせ、左頬に思い切り平手を食らわせた。
清水は勢い良くその場に倒れ込んだ。打たれた左頬を擦りながら見上げる岩渕はまるで人間でないようだった。不気味な笑みは絶対零度の真顔に変わっていた。
「大人をナメんなよ」
清水は口元をわななかせて全身を震わせた。
突然、風が立った。かと思いきや不気味な呻き声が聴こえた。清水が声のしたほうへと目をやると、そこには両目が陥没し、皮膚が真っ黒になった怨霊がいた。怨霊は今まさに岩渕へと飛び掛かろうとしていた。危ない、と清水が叫んだ。
当然、霞のように怨霊は消えた。更なる苦痛に苛まれたような呻き声を上げながら。
「地獄に堕ちろ」
岩渕は怨霊のほうを見ることなく、ただ、右手を横に伸ばしていた。その声に朗らかさは皆無だった。沈黙がやって来た。岩渕は再び笑みを浮かべると、ゆっくりと清水のほうへとにじり寄って行った。清水は尻餅をついたまま無意識かうしろへと下がって行った。
岩渕がパッと手を出した。
清水はギュッと目を閉じた。
何もない。
清水がゆっくりと目を開けると、そこには手を差し伸べている岩渕の姿があった。
「さぁ、行きましょうか」
まるで地獄で仏が微笑んでいるようだった。
【続く】
そう思っているのは清水の表情に明確に表れていた。蜘蛛の糸にまみれた顔を引きつらせ、岩渕のほうを見ていた。
「おじさん、鈴木のこと知ってるの?」
岩渕はニヤリと笑った。
「ということはキミは祐太朗様のことをご存知ということで?」
「え?」清水はたじろいだ。「......いや、別に仲良くなんかないけどさ。アイツ、霊感があるとか適当なこといって、夜の学校がヤバいとかいっておれたちに着いてこようとしねえから、ウソつきだって」
「ウソつき、ですか」強調するようにして岩渕はいった。「で、実際の夜の学校はどんなところでしたか?」
そう訊かれて清水は黙ってしまった。黙らざるを得なかったのだろう。すべては祐太朗のいう通りだったのだから。ナメていたのは自分たちだった。が、その結果がこのザマとなると、もはやことばは出て来ないだろう。
「如何なさいました?」
岩渕の問い掛けが皮肉に響いた。清水は下を向いて力なく棒立ちになっていた。だが、そんな少年に対して、岩渕はわざと大きく屈み込んで俯く清水の顔を覗き込んだ。
「黙っているだけでは何もわかりませんよ」
だが、こんなんで清水がまともに話を切り出せるワケがなかった。沈黙は不気味に辺りを漂っていた。岩渕は軽くため息をつくとゆっくりと立ち上がった。それからただうなだれる清水をゴミを見るような冷たい目で眺めると、突然清水の髪を掴んで無理矢理顔を上げさせ、左頬に思い切り平手を食らわせた。
清水は勢い良くその場に倒れ込んだ。打たれた左頬を擦りながら見上げる岩渕はまるで人間でないようだった。不気味な笑みは絶対零度の真顔に変わっていた。
「大人をナメんなよ」
清水は口元をわななかせて全身を震わせた。
突然、風が立った。かと思いきや不気味な呻き声が聴こえた。清水が声のしたほうへと目をやると、そこには両目が陥没し、皮膚が真っ黒になった怨霊がいた。怨霊は今まさに岩渕へと飛び掛かろうとしていた。危ない、と清水が叫んだ。
当然、霞のように怨霊は消えた。更なる苦痛に苛まれたような呻き声を上げながら。
「地獄に堕ちろ」
岩渕は怨霊のほうを見ることなく、ただ、右手を横に伸ばしていた。その声に朗らかさは皆無だった。沈黙がやって来た。岩渕は再び笑みを浮かべると、ゆっくりと清水のほうへとにじり寄って行った。清水は尻餅をついたまま無意識かうしろへと下がって行った。
岩渕がパッと手を出した。
清水はギュッと目を閉じた。
何もない。
清水がゆっくりと目を開けると、そこには手を差し伸べている岩渕の姿があった。
「さぁ、行きましょうか」
まるで地獄で仏が微笑んでいるようだった。
【続く】