【帝王霊~死拾伍~】
文字数 1,450文字
「何であんなことしたの?」
特に厳しい口調でもなく、ただ好奇心からそう訊ねているといわんばかりの声がぼくの耳に鳴り響く。
川澄のストリート。学校も終わり下校中のことだった。ホームルームを終え、クラスをいちばん最初に飛び出したはずなのに、どういうワケか、ぼくの帰り道にて関口が待っていたのだった。
ぼくは関口のことを無視して行こうとしたが、関口は案の定というか、何かを楽しんでいるかのような笑みを浮かべてぼくに声を掛けてきた。
「シカトしないでよ」
ぼくは止まることなく歩き続けた。かと思いきや、気づけば関口はぼくのとなりで並んで歩いていた。それから世間話じみた取るに足らない話を二、三してきたが、ぼくはそれを全部無視した。
そして、冒頭の質問である。
恐らく、関口としてもぼくに気を使って単刀直入な質問を避けたのだろうが、そんな優しさは今のぼくには必要なかった。それにぼくは核心を突いた質問にも答えるつもりなど毛頭なかった。
「確かに、野崎さんは目障りだよね。でも、殴ったところで立場を悪くするのはキミひとりなんだから。何のメリットもない」
ぼくは依然として関口の話を無視し続ける。
突如、腕を捕まれた。
返した左手で右手を包み込むような、特徴的な掴み方だ。ぼくは咄嗟に身をかわし、関口のほうへ入り身して一気に近づく。ぼくと関口の顔と顔、その距離が10~20センチほどまで近づいている。関口は笑う。
「さすがにヤワな鍛え方はしてないね」
「何のつもりだ」
ぼくは漸く口を開くーーというより、関口によって開かされたといったほうが正しいのかもしれない。関口は勝ち誇ったようにいう。
「だって、キミがぼくとの友人同士の会話をしてくれないからさ」
「友人同士? 頭に妖精でも飼ってるのか?」
「残念だけど、ぼくはリアリストでねえ。妖精も宇宙人も、サイキックもスピリチュアルも霊能力も信じてないんだ」
「それは良かったな。でも、霊能力はこの世に存在するかもしれねえぞ」
「キミの悪いところだね。フィクションに憧れを持ちすぎている。残念だけど、この世の中はフィクションのようにロマンもなければ、シャーロック・ホームズもいないし、ジェームズ・ボンドもハリー・ポッターもいないんだよ」
「余計なお世話だ。それに、おれが野崎を殴ったのは、単純にムカついたからだ。雑魚同士で群がって、自分より下だと見なした相手をなぶることしか出来ないヤツは、一度力を見せてやるだけで簡単に怯む」
「だけどね、下層階級こそ支配者を殺すのもまた事実なんだよ。愚民は属するコミュニティを自ら貶めることを平気でする。気づけば、評判は痩せ細り、枯れ枝のようにポッキリと折れてしまうんだよ。野崎さんはいうまでもなく下賤だけど、下賤なヤツラが集えば、美しいひまわり畑もゴミだらけになる。キミはもう少しそういうことを考えたほうがいいかもしれない」
余計なお世話もいいところだ。ぼくは、上流層であり、クラスの『支配者』であるキング関口の話をうるせえと一蹴する。
「......まぁ、いいんだけどね。こんなことでぼくはキミを嫌いにはならないし、助けが必要ならいつでもいってくれれば手を貸すよ」
そんなモノはいらない。そういおうとすると、関口はぼくの肩越しを見てフッと笑うと踵を返した。
「何があっても離れない天使がいることに、感謝したほうがいいかもね」
関口にその意味を訊ねるも、関口はそのまま去っていってしまった。ぼくはイラ立ちながらも、うしろを振り返る。
春奈がいた。
【続く】
特に厳しい口調でもなく、ただ好奇心からそう訊ねているといわんばかりの声がぼくの耳に鳴り響く。
川澄のストリート。学校も終わり下校中のことだった。ホームルームを終え、クラスをいちばん最初に飛び出したはずなのに、どういうワケか、ぼくの帰り道にて関口が待っていたのだった。
ぼくは関口のことを無視して行こうとしたが、関口は案の定というか、何かを楽しんでいるかのような笑みを浮かべてぼくに声を掛けてきた。
「シカトしないでよ」
ぼくは止まることなく歩き続けた。かと思いきや、気づけば関口はぼくのとなりで並んで歩いていた。それから世間話じみた取るに足らない話を二、三してきたが、ぼくはそれを全部無視した。
そして、冒頭の質問である。
恐らく、関口としてもぼくに気を使って単刀直入な質問を避けたのだろうが、そんな優しさは今のぼくには必要なかった。それにぼくは核心を突いた質問にも答えるつもりなど毛頭なかった。
「確かに、野崎さんは目障りだよね。でも、殴ったところで立場を悪くするのはキミひとりなんだから。何のメリットもない」
ぼくは依然として関口の話を無視し続ける。
突如、腕を捕まれた。
返した左手で右手を包み込むような、特徴的な掴み方だ。ぼくは咄嗟に身をかわし、関口のほうへ入り身して一気に近づく。ぼくと関口の顔と顔、その距離が10~20センチほどまで近づいている。関口は笑う。
「さすがにヤワな鍛え方はしてないね」
「何のつもりだ」
ぼくは漸く口を開くーーというより、関口によって開かされたといったほうが正しいのかもしれない。関口は勝ち誇ったようにいう。
「だって、キミがぼくとの友人同士の会話をしてくれないからさ」
「友人同士? 頭に妖精でも飼ってるのか?」
「残念だけど、ぼくはリアリストでねえ。妖精も宇宙人も、サイキックもスピリチュアルも霊能力も信じてないんだ」
「それは良かったな。でも、霊能力はこの世に存在するかもしれねえぞ」
「キミの悪いところだね。フィクションに憧れを持ちすぎている。残念だけど、この世の中はフィクションのようにロマンもなければ、シャーロック・ホームズもいないし、ジェームズ・ボンドもハリー・ポッターもいないんだよ」
「余計なお世話だ。それに、おれが野崎を殴ったのは、単純にムカついたからだ。雑魚同士で群がって、自分より下だと見なした相手をなぶることしか出来ないヤツは、一度力を見せてやるだけで簡単に怯む」
「だけどね、下層階級こそ支配者を殺すのもまた事実なんだよ。愚民は属するコミュニティを自ら貶めることを平気でする。気づけば、評判は痩せ細り、枯れ枝のようにポッキリと折れてしまうんだよ。野崎さんはいうまでもなく下賤だけど、下賤なヤツラが集えば、美しいひまわり畑もゴミだらけになる。キミはもう少しそういうことを考えたほうがいいかもしれない」
余計なお世話もいいところだ。ぼくは、上流層であり、クラスの『支配者』であるキング関口の話をうるせえと一蹴する。
「......まぁ、いいんだけどね。こんなことでぼくはキミを嫌いにはならないし、助けが必要ならいつでもいってくれれば手を貸すよ」
そんなモノはいらない。そういおうとすると、関口はぼくの肩越しを見てフッと笑うと踵を返した。
「何があっても離れない天使がいることに、感謝したほうがいいかもね」
関口にその意味を訊ねるも、関口はそのまま去っていってしまった。ぼくはイラ立ちながらも、うしろを振り返る。
春奈がいた。
【続く】