【冷たい墓石で鬼は泣く~玖拾壱~】

文字数 796文字

 疑念は募る一方だった。

 又蔵の引き釣った表情は彼の中で募る疑念を象徴しているようだった。現実から目を叛けたようなヘラヘラした笑みは凍り付き、今では目の前にあるかもしれない死を目の当たりにするような恐怖感と対峙するようだった。

「貴様の仲間は弓を持ってるか?」

 寅三郎は小声で又蔵に訊ねた。又蔵はハッとして寅三郎のほうを振り返った。そして、何か勝ち筋を見つけたようにヘラヘラした笑みを甦らせていった。

「そうだ、ある。いくつか、な。弓があればおれに当てずにテメェだけを狙い撃ちだ。どうだ、今なら何とかーー」

「いくつか、か」寅三郎は嘲笑するようにフッと声を上げた。「だとしたら、最悪だな」

「あぁ、テメェなんか余裕で」

「死んでしまうな、貴様も」

 貴様も。そのひとことが又蔵の中で響いたのはいうまでもなかった。目は見開かれ、口許の笑みは歪みに変わっていた。

「......どういうことだ?」

「どうもこうもないだろう。弓がふたつ以上あれば一度に、あるいは連続で二発以上撃てるってことになる。だが、この夜闇の中で身を隠したわたしを撃ち抜くのは手練れでも難しい。況してや貴様らはぐれ者の腕前など想像はつくし、一発でわたしに当てるのは難しくなる。となると、どうなる?」

 又蔵は答えるのを拒否するかのように口を震わせた。それは今考えていることが現実にならないことを切実に願っているのを象徴しているようだった。黙る又蔵に寅三郎は更に続けていったーー

「何発もの矢を撃つ。そうすれば、わたしに一発は当たるだろう。仮に二発しかないなら、確実にわたしを仕留めるためには、邪魔な壁を壊さなければならない。それはつまり、貴様を犠牲にする。最初に貴様を撃って倒れたところを確実にわたしを狙う。これが一番だろう。ほら、見るんだーー」

 寅三郎が前を見るように促すと、又蔵はそちらに目を凝らした。

 弓がふたつ、牙を剥いていた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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