【帝王霊~百拾伍~】

文字数 691文字

 殆ど無意識だった。

 あたしは気づけばお兄さんの肩に手を掛けていた。お兄さんは一瞬歩みを止めてあたしのほうを見たが、すぐに肩であたしの手を払い再び佐野のほうに向かって行こうとした。

「やめて!」

 あたしは声を上げながら、再びお兄さんの肩に手を掛けていた。

「離せ」

 まるで凍りついた鉄のような声だった。生気がなく、今すぐにでも人を殺さんとするような絶対零度の目付きと態度。かつて、あたしはこんな目を見たことがある。殺人犯が「仕事」を犯そうとする時の虚ろで生気が感じられない目。だが、お兄さんの目は、あたしが見てきたどの殺人者の目よりも冷酷さと残忍さ、殺すことへの躊躇いのなさを感じた。正直、彼に睨まれた瞬間、背筋に悪寒が走った。だが、引けなかった。

「......ここであなたがこの女を殺せば、あたしはあなたを見過ごすことが出来なくなる」

 ごくりと唾を飲み込みようやく出せたことば。端々にあたしが恐怖を感じていることが表れていたに違いない。怖い。こんなに怖い人は初めてだった。

「構わねえよ」お兄さんはいった。「そしたら、テメェも殺せばいいだけだから」

 まるで散歩にでも行こうかとでもいわんばかりに平然とお兄さんはそういった。恫喝や意図的に声色を変える脅しは基本的にハッタリでしかなく、本当にそうする度胸なんてないのが殆どだ。だが、お兄さんはそういったハッタリ的なことをするどころか、自然とそういっていた。間違いなく人を殺し慣れている人間のトーンだった。

 あたしは口をきゅっと結んだまま、お兄さんのことを見詰め続けた。お兄さんの目はブラックホールのようにあたしを見詰め返していた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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