【帝王霊~百弐拾参~】

文字数 662文字

 混濁する意識は幻覚を見せる。

 ありもしなかった幻影が、さも存在したかのように記憶に張り付いてウソをホントのように思わせる。そもそも、そんな時に言及される幻覚、幻影は現実的にあり得ないようなモノが殆どなのだが、時にそれは妙な現実味をもって現れることがある。

「はぁ?」弓永が呆れたようにいう。「こんなとこにいるのはイカレた男に捕まった女がふたりに、それを追って来た男がふたりがいいとこだろ」

 その通り。そもそもが、成松に用がなければこんな廃墟のビルに入り込む理由はない。せいぜい肝試しをしに来た若者ぐらいだろうが、このビル自体、肝試しのスポットとして知られているワケではないこともあって、郊外に立つただの廃ビル程度の認識でしかないのはいうまでもなかった。

 だが、祐太朗は納得出来なかったようだった。確かに聴こえたのだ。自分が気絶する直前に聞き覚えのある声が。アレはーー

「まさか......!」祐太朗は目を見開いた。「......いや、でも、何で」

 ひとりごとのように祐太朗はいった。それを見ていた弓永はハッと鼻で笑っていった。

「どうした、とうとうイカレちまったか」

「いや、イカレちゃいねえよ」

 弓永の軽口をいつも軽口で返す祐太朗が珍しく普通の返答をしたことに、弓永も違和感があったようだった。これには弓永も真摯に対応するしかなかったようだった。

「......どういうことだよ?」

 しかし、祐太朗は話をしようとはしなかった。軽く話せないくらいには都合が悪い話のようにも思えた。弓永が改めて訊く。

「おい、どうしたんだよ」

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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