【冷たい墓石で鬼は泣く~玖拾死~】

文字数 600文字

 心の臓が止まる音はとても小さかった。

 一瞬、まわりのすべての音が消えたような気がした。わたしはふと自分が死んだのかと錯覚した。しかし、痛むところは何処もなかった。わたしが一瞬目にしたのは、賊の射手ひとりが矢を放つところだった。それに合わせて又蔵は動かなくなった。

 わたしは又蔵に何の声も掛けなかった。それよりも先に又蔵が口を開いたからだった。又蔵は具体的なことばは発っさずに呻き声のような低くてその場全体に響くような声を上げた。それでわかった。

 わたしは咄嗟に又蔵の背後にしっかりとくっついた。微かに視線を落とすと、そこには又蔵の胸に刺さった一本の矢。やはり、か。結局この男はヤツラにとっては使い捨ての道具にすぎなかったらしい。しかし、ここはもう幾ばくかすれば殺し合いの場と化すのはわかっていた。わたしには又蔵に同情する気持ちはなかった。

 そのまま又蔵を盾に、刀を又蔵の身体で隠しつつ地面に刺すと懐から手裏剣を抜き出した。一本を投げた。矢を放っていないほうの射手の首もとに刺さった。急に緩んだ矢は制御を失い飛んだ。又蔵の身体に衝撃があった。もうひとりの射手は手裏剣で喉を刺された仲間を目にして慌てて矢の準備をしようとした。すかさず手裏剣を投げた。もうひとりの射手の目を捉えた。

 これで、遠くから狙ってくる者は仕留めたーーわたしの目で見えている分は。

 賊の手下たちが刀を抜いた。

 始まった。

 【続く】
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み