【藪医者放浪記~百伍~】

文字数 550文字

 待っていたのは地獄だった。

 何もないという虚ろな地獄。仇を討ってしまった後に残ったのは、もはや何の目標もなく、脱け殻になったカラクリ人形のような源之助の姿だけだった。

 取り敢えずはもう旅をする必要もなくなっていたこともあって、源之助は川越に戻った。が、十年して戻った川越は変わっていないようで変わってしまっていた。父の開いていた道場はすっかりもぬけの殻となっていた。というより、道場は潰されて更地となっていて、跡形もなくなっていた。猿田家も同様だった。それなりに大きかった屋敷は取り潰され、何もなくなっていた。母上がまだ住んでいたはずだったが、近隣の者に訊ねてみると、猿田の母上はーー

「いつの間にかいなくなって、今では夜鷹になっている」

 とのことだった。新河岸川をはじめ、源之助は夜鷹の出そうな場所を探し回ったが、母上らしき者は何処にもいなかった。

 源之助はひとりになってしまった。

 かといって、今更別の街に行く気もなく、川越の街を亡霊のように徘徊した。そして、死ぬことにした。だが、刃で自分の首や腹を貫く勇気はなかった。これまで鍛えて来た刀の腕で自らを葬ることは出来なかった。武士とはいえ、自刃することが恐ろしかった。

 その果てに、源之助は自らの死に場所となりそうな場を見つけたのだーー

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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