【藪医者放浪記~百~】

文字数 630文字

 殆ど死んだも同然だった。

 何年も前のこと、剣術の修行ということで土佐に送り込まれていた猿田源之助は、道場での稽古が終わった直後にその話を聞かされた。話をしたのは、まだ二十歳も頭の若い猿田の後見人となっていた老人だった。

 父上が殺された。

 いっている意味がわからないーー猿田の表情にはそういった疑問が浮かんでいた。殺された、そんなはずはなかった。猿田の父、猿田源兵衛は川越一の剣術、居合術の使い手だった。一見すると物腰の柔らかい姿勢と人の良い風貌をした中年の男だったが、源兵衛は如何なる瞬間も隙を見せない恐ろしさがあった。オマケに手足は大して太くもないのにも関わらず、ほんのちょっとした力だけで、大男を軽々と動かし、投げ飛ばしてしまう能力の持ち主だった。源兵衛に投げられた者たちは皆一様にこういったーー

「まるで自分の身体が置き去りにされたようだった」

 息子である猿田ーー源之助も、その力を身を以て体感していた。源之助は父よりも背は高く、体格もしっかりしていた。にも関わらず、源之助は瞬間的に投げられていた。それまでは懐疑的だった「身体が置き去りにされる」感覚というのも、ここで漸くわかった。

 源之助は父にその力の出し方を訊ねた。だが、源兵衛がいうにはーー

「いずれわかる」

 とのことだった。源之助にとってその答えは納得いくモノではなかった。そして、源兵衛は源之助を土佐へ修行に送った。

 源之助は、土佐にて必ずその力の出し方を習得してやると息巻いていた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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