【帝王霊~百弐拾睦~】

文字数 722文字

 苦痛に呻く声は希望そのものだった。

 普通ならそんなことは考えないだろうが、声を上げている以上、その人が死ぬことはなく生きているという証明になる。

「マタ無茶シテ」東南アジア系の見た目の男が呆れたようにいった。「イイ年ナンダカラ、銃デ撃タレル仕事ニ顔ヲ突ッ込ムノハイイ加減ヤメタホウガイイ」

 東南系の男の手は血にまみれていた。そして、その手元で横たわっているのは武井愛だった。

「麻酔、ないの......?」

 アイのことばに東南系の男は溜め息をついていった。

「ナイ。ソコラノ病院行クカ?」

 行くとは答えられるワケがなかった。銃で撃たれた傷を診断されれば、いうまでもなく警察に連絡されて話が面倒くさくなる。アイは呻きながらも、それを了承した。

 雑多で散らかった部屋だった。床はコンクリで舗装され、周りの棚には医療で使いそうなモノから、明らかに不要そうなノコギリやハンマーまで置いてある。そんな部屋を祐太朗は眺めていた。

「なぁ」祐太朗は佐野にいった。「ここ何なんだ?」

「五村で有名な闇医者のオペルーム」佐野はいった。「あの男は『カオフン』といって、ベトナムを追われた医者。本国で投獄された後に脱獄して日本に来た。でも、働くにも素性がバレたら面倒だからって闇医者として働いてる」

 カオフンーー以前のヤーヌス事件の時、負傷したアイを治療した闇医者の男。法外な値段ーー無論、保険は適用されないから無理もないがーーでワケアリなキズの治療を行っているが、アイのことはお気に入りなのか、アイからは費用を取ろうとはしない。

「そうなのか」祐太朗は続ける。「なぁ、さっきの電話、誰からだったんだ?」

 祐太朗が訊ねると佐野の表情がこころなしか暗くなった気がした。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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