【一年三組の皇帝~死拾~】

文字数 1,072文字

 一瞬の静けさは喧騒を浮き彫りにする。

 ぼくが勝負したいといった結果、クラスの中は一瞬シンと静まり返り、そして爆発的に歓声が響き渡った。ぼくの名前がやたらと呼ばれる、囃すように。ぼくと関口の勝負がそんなにモノ珍しいのだろうか。成績優秀スポーツ万能のイケメン学級委員と何もかもが平凡ーーいや、下手したら他者よりも圧倒的に劣っているかもしれない生活安全委員のぼくなどカードとしては面白味がないはず。

 だが、歓声は響いた。それを聴くと、ぼくは戸惑いと胸の奥で沸々と湧く気合いだか闘志のようなモノに気付いた。

「シンゴ......」田宮が口を開いた。「やめろよ、お前、こういうの好きじゃないだろ?」

 田宮が意見するとすぐに関口の取り巻きたちが田宮のことを罵倒し頭を叩く。もはやそこには人間としてのあり方みたいなモノは欠片もなかった。ぼくはグッと奥歯を噛み締めた。ダメだ。これからやろうとしている勝負は、冷静でなければ話にならない。興奮して、あらゆる注意力、判断がおおざっぱになってしまっては、相手にスキを作るだけ。ぼくはゆっくりと大きく息を吸い、吐いた。

「やろうか......」

 ぼくがいうと関口はニヤリと笑って頷いた。

「うん。ぼくも林崎くんと勝負出来て嬉しいよ。ルールはわかるかな?」

 ぼくは敢えて「わからない」と答えた。ゲームとしてはインディアンポーカーと同じだとはわかっていたが、ここは相手に少し花を持たせる必要があると思った。教える立場になれば、イヤでもそこには格差が出来る。関口がそんなちっぽけな格差で一喜一憂するとは思えなかったが、ここで注目すべきは関口につきまとう金魚のフンたち。コイツらは虎の威を借る狐。関口のそばにいるからこそ威張っていられる雑魚。

 ルールは案の定だった。自分に配られたカードを見ることは出来ない代わりに、相手の手を見ることが出来る。相手の自分に対する反応、これを良く観察して手を作る。それがこのゲームの肝。手札のチェンジは二度まで。そして、これは通常のルールにはないのだが、一度交換したカードが何かを確認することは許されていない。ゲームのテンポや緊張感を高めるため、だという。そして、そのチェンジに対し、他のプレイヤーが極端に一喜一憂してはいけないとのことだった。

「ルールのほうは大丈夫?」

 関口の問い掛けに、ぼくは頷いた。田宮が座っていたイスが取り巻きのひとりに蹴られた。

「オメエ何やってんだよ。さっさとどけ負け犬」

 そういわれ、田宮は無言で立ち上がり、ぼくにイスを譲ろうとした。血液が沸騰しそうになった。

 【続く】


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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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