【帝王霊~伍拾参~】

文字数 1,068文字

 自分がハメられているのではと疑ったことはあるだろうか。

 多分、このような疑心暗鬼は誰にでも起こりうることかとは思う。そして、ただいまのあたしがまさにこの状態だった。

 まさか、佐野までもが下らない冗談をいうとは思ってもいなかった。今、あたしたちの目の前にいる似ても似つかない太った男が成松蓮斗だなんて。佐野はふざけた女ではあるが、こんな緊迫した状況下でそんなジョークを飛ばすような女だとは思ってもいなかった。

 成松蓮斗は死んだ。確かに死んだ現場を見たワケでもないのだが、少なくともテレビやネットのニュースでは彼の死亡を告げていた。今時、信頼できるメディアなど雪男を探すくらいに見つからないモノではあるが、そんな個人の死をいたずらに報道するなど、流石にメディアもそこまで地に落ちてはいないと思いたい。これは所詮あたしの希望的観測で、願望でしかないのはいうまでもない。だが、ニュースでは事件現場の様子も流していたし、弓永くんに聞いた限りでも、成松の死は疑いようのないことだと感じた。

 だが、今、あたしの目の前には成松蓮斗の名を騙る男がいる。似ても似つかない姿形で、とても真実とは思えないような話だ。あたしは鼻で笑った。

「はは、アンタまで何いってるの。成松の秘書だったのに、成松本人の顔を覚えてないの? それは流石にあらゆることに興味がなさすぎーー」

「だから、違うんだって」佐野はピシャリといった。「アナタには説明しづらいんだけど、でも、これは本当のことなんだ」

「説明しづらいってどういうこと? 成松の霊がこのおデブちゃんの身体に乗り移って憑依してるとでもいうの?」

 あたしは冗談半分でそういった。半笑いで。だが、あたしのジョークは佐野にはまったくウケなかった。笑うどころか、さっきよりさらに神妙な様子になってあたしから顔を叛けた。

「......何、その反応」自分の中から常識と理解力が消えていくような気がしてならなかった。「まさか、そんな......」

 頭が可笑しくなりそうだった。幽霊......? そんな非科学的で非現実的な話があってたまるか。いや、でも佐野の反応を見ると、それもわからないでもない。しかし、しかしだ。もし成松が本当に霊としてこの男に憑依しているんだとしたら、その目的は何だというのだ。まさか、あたしへの報復だろうか。

「ねぇ」あたしは成松の名を騙る男にいった。「アンタが成松だとしたら、何のためにあたしをここまで連れてきたの? まぁ、歓迎されていないことだけはわかあるんだけどさ」

 男は不気味な笑みを浮かべた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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