【一年三組の皇帝~伍拾伍~】
文字数 517文字
カバンを置くと教室を出た。
六月も半ばになるとだんだん暑くなってくる。梅雨で雨が降りがちにはなるが、湿度が高くなってジメジメしがちだ。
ここ最近、あまり教室にいたくなくなっていた。別に何かされるワケではないけれど、教室の中を包んでいる空気がどうも耐え難いんだ。
そう、別に何かがあるワケじゃない。荷物を置いたからといって、上着を置いていったからといって何かされるワケじゃないだろう。
辻ーー何かしてくるだろうか。荷物を捨てる? いや、そんなことはしないだろう。今の彼らは大っぴらにそういうことをしてくるほど存在を認められてはいない。
バッと振り返った。
違和感、何かが違う。だが、そこには何の変化もない。気のせいか。いや、確かに何かが違う。これはーー
「よぉ」肩を叩かれた。「ちょっと顔貸せ」
辻だった。神妙な表情。そこにはふざけた雰囲気はなかった。山路と海野の姿はなかった。ぼくは訊ねた。
「いつものふたりはどうしたんだよ?」
「目立つから今日は外した」
「外した、か」ぼくは微笑した。「じゃあ、今日はひとりで楽しむつもりか」
「はぁ?」
「おれが長谷川先生に呼ばれてるっていうのもウソなんだろ?」
そう訊ねると辻はニヤリと笑った。
【続く】
六月も半ばになるとだんだん暑くなってくる。梅雨で雨が降りがちにはなるが、湿度が高くなってジメジメしがちだ。
ここ最近、あまり教室にいたくなくなっていた。別に何かされるワケではないけれど、教室の中を包んでいる空気がどうも耐え難いんだ。
そう、別に何かがあるワケじゃない。荷物を置いたからといって、上着を置いていったからといって何かされるワケじゃないだろう。
辻ーー何かしてくるだろうか。荷物を捨てる? いや、そんなことはしないだろう。今の彼らは大っぴらにそういうことをしてくるほど存在を認められてはいない。
バッと振り返った。
違和感、何かが違う。だが、そこには何の変化もない。気のせいか。いや、確かに何かが違う。これはーー
「よぉ」肩を叩かれた。「ちょっと顔貸せ」
辻だった。神妙な表情。そこにはふざけた雰囲気はなかった。山路と海野の姿はなかった。ぼくは訊ねた。
「いつものふたりはどうしたんだよ?」
「目立つから今日は外した」
「外した、か」ぼくは微笑した。「じゃあ、今日はひとりで楽しむつもりか」
「はぁ?」
「おれが長谷川先生に呼ばれてるっていうのもウソなんだろ?」
そう訊ねると辻はニヤリと笑った。
【続く】