【爆心地、小石を積み上げて】

文字数 3,234文字

 気づけば、911が過ぎていた。

 もう数日経ってるじゃんといわれたら、その通りなんだけど、ちょうどその時は体育祭篇を書いていて、そのことには触れなかったのだ。

 とはいえ、個人的にこの事件は結構衝撃的だったんよ。当時はまだ鼻を垂らした小学生だったんだけど、そんな自分にとっても、ね。正直、ワールド・トレードセンターなんて知りもしなかったし、アフガニスタンなんて『ランボー3』で聞いたことがあるくらいだった。

 だが、実際のテロの映像を観てみると、自分の中で何かが崩壊していくような気分になった。自分の中の何かが、吹き飛んでしまいそうだった。

 あのトレードセンターが倒壊する映像にしろ、ビンラディンのアナウンス映像にしろ、捕虜の首を切り落とすスナッフ動画にしろ、おれには恐怖でしかなかった。

 が、そんな自分が一連の恐怖に対抗する手段というのが、ひとつだけあった。

 ネタにすることである。

 まぁ、今考えると不謹慎極まりないんだけど、当時小学生のおれはこの事件をネタにしまくっていた。どんな感じかといえば、自分の通っている小学校を指差しながら、

「オーゥ、シット!」

 といったり、

「ハロー! マイネーム・イズ・ビンラディン! アイ・ハブ・ア・ガン!……オーゥ、シット! ザット・イズ・ポリース! ヘールプ・ミー! ヘールプ・ミィー!」

 みたいな頭の悪いギャグをいい出したりとこんな感じである。うんーー

 ワケわかんねぇよな。

 まぁ、説明すると、前者は単純に、学校ぶっ潰れないかなぁという不謹慎丸出しな願望で、後者はこの世界にいる強大な存在に対する茶化しである。まぁ、ヒトラーをネタにしたチャップリンのような感じだと思ってくれ。次元が全然違うけども。

 不謹慎極まりない話なんだけど、人間はどうも恐怖が極まると、思わず笑ってしまったり、それを茶化して何とかしようとしたりする傾向にあると思うのだ。まぁ、個人のパーソナリティや何かにもよるんだろうけど。

 おれはどうも緊張した場面や何かに直面すると、そうしようとする嫌いがあり、それで怒られることも少なくない。とはいえ、それはおれだけではないと思うのだ。

 小学六年生の時のことだ。時期的には、二学期の終わりか三学期の始まりぐらいのことだったと思う。申し訳ないが、そこら辺の時期が曖昧なのだ。ただ、その時期に卒業アルバムに載せる文集や何かを書かなければならなかったことはしっかりと覚えている。

 まぁ、おれが文集に何を書いたかといえば、兎に角賢ぶって、難しそうなことを書いていたと思うのだけど、今の自分からしたらシバいてもシバき切れないほどのゴミみたいな文章を書いていたと思うのだーーあ、今の文章もゴミ? 今更なことをいうな!

 さて、卒業アルバムというと、一体誰が得するのかもわからん情報を書かされることも多いのは周知の事実だろう。例えばーー

「好きな食べ物はぁ?」

 みたいな感じ。そんな今更卒業する学校の同級生に好きな食べ物なんか教えてどうすんだよ。てか、そんな話、誰が訊きたがるのか本気で教えて欲しいわーーカレーライス。

 そんな感じの項目がたくさんあるわけだ。好きなものは何、だとか、将来の夢は何、だとかね。んなこと訊いても誰の人生のプラスにもならねえだろーー好きなモノは、映画、小説、レトロゲーム、ロックンロール、プロレス、カレーライスだわ。

 中でも本当に酷い質問が、これだーー

「お金持ちになったら何をする?」

 こんな話、小学生に訊くかよと思うんだけど、企画を考える実行委員の発想力ではそんなゲスい質問しか出てこないんだろうなーーお金があったら、毎日三食カレーが食べたいです。まぁ、その当時のおれは、多分、

「ゲームを沢山買いたい」

 とか、そんな煩悩まみれなことを書いていたと思うのだ。まぁ、小学生っぽいっちゃ小学生っぽい。逆にこういう時に、「911の件で義援金を送りたい」みたいに考える子供は流石にできすぎているか。残念ながらおれはそんな聖人みたいなガキではなかったのだ。

 で、ある日のホームルームのこと、担任である関口先生がブスッとした表情で教室に入ってきたのだ。

 関口先生は当時、四十代後半くらいだったと思う。痩せ型でメガネを掛けた先生だったのだが、生徒を贔屓することで一部の生徒からは非常に評判が悪かった。

おれはどういうワケか、関口先生のお気に入りだったらしく贔屓されることが多かったので、そんなでもなかったのだけど、嫌っている人は、それはそれはとんでもない罵詈雑言を裏でいっていた。どうでもいいけど。

 とはいえ、関口先生が機嫌を損ねているというのは、あまりない話で、何というか、あらゆる事象に期待していないのか、大抵は飄々とした態度で目の前の出来事を流していた。そんな関口先生が明らかに機嫌が悪い。これにはどうしたものかと思ったのだけど、教卓について挨拶を済ませると、関口先生はいったのだーー

「あっちゃん。卒業文集、何て書いた?」

 上記の感じからすると、随分温厚な感じでいったように思えるだろうけど、そんなことはなく、呼び方も苗字呼び捨てでトゲもあり、何ともおどろおどろしい感じだったのだ。

 苗字呼び捨てなんて当たり前だろ、と思われるかもしれないので補足すると、関口先生は基本的に生徒をアダ名で呼ぶ人で、苗字を呼び捨てることは殆どなかった。

 まぁ、そんな状況にも関わらず、あっちゃんは自信満々に、これこれこういうことを書いたと演説を打つじゃないですか。面白くないヤツほど自信満々なのはこの世の不思議のひとつ。

 だが、関口先生は頬を緩めることもなくーー

「じゃあ、『お金があったら何をする』って項目は、何て書いた?」

 もう、顔面が阿修羅みたいで本当に怖かったのだけど、あっちゃんは空気も読まず、自信満々にいったのだーー

「いやぁ、『借金返す』って」

「ふざけんじゃねぇ!!」

 関口先生の怒声が教室に静寂をもたらす。借金返すって、シンプルにつまんねぇぞ、あつし。そもそも、ネタでも借金がどうとか書く感性がバグってるし、金の話題を出す企画者も企画者だよな。ほんとイカレてるわ。

とまぁ、怒られたあっちゃんも明らかに動揺していてもっとどーよ?って感じだったんだけど、何を勘違いしたのか、

「いやぁ、面白いと思って」

 とかいっちゃったじゃない。そしたら、もう関口先生もスパークしてしまったワケですよ。

「あのなぁ、借金がどうとか、洒落じゃねえんだよ。本当に借金があるにしても、そんなことを子供に吹き込んでるって親は何を教えてんだ! ふざけんな、書き直せ!」

 そういって関口先生はガンギレしていまいまして、あっちゃんは涙目になり黙り込んでしまいました。ちなみに、あっちゃんの家に借金はないです。貧困だったのは、あっちゃんのギャグセンスだけだった模様。

 結局、あっちゃんが書き直してアルバムに載せられた「お金があったらーー」の項目だが、

「ゲームを買う」

 みたいな無難なモノになってました。もう少し挑戦的なこと書いてもよかったんだよ?ーーてか、これじゃおれも同レベだよな。

 まぁ、ウソを積み重ねれば積み重ねるほど、信用は崩れていくんで、冗談でも変なウソはつかないほうがいいよな。

 ちなみに、何度校舎を指差して「オーゥ、シット!」と叫んでも、校舎が倒壊することはなく、おれも普通に小学校を卒業していました。おれのギャグセンもあっちゃんレベルか。

 でも、あの事件のことはどうしても忘れられず、地味に自分の書くシナリオにも影響を与えているワケだ。

 キレイごというけど、争いはよくない。

 んじゃ。
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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