【空を飛ぶ準備は万全か?】
文字数 2,153文字
誰だって入り口を潜るのは怖いだろう。
ただ一度扉を開けてしまえば、後は進むだけだ。プラス、飛び込んでしまえば怖いこともなく、案外明るい世界だったなんてことも普通にある。要は飛び込む勇気あるかどうかなのだ。
とまぁ、そんな感じで昨日の続きである。あらすじーー「城南大学のアメリカンフットボール部に所属する城茂は、親友を殺された復讐のために電気人間となり、悪の秘密組織『ブラックサタン』に敢然と立ち向かうのだ」
そろそろ、この謎のあらすじの詳細を教えてくれって声も出てきそうなんだけど、残念ながらそう簡単には教えない。てか、有名なシリーズものだし、知ってる人もいるだろうけど。
で、本当のあらすじといえば、初の『ブラスト』の稽古見学を終えた五条氏は、劇団OBのショージさんに見込まれ、劇団の顔役であるあおいと連絡先を交換したのだーーどうよ、完璧だらう。というわけでーー
朝起きると、不思議な感じだった。今までに体験したことのないーーいや、初めてバンドでステージに立った翌日の朝のようだった。
また、すぐにでも台本を読みたい。
そう思えて仕方がなかった。何でもいい。稽古にいって、役についてセリフを読んでみたい。おれは俄然やる気だった。
そう思いながら、悶々としたウィークデーを過ごし、土曜日が来るのを待った、待ったーー待ち続けた。
金曜の夜、おれはあおいに翌日の稽古に参加すると連絡した。あおいはひとこと、了解です。
土曜の夕方、おれは再び中央公民館へと足を踏み入れ、稽古場である会議室へと向かった。
会議室に入って挨拶をすると、その場にいたメンバーから歓迎され、そしてーー
「こんにちは、五条くんですね。自分、立野っていいます。よろしくね」
立野と名乗ったその男性は、身長はおれよりちょっと低いくらい。髪は短く刈られ、頬や身体はふっくらとしていた。年齢は三〇台前半とのことだった。
おれは立野さんに挨拶し、他のメンバーにも挨拶した。この日はXは用事でいなかったが、あおいは初っぱなから稽古に参加していた。
あおいと挨拶を交わし、適当に話をしていると準備運動が始まり、それが終わると発声練習に入った。一連のウォーミングアップを終えると、続いて台本読みに入る。
この日のラインナップは二本立て。一本目は前回の台本の続き。二本目は何と立野さんのオリジナル台本とのことだった。
オリジナル台本ーーこれにはこころが踊ったものだ。
今でこそ自分のシナリオなんていくらでも書けるのだが、この当時の自分にとってはシナリオを書くなんて、夢のまた夢で、それはもう羨望の眼差しで立野さんを見たものだった。
さて、一本目。これは前回と同じなので、おれが主役で話が進んだ。楽しかった。前にやっていることもあってか、どこかやり易く、無難に役をこなせたと思う。
問題は次である。
二本目、立野さんのオリジナル台本だ。
元々、所属している劇団メンバーに当てて書いた本なので、おれのような門外漢はお呼びでないはずなのだが、その日は人もあまりいなかったこともあって、代役として参加させて貰うこととなった。
今回自分に振られた役は、朴訥でコメディ色の強いキャラクターだった。最初にやった柄の悪く、演じ易いキャラクターとは真逆で、どう演じればいいか見当もつかず、結局は、不完全燃焼で終わってしまった。
だが、台本自体は未完成とはいえ、読んでとても面白かった。プラス、もっと色んな役を読んで、上達したいと思うようになっていた。
終わりの会。満ち足りた気分でいると、唐突に立野さんが手を上げ、話を始めたのだ。
「今日はみなさんに報告しなければならないことがあります。私事ではありますが、この度、諸事情により遠くへ引っ越さなければならなくなったので、退団させて頂きます」
立野さんとは初対面ではあったが、衝撃的だった。理由はわからない。年齢は少し離れているとはいえ、劇団の中では一番年が近いということもあって、どこか寂しく感じたのだろう。
というのも、この時点でおれは『ブラスト』に入団する意向をほぼ固めていたから。
最後に見学者であるおれのコメント。とはいえ、いったことといえば、今日もとても楽しかった、ぐらい。そして、入団の意向を固めていたはずなのに、この時点でまだ入団するとはいわなかったーーいや、いえなかったのだ。
稽古も終わり、この日も稽古後のアフターがあったので参加することにし、前回と同様、あおいとアフターの場まで自転車で走った。
「今日の稽古はどうでした?」あおいが訊ねる。
「うん、楽しかったです」おれは少し口ごもった。「立野さん、辞めるんですね」
そういうとあおいは頷いた。
「事情もあるからね」
事情。事情がある。それは誰にでも同じ。おれにだって事情はあるのだから。
「そうですね」
夜のストリート。おれとあおいは自転車で走った。冬の夜風が鞭のように皮膚を打つ。ファミレスの明かりが見えてきたーー
とまぁ、今日はこれで終わり。次回は、またもや新しい人と出会いますわ。
アスタラビスタ。
ただ一度扉を開けてしまえば、後は進むだけだ。プラス、飛び込んでしまえば怖いこともなく、案外明るい世界だったなんてことも普通にある。要は飛び込む勇気あるかどうかなのだ。
とまぁ、そんな感じで昨日の続きである。あらすじーー「城南大学のアメリカンフットボール部に所属する城茂は、親友を殺された復讐のために電気人間となり、悪の秘密組織『ブラックサタン』に敢然と立ち向かうのだ」
そろそろ、この謎のあらすじの詳細を教えてくれって声も出てきそうなんだけど、残念ながらそう簡単には教えない。てか、有名なシリーズものだし、知ってる人もいるだろうけど。
で、本当のあらすじといえば、初の『ブラスト』の稽古見学を終えた五条氏は、劇団OBのショージさんに見込まれ、劇団の顔役であるあおいと連絡先を交換したのだーーどうよ、完璧だらう。というわけでーー
朝起きると、不思議な感じだった。今までに体験したことのないーーいや、初めてバンドでステージに立った翌日の朝のようだった。
また、すぐにでも台本を読みたい。
そう思えて仕方がなかった。何でもいい。稽古にいって、役についてセリフを読んでみたい。おれは俄然やる気だった。
そう思いながら、悶々としたウィークデーを過ごし、土曜日が来るのを待った、待ったーー待ち続けた。
金曜の夜、おれはあおいに翌日の稽古に参加すると連絡した。あおいはひとこと、了解です。
土曜の夕方、おれは再び中央公民館へと足を踏み入れ、稽古場である会議室へと向かった。
会議室に入って挨拶をすると、その場にいたメンバーから歓迎され、そしてーー
「こんにちは、五条くんですね。自分、立野っていいます。よろしくね」
立野と名乗ったその男性は、身長はおれよりちょっと低いくらい。髪は短く刈られ、頬や身体はふっくらとしていた。年齢は三〇台前半とのことだった。
おれは立野さんに挨拶し、他のメンバーにも挨拶した。この日はXは用事でいなかったが、あおいは初っぱなから稽古に参加していた。
あおいと挨拶を交わし、適当に話をしていると準備運動が始まり、それが終わると発声練習に入った。一連のウォーミングアップを終えると、続いて台本読みに入る。
この日のラインナップは二本立て。一本目は前回の台本の続き。二本目は何と立野さんのオリジナル台本とのことだった。
オリジナル台本ーーこれにはこころが踊ったものだ。
今でこそ自分のシナリオなんていくらでも書けるのだが、この当時の自分にとってはシナリオを書くなんて、夢のまた夢で、それはもう羨望の眼差しで立野さんを見たものだった。
さて、一本目。これは前回と同じなので、おれが主役で話が進んだ。楽しかった。前にやっていることもあってか、どこかやり易く、無難に役をこなせたと思う。
問題は次である。
二本目、立野さんのオリジナル台本だ。
元々、所属している劇団メンバーに当てて書いた本なので、おれのような門外漢はお呼びでないはずなのだが、その日は人もあまりいなかったこともあって、代役として参加させて貰うこととなった。
今回自分に振られた役は、朴訥でコメディ色の強いキャラクターだった。最初にやった柄の悪く、演じ易いキャラクターとは真逆で、どう演じればいいか見当もつかず、結局は、不完全燃焼で終わってしまった。
だが、台本自体は未完成とはいえ、読んでとても面白かった。プラス、もっと色んな役を読んで、上達したいと思うようになっていた。
終わりの会。満ち足りた気分でいると、唐突に立野さんが手を上げ、話を始めたのだ。
「今日はみなさんに報告しなければならないことがあります。私事ではありますが、この度、諸事情により遠くへ引っ越さなければならなくなったので、退団させて頂きます」
立野さんとは初対面ではあったが、衝撃的だった。理由はわからない。年齢は少し離れているとはいえ、劇団の中では一番年が近いということもあって、どこか寂しく感じたのだろう。
というのも、この時点でおれは『ブラスト』に入団する意向をほぼ固めていたから。
最後に見学者であるおれのコメント。とはいえ、いったことといえば、今日もとても楽しかった、ぐらい。そして、入団の意向を固めていたはずなのに、この時点でまだ入団するとはいわなかったーーいや、いえなかったのだ。
稽古も終わり、この日も稽古後のアフターがあったので参加することにし、前回と同様、あおいとアフターの場まで自転車で走った。
「今日の稽古はどうでした?」あおいが訊ねる。
「うん、楽しかったです」おれは少し口ごもった。「立野さん、辞めるんですね」
そういうとあおいは頷いた。
「事情もあるからね」
事情。事情がある。それは誰にでも同じ。おれにだって事情はあるのだから。
「そうですね」
夜のストリート。おれとあおいは自転車で走った。冬の夜風が鞭のように皮膚を打つ。ファミレスの明かりが見えてきたーー
とまぁ、今日はこれで終わり。次回は、またもや新しい人と出会いますわ。
アスタラビスタ。