【冷たい墓石で鬼は泣く~拾漆~】
文字数 1,103文字
すべてのことばが闇の中で蠢いていた。
わたしは唇をわななかせて、ただ馬乃助のことを見詰めていた。自分の視界が小刻みに揺れているのがわかった。怒りにサーッと霧が降りたよう。
「貴様......、そんないい逃れをーー」
「いい逃れ、だぁ? テメエはそんなにおれのことがキライか」
馬乃助の目がギラリと光っていた。その目には見るからに怒りが宿っていることが見て取れる。そして、絶望も。
「いや......、そんなワケじゃ......」わたしはツバを飲み込んで呼吸を整えた。「なら、どうして貴様、あんな辻斬りのような真似をした......!」
「真似じゃねえよ。今、街を騒がしている辻斬りってのはおれのことだからな」
頭の中が燃え上がらん勢いだった。わたしは一瞬正気を失いかけ、馬乃助のほうへと詰め寄った。
「貴様ッ! 何故あのようなことをした! どうしておはるを殺した......」
「テメエは学問もダメなら頭も悪ぃんだな」
そういう馬乃助の表情には嘲笑の趣は一切なく、むしろ怒りと哀れみが表面化しているのが見てとれた。わたしは怒りをおし殺していった。
「何だと......ッ!?」
「だからよぉ、どうしておれがテメエの好きだった女を殺さなきゃならねえのかって、そう訊いてんだよマヌケ」
そういわれてみると、確かにその通りだ。本人がいうように馬乃助におはるを殺すだけの理由がない。無差別に切り捨てた。いや、馬乃助は基本的に牙を剥く者でない限りは自分より格下や完全な素人に手を出すことはない。
それに改めて考えてみると、これまで辻斬りが使っていたのは何かの鈍器であり、その形からすれば木刀であろうことは容易に想像がつく。しかも、その相手はおはるを除けば全員が侍である。しかも、みな大層な腕前だといわれていた連中だった。もちろん、彼らはケガは負った。だが、その傷も危険な場所は意図的に避けられ、腕や足といった位置が中心だった。
では、何故おはるは刃の餌食となったのか。
それはーー
「テメエよ。もしかして、まだおれを疑ってんのか」
わたしはもはやわからなくなっていた。混乱するわたしに、馬乃助はあからさまにイラ立っていた。舌打ちする馬乃助。
「テメエよぉ、仮におれがその女を殺すとするなら刀はいらない。木刀でも役不足だ。素手だけでどうにも出来る。女ひとり相手に刀を使うなんてナメられたモンだよな」
「じゃあ!」わたしは強くいい、一旦黙った。「......じゃあ、一体誰が」
「あの女が死んで都合のいいヤツは誰だ」
わたしは答えられなかった。そんなわたしを馬乃助は軽蔑的な視線で眺める。馬乃助は更にため息をついて見せ、口を開いた。
【続く】
わたしは唇をわななかせて、ただ馬乃助のことを見詰めていた。自分の視界が小刻みに揺れているのがわかった。怒りにサーッと霧が降りたよう。
「貴様......、そんないい逃れをーー」
「いい逃れ、だぁ? テメエはそんなにおれのことがキライか」
馬乃助の目がギラリと光っていた。その目には見るからに怒りが宿っていることが見て取れる。そして、絶望も。
「いや......、そんなワケじゃ......」わたしはツバを飲み込んで呼吸を整えた。「なら、どうして貴様、あんな辻斬りのような真似をした......!」
「真似じゃねえよ。今、街を騒がしている辻斬りってのはおれのことだからな」
頭の中が燃え上がらん勢いだった。わたしは一瞬正気を失いかけ、馬乃助のほうへと詰め寄った。
「貴様ッ! 何故あのようなことをした! どうしておはるを殺した......」
「テメエは学問もダメなら頭も悪ぃんだな」
そういう馬乃助の表情には嘲笑の趣は一切なく、むしろ怒りと哀れみが表面化しているのが見てとれた。わたしは怒りをおし殺していった。
「何だと......ッ!?」
「だからよぉ、どうしておれがテメエの好きだった女を殺さなきゃならねえのかって、そう訊いてんだよマヌケ」
そういわれてみると、確かにその通りだ。本人がいうように馬乃助におはるを殺すだけの理由がない。無差別に切り捨てた。いや、馬乃助は基本的に牙を剥く者でない限りは自分より格下や完全な素人に手を出すことはない。
それに改めて考えてみると、これまで辻斬りが使っていたのは何かの鈍器であり、その形からすれば木刀であろうことは容易に想像がつく。しかも、その相手はおはるを除けば全員が侍である。しかも、みな大層な腕前だといわれていた連中だった。もちろん、彼らはケガは負った。だが、その傷も危険な場所は意図的に避けられ、腕や足といった位置が中心だった。
では、何故おはるは刃の餌食となったのか。
それはーー
「テメエよ。もしかして、まだおれを疑ってんのか」
わたしはもはやわからなくなっていた。混乱するわたしに、馬乃助はあからさまにイラ立っていた。舌打ちする馬乃助。
「テメエよぉ、仮におれがその女を殺すとするなら刀はいらない。木刀でも役不足だ。素手だけでどうにも出来る。女ひとり相手に刀を使うなんてナメられたモンだよな」
「じゃあ!」わたしは強くいい、一旦黙った。「......じゃあ、一体誰が」
「あの女が死んで都合のいいヤツは誰だ」
わたしは答えられなかった。そんなわたしを馬乃助は軽蔑的な視線で眺める。馬乃助は更にため息をついて見せ、口を開いた。
【続く】