【秘密の花園に幼児なし】

文字数 3,186文字

 誰かのためになりたいという人がいる。

 それは善良なこころからそう思う人もいれば、誰かのためになって自分がいい人だと思われたいだけという人もいる。

 個人的に、これに関してはどっちが正解かというのはないと思う。というのも、人間には承認欲求があり、人に頼られたい、人から必要とされたいと思うのが普通だからだ。

 かくいうおれはというと、ズバリ、人に頼られたくないタイプだ。理由は簡単、面倒くさいからだ。この世の煩悩を掻き集めて集約させたようなクズい理由ではあるのだけど、おれがそう思うようになったのにはワケがある。

 というのも、昨日も話したが、おれは比較的損な役回りが多く、余剰なタスクを抱え込まなければならなくなった経験が多かったからだ。

 まぁ、バンド時代もブラストでもそれで酷い目に遭ってるし、今となっては人に必要とされるより、適当に放っておかれたいというのが本音だったりする。

 ここで勘のいい人なら、おれもかつては、誰かから必要とされたいと思っていたことに気づくだろう。それはまさにその通りだった。

 とはいえ、それも状況によるのだけどな。

 まぁ、頼りにされたくないとはいっても、それは胡散臭いヤツや、あからさまに楽をしたいだけというのが見え見えのヤツに限った話で、相手が友人だったり恩人なら話は別だ。

 結局、頼んできた相手と頼みごとの内容にも依るんだよな。

 さて、今日はそんな頼りにされた話とその後の話をしていこうと思う。

 アレは中学一年ーーもしかしたら、二年生の時だったかもしれない。まぁ、何年生かが重要な話ではないから別に問題ないんだけども。

 ただ、季節は夏だということは覚えている。その時はちょうど夏休みの真っ最中だった。

 夏休みになるとウィークデーの昼間からテレビを観て過ごせるからいい。

 この時代のテレビはまだ心霊番組も多く、格闘技が隆盛で、かつ週の後半の夜は映画放送もあったので、テレビさえあれば他のメディアはいらなかったといっても過言ではなかった。

 更には長期休みとなると、アニメの再放送があって、基本朝は教育チャンネル、その後にアニメの再放送を観て、昼食を食べ終えるとそのまま友人と遊ぶといったルーティーンになっていた。最高の夏休み。

 その日もやはり、おれは朝からテレビを観ていたのだけど、そしたら突然、

「電話だよ!」

 と母からお達しがあったのだ。こんな朝早くからの電話。おれは普通に「午後から遊ぼう」みたいな内容の友人からの電話だと思って、母から受話器を受け取り電話に出たのだ。

「もしもし、五条くんですか?」

 電話の相手ーー女性だった。おれは辟易としてしまった。同級生の女子がおれに電話を掛けて来るはずがないし、おれの記憶の中に、この声に該当する女子がいなかったのだ。

 おれは戸惑いつつも、そうだと答えた。すると、相手はーー

「お久しぶりです。公民館ではお世話になりました○○ですー!」

 その名前を聴いて、おれはピンときた。この女性ーー

 職場体験プログラムでお世話になった、公民館職員のお姉さんだったのだ。

 これには驚いた。どこか懐かしい気分になりつつ、おれは用件を訊ねた。

 公民館のお姉さんによると、何でも近々、公民館のイベントで小さい子のお遊戯イベントがあるらしく、もし良かったらボランティアとして参加してくれないか、ということだった。

 おれは、考えておきますと答えたのだけど、正直なところ、あまり行きたくはなかった。

 というのも、この時のおれは小さい子供が非常に苦手で、まともに相手ができる自信がなかったのだ。

 電話を切ったのち、おれはどうするか迷った。子供が嫌いなワケではなかった。まぁ、この当時のおれも子供とはいえ、おれよりもひと回り近く年下の子供を相手に、まともに立ち回れるヴィジョンが見えなかったのだ。

 そんな風に考えあぐねつつ、おれはテレビの前に戻ったのだ。が、依頼された内容が脳のサーキットを駆け巡り、離れなかった。

 どうしよう……。

 やってくれといわれたら、やるべきだとは思う。だが、どうにも明るい未来が見えない。この当時の五条氏はシーサーだけでなく、小さい子供からもナメられがちな傾向にーーそれは今も?ーーそれは年齢関係ない?ーー確かに。何れにせよ、困ったモノだった。

 頭を悩ませながら食う昼食は、おれの淀んだ思考とはうらはらに美味かった。だが、美味いモノを食ったからといって、それで問題が解決するワケでもなければ、何かが良くなるワケでもない。がーー

「電話だよ!」

 再び母から電話の呼び出しが掛かった。公民館のお姉さんだろうか。おれは憂鬱な気分を胸に、電話のあるリビングまで向かい、母から受話器を受け取ると、口を開いた。

「もしもし、五条くん?」

 そう訊ねた声は公民館のお姉さんのモノではなかった。確かに聞き覚えはあった。だが、誰の声かは定かではなかった。

「えっと、あの……」おれは困惑し、答えた。

「花村だよ。突然ゴメンね」

 花村さんだった。花村さんに関しては前々回に説明したとは思うけど、敢えて説明し直すなら、同級生のお嬢様で、女子からゴキブリ以上に嫌われていた五条氏にとっては数少ない仲のいい女子だった。が、突然なんだろう。

 そもそも、自宅に女子から電話が掛かってきたことなど、これまで一度もなかった。そもそも、恋人関係でもなければ、異性の家電に電話するなんてないからな。

「花村さん?ーーどうしたの、急に?」

 おれが訊ねると花村さんは、

「五条くん、公民館から電話来た?」

 おれはイエスの解答をした。すると、花村さんはいったーー

「行く?」

 おれは正直に迷っていると返した。すると、花村さんはーー

「わたしもなんだよね。子供嫌いだからさ」

 お嬢様の突然の激白に驚きーーといいたいところだけど、実は花村さんが子供嫌いという話は、おれも知っていた。

 どこでその話を聴いたかは曖昧なのだけど、恐らくは、この時期、おれは友人たちと囲碁のチームを作り、そのチームのホームページをキャナが作ったのだけど、実は花村さんも自分のホームページを持っていて、キャナとホームページの相互リンクをしていたのだ。

 そこで、おれも彼女のホームページにコメントを残しては花村さんとやり取りしていたのだけど、多分、そこら辺で花村さんが子供嫌いみたいな話を聞いたのかもしれない。ただ、そうなるとこれは中二の出来事のはずなんだけどーーもはや時系列はどうでもいいか。

 そんな感じで花村さんと話をしていると、

「五条くんがいくなら、わたしも行こうかなって思ってるんだけど……」

 そんな風にいわれたのだ。改めて考えると、何かいい感じではあるのだけど、この時のおれは完全なるボンクラ、まったくそういうことは考えなかったよな。

 そんなこともあって、普通に行かないかもと答えて電話は終了したのだ。

 結局、ボランティアに行くことはなく、新学期を迎えたのだけど、学校が始まった後に公民館に職場体験にいったメンバーに話を訊いてみたところーー

 誰もボランティアにいっていないとのこと。

 人のこといえた立場じゃないけど、おれも含めてみんな薄情だよな。ちなみにシーサーが行かなかった理由はーー

「子供は好きだけど、誰も行かないっていうんだもんッ!」

 とのこと。うん、わかったーー

 コイツ、たち悪いぞ!

 まぁ、それはおれも一緒なんだけどな。今考えると職場体験でお世話になったんだし、出るべきだったと思うのだけど、後悔後に立たず、だよな。申し訳ないことしたよ。

 アンタらはお世話になった人には報いよう、なーー複雑な気持ちになるくらいなら。

 ちなみに花村さんとは、その後何もなかったです。仲は良かったけどな。

 ちなみに、花村さんは学年で二番目の早さで結婚しましたとさ。元気でやってるんかな。

 アスタラビスタ。


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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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