【初冬に吹く風】
文字数 2,366文字
冬の風には終末感がある。
それはまるで冷たい空気が一年の終わりを告げるよう。
おれは夏が嫌いだけど、冬も嫌いだ。理由は単純に身体が気温についていかないからだ。
じゃあ、どの季節なら大丈夫なんだよって話なんだけど、強いていうなら秋が好きで、それ以外の季節は基本的に嫌い。
とはいえ、冬の終末感は好きでたまらない。特に一二月にもなると、不思議と気分が高揚してしまう。
まぁ、おれの場合は『ブラスト』の公演が終わると一年も終わりだなと思えるのだ。といってもそれも昔の話だけど。
さて、昨日の詐欺アカとのディスコミュニケーションの話はあまりのくだらなさに自分でも辟易としてしまったーーてか、今度「辟易」ってワードを縛る期間を設けてもいいかもな。口癖、手癖は進歩を妨げるでな。
あらすじーー「佐野が指定した場所、それはラーメン屋だった。武井は複雑な気分の中、佐野とラーメンを食べ、別れ際佐野にいわれた『人を100パーセント信じてはいけない』ということばの意味に考えを巡らせるのだった」
うん、前回の『ミスラス』のあらすじだな。まぁ、今回の更新分でヤツも出てきたし、中盤ってところなんで、もう少ししたら新作をあげていきますわ。
で、本当のあらすじは、二回目の通しはまぁまぁの出来で、あとは本番に向けて気を抜かずに稽古を続けていくことを誓ったのだ、って感じだな。マイナーチェンジは気にするな。
じゃ、書いてくーー
本番まで残り一週間、この週はラストスパートということもあり、平日でも出来る限り稽古をしようということになった。
おれも可能な限り参加し、最後に賭けた。集まった人で通しをし、出来る限りのことをした。大野さんも稽古に積極的に参加し、これまでの芝居から少しずつマイナーチェンジして、可能な限り完成形へと近づけていく。
通しも全力だった。袖でボロボロになった台本を手にしつつ見落としはないかを確認し、最後の最後まで神経を尖らせる。
だが、ひとつ大きな問題があった。それは、病人の動きができないことだった。
病人の動きだけは、自分の中でまだ消化できないでいた。セリフ回しはもう病人なのだが、動きだけは健常者に近いというワケのわからない状態になっていた。
わからない。どうすればいいのだろう。
ヨシエさんも大野さんに付きっきりな感じになっていて、大方芝居が出来上がっているおれへはこれといったダメ出しはない。
もしかしたら、この時点である程度のレベルまでできていたのかもしれないが、おれの中ではどうにも納得がいかなかった。
残り一週間を切っているというのに、どうしてこんなことで悩んでいるのだ、おれは。
芝居をやるとわかるのだろうけど、人は自分の芝居に関してドツボにハマりやすい。自分の意識のベクトルが自分自身に向きすぎて、どうすればいいかわからなくなるのだ。
こういう場合は中々抜け出せない。わからないと思いつつ、潜在的な意識のなかで自分の芝居が正しいと思っているからだ。
だから、肩の力を抜いて、気楽に自分の役に向き合うくらいがちょうどいいのだけど、始めたばかりの自分は、すべてを全力で取り組むことに意味があると思っていた。いや、多分、おれは驕っていたのだろう
最後の稽古日、木曜日の平日稽古。ヨシエさんはあおいと大野さんに付きっきり。おれは手の空いているヒロキさんに自分の芝居の相談をした。ヒロキさんはーー
「今の時点でもできてることはできてるけど、まぁ、確かにまだできる感じはあるなぁ。てか、今それに気づくなよ」
ヒロキさんは笑っていた。それから今のおれにできることを伝えてくれた。それは、演出が決まって動きも決まった中で変に形を変える必要はない。ヒントはいつだって、どこにだってあるということだった。
ヒントはいつだって、どこにだってある。その通りだった。ヒントなんてどこにだってあるのだ。おれはヒロキさんにお礼をいい、改めてできることを考えてみた。するとーー
「お前は本当によく頑張るなぁ」
とヒロキさんからお褒め頂いた。この稽古期間、何度ヒロキさんからそういわれたかはわからない。あおいがいうには、ヒロキさんがここまで人を褒めることは珍しいとのことだった。
「多分、芝居を始めた頃の自分と、竜也くんがどこかダブルんだろうね」あおいはいった。
ヒロキさんはプロの舞台屋ではあるが、それを始めたのは実は二〇代の終わりからだ。
ヒロキさんはそもそも芝居自体に興味がなかったのだ。
ヒロキさんが芝居をやることとなった理由ーーそれは、高校時代の友人に劇団を立ち上げるに当たって役者が足りないからやって欲しいま頼まれたことにあった。
芝居など興味もなく友人に頼まれたからと何となく始めてみたが、思いもよらず面白かったらしく、仕事を辞めてプロの舞台屋として裏で活躍するようになったとのことだった。
ちなみに、その立ち上がった劇団というのが『ブラスト』だったのだ。
ヒロキさんの芝居人生は『ブラスト』から始まった。それも、芝居に関わり始めた当初のヒロキさんは、この当時のおれと同じ年齢だった。
しかも、古株のメンバー曰く、役者としての雰囲気もおれとそっくりだったのだそうだ。
自分の中で何かが突き動かされる。何かはわからない。自分の中の取るに足らないセンチメンタリズムかもしれない。だが、マインドの中には熱い何かがあった。
自分の中で沸き上がる灼熱が、おれのマインドを焼いていた。翌日は、小屋入りだったーー
とこんな感じ。次回は小屋入りとリハかな。終わりが見えてきたな。
アスタラビスタ。
それはまるで冷たい空気が一年の終わりを告げるよう。
おれは夏が嫌いだけど、冬も嫌いだ。理由は単純に身体が気温についていかないからだ。
じゃあ、どの季節なら大丈夫なんだよって話なんだけど、強いていうなら秋が好きで、それ以外の季節は基本的に嫌い。
とはいえ、冬の終末感は好きでたまらない。特に一二月にもなると、不思議と気分が高揚してしまう。
まぁ、おれの場合は『ブラスト』の公演が終わると一年も終わりだなと思えるのだ。といってもそれも昔の話だけど。
さて、昨日の詐欺アカとのディスコミュニケーションの話はあまりのくだらなさに自分でも辟易としてしまったーーてか、今度「辟易」ってワードを縛る期間を設けてもいいかもな。口癖、手癖は進歩を妨げるでな。
あらすじーー「佐野が指定した場所、それはラーメン屋だった。武井は複雑な気分の中、佐野とラーメンを食べ、別れ際佐野にいわれた『人を100パーセント信じてはいけない』ということばの意味に考えを巡らせるのだった」
うん、前回の『ミスラス』のあらすじだな。まぁ、今回の更新分でヤツも出てきたし、中盤ってところなんで、もう少ししたら新作をあげていきますわ。
で、本当のあらすじは、二回目の通しはまぁまぁの出来で、あとは本番に向けて気を抜かずに稽古を続けていくことを誓ったのだ、って感じだな。マイナーチェンジは気にするな。
じゃ、書いてくーー
本番まで残り一週間、この週はラストスパートということもあり、平日でも出来る限り稽古をしようということになった。
おれも可能な限り参加し、最後に賭けた。集まった人で通しをし、出来る限りのことをした。大野さんも稽古に積極的に参加し、これまでの芝居から少しずつマイナーチェンジして、可能な限り完成形へと近づけていく。
通しも全力だった。袖でボロボロになった台本を手にしつつ見落としはないかを確認し、最後の最後まで神経を尖らせる。
だが、ひとつ大きな問題があった。それは、病人の動きができないことだった。
病人の動きだけは、自分の中でまだ消化できないでいた。セリフ回しはもう病人なのだが、動きだけは健常者に近いというワケのわからない状態になっていた。
わからない。どうすればいいのだろう。
ヨシエさんも大野さんに付きっきりな感じになっていて、大方芝居が出来上がっているおれへはこれといったダメ出しはない。
もしかしたら、この時点である程度のレベルまでできていたのかもしれないが、おれの中ではどうにも納得がいかなかった。
残り一週間を切っているというのに、どうしてこんなことで悩んでいるのだ、おれは。
芝居をやるとわかるのだろうけど、人は自分の芝居に関してドツボにハマりやすい。自分の意識のベクトルが自分自身に向きすぎて、どうすればいいかわからなくなるのだ。
こういう場合は中々抜け出せない。わからないと思いつつ、潜在的な意識のなかで自分の芝居が正しいと思っているからだ。
だから、肩の力を抜いて、気楽に自分の役に向き合うくらいがちょうどいいのだけど、始めたばかりの自分は、すべてを全力で取り組むことに意味があると思っていた。いや、多分、おれは驕っていたのだろう
最後の稽古日、木曜日の平日稽古。ヨシエさんはあおいと大野さんに付きっきり。おれは手の空いているヒロキさんに自分の芝居の相談をした。ヒロキさんはーー
「今の時点でもできてることはできてるけど、まぁ、確かにまだできる感じはあるなぁ。てか、今それに気づくなよ」
ヒロキさんは笑っていた。それから今のおれにできることを伝えてくれた。それは、演出が決まって動きも決まった中で変に形を変える必要はない。ヒントはいつだって、どこにだってあるということだった。
ヒントはいつだって、どこにだってある。その通りだった。ヒントなんてどこにだってあるのだ。おれはヒロキさんにお礼をいい、改めてできることを考えてみた。するとーー
「お前は本当によく頑張るなぁ」
とヒロキさんからお褒め頂いた。この稽古期間、何度ヒロキさんからそういわれたかはわからない。あおいがいうには、ヒロキさんがここまで人を褒めることは珍しいとのことだった。
「多分、芝居を始めた頃の自分と、竜也くんがどこかダブルんだろうね」あおいはいった。
ヒロキさんはプロの舞台屋ではあるが、それを始めたのは実は二〇代の終わりからだ。
ヒロキさんはそもそも芝居自体に興味がなかったのだ。
ヒロキさんが芝居をやることとなった理由ーーそれは、高校時代の友人に劇団を立ち上げるに当たって役者が足りないからやって欲しいま頼まれたことにあった。
芝居など興味もなく友人に頼まれたからと何となく始めてみたが、思いもよらず面白かったらしく、仕事を辞めてプロの舞台屋として裏で活躍するようになったとのことだった。
ちなみに、その立ち上がった劇団というのが『ブラスト』だったのだ。
ヒロキさんの芝居人生は『ブラスト』から始まった。それも、芝居に関わり始めた当初のヒロキさんは、この当時のおれと同じ年齢だった。
しかも、古株のメンバー曰く、役者としての雰囲気もおれとそっくりだったのだそうだ。
自分の中で何かが突き動かされる。何かはわからない。自分の中の取るに足らないセンチメンタリズムかもしれない。だが、マインドの中には熱い何かがあった。
自分の中で沸き上がる灼熱が、おれのマインドを焼いていた。翌日は、小屋入りだったーー
とこんな感じ。次回は小屋入りとリハかな。終わりが見えてきたな。
アスタラビスタ。