【帝王霊~伍拾~】
文字数 1,021文字
身体の痛みで目が覚めた。
全身がアザだらけであろうことは身体の痛みで何となくわかる。筋肉痛でないのはすぐにわかった。内から来る痛みなら、もっと不愉快な感じがある。
手足が擦れる不快感がじわじわと身体を犯していく。目を覚ますまでに、あまりにも多くの情報があたしの頭を刺激した。
目を開けると、何処かのガレージのような場所だった。それこそ、本当にワゴン車のような車が二、三台ぐらい収まっていそうな、そんな場所だ。金属の棚には無数の工具があり、電ドラや電ノコといったモノがそこら辺を無機質に彩っている。電灯は冷たい白色光。そうでなくとも寒いのに、無駄に寒さを感じさせるような環境が、まったくもって不快だった。
「気がついた?」
聞き覚えのある声ーーそれも出来ることなら聞きたくなかった声。あたしの隣にはあの女がいた。
佐野めぐみーーヤーヌス・コーポレーションの代表取締役だった成松蓮斗の秘書であり、愛人だった女。佐野はいつもの華美か、あるいは挑発的な格好ではなく、簡素なTシャツ姿。それも半袖で、油やら土埃で汚れている。下はスウェット。靴下ははいていない。足はそのまま、手は上で縛られ今にも脇の下が見えそうだった。顔はちょっとしたアザがついている。
「あら、とうとうアンタもマゾヒストになったんだ。ドの付く変態だとは思ってたけど、そっちのベクトルだとは知らなかった」
あたしは皮肉をいってやった。と、佐野はーー
「ふふ、そういうアナタも相当縛られることが好きみたいだね」
全然好きではない。むしろキライなのだが、あたしの素行が良すぎるせいで、あたしのことを縛っておきたい変態が結構な数いるらしい。
「あたしはアンタと違ってセックスを体現したような女じゃなくてね。で、どうしてあたしとアンタが揃ってーー」あたしはハッとして辺りを見回した。「詩織さんは!?」
詩織の姿はなかった。確かに意識を失う前までは一緒だった。上手く逃げ切れたか、それともーー
「あらぁ。鈴木詩織を知ってるんだ」佐野はタルい声でいった。
「詩織さんを知ってるの?」
「知ってるよ。彼女のお兄さんも、ね」
佐野が詩織さんと繋がっているとは思わなかった。確かに詩織も裏の仕事をしているようではあったし、そのことを考えると佐野との繋がりがあっても可笑しくはないだろう。だとしたら、詩織は佐野と同業者だろうか?
「前から訊きたかったんだけどさ、アンタってーー」
突然に木のドアが開く音がした。
【続く】
全身がアザだらけであろうことは身体の痛みで何となくわかる。筋肉痛でないのはすぐにわかった。内から来る痛みなら、もっと不愉快な感じがある。
手足が擦れる不快感がじわじわと身体を犯していく。目を覚ますまでに、あまりにも多くの情報があたしの頭を刺激した。
目を開けると、何処かのガレージのような場所だった。それこそ、本当にワゴン車のような車が二、三台ぐらい収まっていそうな、そんな場所だ。金属の棚には無数の工具があり、電ドラや電ノコといったモノがそこら辺を無機質に彩っている。電灯は冷たい白色光。そうでなくとも寒いのに、無駄に寒さを感じさせるような環境が、まったくもって不快だった。
「気がついた?」
聞き覚えのある声ーーそれも出来ることなら聞きたくなかった声。あたしの隣にはあの女がいた。
佐野めぐみーーヤーヌス・コーポレーションの代表取締役だった成松蓮斗の秘書であり、愛人だった女。佐野はいつもの華美か、あるいは挑発的な格好ではなく、簡素なTシャツ姿。それも半袖で、油やら土埃で汚れている。下はスウェット。靴下ははいていない。足はそのまま、手は上で縛られ今にも脇の下が見えそうだった。顔はちょっとしたアザがついている。
「あら、とうとうアンタもマゾヒストになったんだ。ドの付く変態だとは思ってたけど、そっちのベクトルだとは知らなかった」
あたしは皮肉をいってやった。と、佐野はーー
「ふふ、そういうアナタも相当縛られることが好きみたいだね」
全然好きではない。むしろキライなのだが、あたしの素行が良すぎるせいで、あたしのことを縛っておきたい変態が結構な数いるらしい。
「あたしはアンタと違ってセックスを体現したような女じゃなくてね。で、どうしてあたしとアンタが揃ってーー」あたしはハッとして辺りを見回した。「詩織さんは!?」
詩織の姿はなかった。確かに意識を失う前までは一緒だった。上手く逃げ切れたか、それともーー
「あらぁ。鈴木詩織を知ってるんだ」佐野はタルい声でいった。
「詩織さんを知ってるの?」
「知ってるよ。彼女のお兄さんも、ね」
佐野が詩織さんと繋がっているとは思わなかった。確かに詩織も裏の仕事をしているようではあったし、そのことを考えると佐野との繋がりがあっても可笑しくはないだろう。だとしたら、詩織は佐野と同業者だろうか?
「前から訊きたかったんだけどさ、アンタってーー」
突然に木のドアが開く音がした。
【続く】