【ナオちゃんは東京へいった】

文字数 3,228文字

 おれはもう諦めたんよ。

 いきなり何をナイーヴになってるんだって話なんだけど、おれは諦めたんだ。何をってーー

 あの妄想話をシリーズ化しないということを、だ。

 そう。あの間違い電話から始まったおれの勝手な妄想をシリーズ化することに決めたのだ。

 どうせはじめからシリーズ化する予定だったんだろ?といわれるかもしれないけどさ、当初は本当に一回、多くても二回で終わりにする予定だったんよ。

 でも、書き始めてみたら思いの外長いじゃないの。まぁ、こうやって書き始めたものが長くなるのはおれの悪いクセではあるんだけどさ。

 とはいえ、あそこまでまともに書くつもりもなく、もっとこの駄文集に求められているような、本当に下らなくて、頭の悪さばかりが際立つクソを練り固めたような文章を書くつもりだったんだけど、何か地味にまともなのよね。

 相変わらずイカれてるから心配ない?ーー喜んでいいんだか、悪いんだか。

 そんな感じでこれまでのあらすじだな。

『近藤武蔵は苛立っていた。最愛の存在であるサトコが「牝嫐扠」をバックレ、連絡がつかなくなったからだ。サトコに会いたいーーその思いだけで武蔵は村浜から押収したサトコの履歴書を頼りに、彼女の部屋の前で張り込むが、彼女は帰ってこなかった。そこで武蔵は彼女と電話番号を交換していたことを思い出す。が、電話に出たのは、田舎の三流大学に通ってそうな男の声だったーー』

 とこんな感じ。この「田舎の三流大学に通ってそうな男」というのは、紛れもないおれのことな。まぁ、事実田舎の三流大学出身だしな。

 それはさておき、昨日の続きである。ま、シリーズ化するとはいえ、なるべくさっさと終わらせるわ。出来ればあと三回くらいで。

 じゃ、書いてくーー

 ナオの母、大河原フサエは娘の身の上を案じていた。

 ナオが高校三年生の時のことだ。彼女が東京の大学を受験するといったことに、フサエは同意できなかった。

 東京は恐ろしい街だ。人は冷たく、ご近所同士の繋がりも薄い。犯罪も多く、欲望に魅せられた者たちの百鬼夜行が日常的にストリートを闊歩するアウトサイダーマーケットーーそれがイメージ上の東京という街だった。

 そんな街へたったひとりの娘をやるなど、考えられなかった。大学なら、近隣にあるどこかへ通えばいいと思っていた。確かに自分は大学にはいっていないし、できることなら娘にも大学にはいって欲しい。

 とはいえ、わざわざ東京へいく必要などーーそれに、東京となると実家から通うのは困難で、どこかに下宿しなければならない。

 フサエはナオに学費は出せないといった。本当はそんなことするつもりは微塵もなかった。確かに出費は大きいが、手塩に掛けて育てたたったひとりの娘のためなら、学費ぐらいどうということもなかった。

 だが、学費を出せないといえば、きっと娘は東京へ旅立つことを諦めるだろう。そう思っていた。しかしながら、ナオは「わかった」といってフサエの前から立ち去った。

 フサエは祈ったーーナオが東京の大学に不合格になることを。娘の不幸を祈るなど、親として失格なのはわかっている。だとしても娘が自分から離れるなど、考えられなかった。

 だが、現実は残酷だった。

 気づけば娘が東京へ旅立って半年弱になる。これまで、娘は連絡ひとつ寄越さなかったし、学費は出せないと宣言してしまった以上、自分からは連絡しづらかった。

 だが、日に日に心配は募り、それも今日ではピークを迎えていた。

 大学受験に合わせて買い与えた携帯電話のメールアドレスと電話番号は、メモとして控えて固定電話の傍に張ってあった。

 フサエは携帯電話を持っていなかった。が、娘との連絡をより手軽に取れるようにとこの度自分専用のものを持つことにした。

 夕方、フサエはメモの番号を一つひとつ打ち込んでいった。

 小さい字に、慣れない機械操作のせいで、11桁の数字を打つだけでも随分と苦労する。

 やっとのことで最後の数字を打ち終えると、通話のボタンを押してスマホを耳に当てた。

 初めての携帯電話を使った通話。これが文明の進化というヤツか。フサエは胸の鼓動を抑えつつ、娘が電話に出るのを待った、待ったーー静かに待った。

 ガチャーー繋がった。

 フサエの頬が一気に緩む。

「もしもし、ナオ?元気?」

 思わず声が跳ねる。それもそうだろう。久しぶにひとり娘と話せるのだ。こころが踊らないワケがなかった。がーー、

「え?あ、いや、違いますよ」

 フサエはその意味を測りかね、いった。

「え?ナオじゃないの?」

 電話の向こうの声は更にそれを否定した。娘の声とは似つかわない低音の男の声。もしかしたら、見知らぬ番号からの電話ということもあって、彼氏に出てもらっているのかもーーいや、自分の娘に限って、こんな地方の五流大学に通ってそうな頭の悪そうな声の男と付き合うワケがない。

 そもそも、もし相手がナオの彼氏ならば、ナオの名前をいった時点で、ナオとの関係を訊ねたり何かしらの反応があるだろう。だが、それがなかったということは、

 電話の向こうで話しているこの男が、ナオとはまったく関係ないということだ。

 フサエは恥ずかしさのあまり思わず電話を切ってしまった。相手には申し訳ないが、間違い電話だと承知してくれるだろう。五流大だし。

 きっと、さっきは番号を打ち間違えたのだ。そう思い、フサエは、今度はメモの番号をひと桁ひと桁しっかりと確認しながらボタンを押し、最後に通話のボタンを押した。

 鳴り響くコール音。期待と不安が入り交じる。

 繋がった。

「もしもし、ナオ?元気?」

 今度こそは、とフサエの声は跳ね上がっていた。スピーカーから信号化された声が聴こえてくる。

「あ、いや、違いますけど」

 電話に出たのはさっきの男だった。

「え?」フサエは思わずいった。「何で?」

「多分、番号間違ってますね。もう一度番号を確認してーー」

 電話を切った。ショックだった。さっきはともかく、今回はひと桁ひと桁ちゃんと確認しながらボタンを押した。にも関わらず娘に繋がらないということはーー

 娘はフサエにウソの番号を教えたのだ。

 信じられなかったーー信じたくなかった。確かに、自分は娘の進路をこころから応援してあげられなかった。だが、こんな仕打ちはいくら何でも酷すぎる。

 ひと筋の涙が頬を伝う。悲しみが雫となって、フサエの目から零れ落ちる。

 泣いたーーしおらしく泣いた。

 自分は娘にウソの電話番号を教えられて連絡を拒まれるほどに、嫌われているなんて。

 が、親子の関係は好き嫌いで割り切れるほど簡単なものではない。

 フサエは説明書を片手に慣れない手つきで携帯電話を操作してメールの画面を開くと、時間を掛けてナオのメールアドレスを打ち込み、メールを送った。

 メールはすぐに返ってきた。

 が、その送り主は「ポストマスター」という娘とは程遠い存在だった。内容は意味不明な英語の羅列。フサエは何故娘のアドレスにあなたが返信を寄越すのかと「ポストマスター」にメールを返した。

 が、結果は同じだった。

 やはり、機械は当てにならない。フサエは仕事中の夫に電話し、娘に会いにいくから暫く帰らないといった。

 夫は理解できないようだったが、フサエはそれどころではなかった。半分パニック状態で、まともな思考はできる状態になかった。

 話も半ばで電話を切ると、すぐさま旅立ちの支度をした。衣服とこれまで貯めたヘソクリを鞄に詰め、フサエは家を出た。

 駅に着き、切符売り場の路線図を見上げて行き先と必要な代金を確認する。

 東京までは乗り換えも含めて二〇駅以上。鈍行でいけば随分と時間が掛かるが、特急に乗りさえすれば二、三時間で着くだろう。後のことはその時考えればいい。

 フサエはひとり静かに頷いたーー

 はい、終わり。やっぱ全然進まなかったな。ま、いいか。シリーズ化することにしたしな。またゆっくりと書いてくわ。じゃ、

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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