【ニュー・スチューデント・オーダー】

文字数 3,451文字

 秩序が飲み込まれてしまうことがある。

 この世の中、すべてが正しいことはない。中には違法が法になってしまうことだってある。

 ギャングが警察と癒着して公然と人を殺したり、政治家が自分の利益の為に企業と癒着していたりとその形態は様々だ。

 中には法的に黒ではなく、グレーなモノも存在するだろう。だが、そういった法の網を潜り抜けた脱法的なモノも、倫理的に見れば限りなくイリーガルだといっていいのかもしれない。

 ただ、そういった細かな糸のほつれからこそ、秩序は崩壊していく。本来統治されるべきことが、人々の欲望や快楽によって破壊され、無に帰すこともないとはいい切れない。

 まぁ、中々にデリケートな立ち上がりになってしまったけど、今日の話題はそんなシリアスではないと先にいっておこう。

 ただ、先にいったように、秩序がちょっとしたほつれから崩壊するというのは確かなことだとおれは思っている。

 かくいうおれは、基本的にルールや秩序は守るべきだと思っているタイプの人間だ。

 とはいえ、それは「守らなければ、自分に面倒が降りかかる」という自己防衛がベースであるために、その考えが覆されるような出来事が起きてしまえば、平気で秩序を乱すような行動に出ないともいい切れない。

 そもそも、その場の秩序は支配者によって規定されるモノだが、その規定された秩序が余りにも隷属する立場の者からして不都合であれば、暴動等の実力行使によってねじ曲げられることだってあり得るワケだ。

 いってしまえば、おれはそれに近いことをすることも過去にあったということだ。

 だが、そんなおれも昔はそんなことをする度胸もなく、周りに流されがちだった。そして、そんな秩序の崩壊にも流されることもあった。

 さて、今日はそんな秩序の崩壊に流された時の話をしていこうと思うーー

 あれは小学校五年生の時の夏のことだった。小学五年の夏といえば林間学校の時期だが、おれの通っていた五村西小学校もやはり林間学校の時期となっていたワケだ。

 そんな林間学校ともなるとやはり話題に挙がるであろうことはーー

 キャンプファイアーであろう。

 だが、五村西小はどういうワケか、

 キャンプファイアーをやらないということになっていたのだ。

 これは正直理解に苦しむ話だと思う。まぁ、今のご時世だったら密を避けるためにもキャンプファイアーはなしというのもわかるだろうが、この当時はそういった疫病もなかった。

 では、何故キャンプファイアーがなかったのか。その理由は正直よくわからない。マジで覚えてないんだよな。ただ、その代わりーー

 室内でキャンドルファイアーをやるとのことだった。

 まぁ、キャンプファイアーの豪快な感じとは違うが、キャンドルファイアーともなると何ともロマンチックな感じではある。というか、多分、そういうことを狙ったんだと思う。

 これに関しては生徒の間でも何の不満もなくーーもしかしたら、熱いキャンプファイアー派閥がいたかもしれないけどーー、そのまま企画は進行することとなったのだ。

 まぁ、キャンドルファイアーとはいえ、企画進行自体はキャンプファイアーと特に変わりなく、みんなで火を囲って踊ろうということに。

 そんな感じで踊る曲目案をクラス毎に出して、最終的にその案を各クラスの実行委員で話し合って決めることになったワケだ。ちなみにネジの飛んだ女子が、

「モー娘。!」

 とかいって即効で却下されていたのは面白かった。そりゃ採用されんだろうよ。

 それはさておき、最終的に踊る曲目は三曲に決まった。それは、『ジンギスカン』と『マイムマイム』、あと一曲は忘れた。

 そんな感じで、各クラスにて躍りの練習が始まったのだけど、これが中々に面白い。踊りにはまったく興味のなかった当時の五条氏ですら、毎日の踊りの練習の時間が楽しみで仕方なかったくらいだった。

 特に生徒の間で人気があったのは、『ジンギスカン』だった。理由は多分、その躍りのハードさにあったと思う。

 他の二曲は生徒間でも余り人気はなく、実行委員が練習しようと無理くりやらないとみんな練習しない始末ーーちなみにこの時の実委の女子は、『体育祭篇』に登場した副団長のシーサーだった。シーサーのことは『体育祭篇』を参照してくれよな。

 シーサーの呼び掛けで漸く『ジンギスカン』以外の二曲を練習するのだけど、みんな火を見るより明らかにやる気がない。んで、シーサーが、

「ちゃんとやってよ!」

 とみんなを注意するのだけど、やっぱりみんなちゃんとやらない。どんだけ隊列の乱れたクラスなんだよ。

 そんな中、ある日の躍りの練習の時、一部の生徒発で、何人かが『ジンギスカン』の時に奇妙な発声をするようになったのだ。

 何といっているのかわからなかったのだけど、おれも何となくそれに便乗することに。だが、まだその当時はそこまで仲良くなかったキャナに、

「おいおい、全然違えよ」

 といわれたのだ。これにはおれもムッとしてしまいまして、

「じゃあ、何ていってんだよ」

 と訊いたのだけど、キャナの答えはーー

「『はいッ! 性毛ですッ! もちろんですッ!』だろ!」

 改めて考えるとかなり狂気である。

 性毛がわからないという人にーーいや、自分で調べてくれ。ちなみに、この当時の五条氏は性毛の意味がわからなかったのだけど、キャナに意味を聴いて、苦笑いしてしまったよな。

 とはいえ、この『はいッ! 性毛ですッ! もちろんですッ!』のコールはやってみると中々気持ちのいいモノで、おれもすぐにハマってしまったのだ。

 ちなみに、これを始めたのはキャナと春樹という。未だに付き合いのある友人ふたりがこのイカれたセンセーションの仕掛人だなんて、やっぱ五村西はイカれてるな。それはさておきーー

 はじめは数人から始まった『性毛コール』だったのだけど、気づけば担任のいる練習時間にクラスの九割ほどがコールするという異常事態にまで発展してしまい、うちのクラスでは担任から、『性毛禁止令』が出るほどだったーー何が『性毛禁止令』だよ。

 そんな感じで林間学校当日のキャンドルファイアーの時間。教員と実行委員の呼び掛けで早速踊りが始まった。

 最初の曲は件の『ジンギスカン』だ。

 おれはもう怒られてもいいから『性毛コール』をしようと思っていたーーシンプルに品のないガキである。

 そんな感じでミュージックスタート。みんな一堂に踊り出す。そして、サビがやって来る。そして、おれはーー

 『性毛コール』をシャウトしたのだ。

 いやぁ、気持ち良かったね。やはり背徳的なワードをシャウトするのは何ともいえない気持ちよさがあるよな。そして、何よりも驚いたのはーー

 学年の殆どの生徒が『性毛コール』をしていたことだ。

 これには学年の教員たちも眉間にシワを寄せてたよな。中には苦笑いしていた教員もいたけど、火がついた生徒たちを止めることなど出来ずーー

 学年一丸となった『性毛コール』が繰り広げられることとなったのだ。

 何と品のない学校だろうと思われるだろうけど、その通りである。はいッ! 性毛ですッ! もちろんですッ!

 そんな感じで学年の殆どが卑猥なコールをしながら踊っていたのだけど、もはやそこに秩序なんかなかったよな。教員も止めなさいとはいうには、勢いが凄すぎたようだった。

 熱気に包まれた『ジンギスカン』改め、『チンギスカン』だったが、始まりがあれば終わりもある。曲が終わり、次曲の『マイムマイム』のアナウンスがあったのだけど生徒たちは大ブーイング。みんなして、

「性毛がいいー!」

 とかいってた。品性なんてなかった。

 とはいえ、そんな要望は通らず、次曲の『マイムマイム』となったのだけど、みんな全然やる気がない。その次の曲に至ってはみんな振り付けを覚えてない。完全なる反抗。

 これには教員たちもため息をつき、

「わかりました。『ジンギスカン』をもう二、三回やりましょう。『性毛』もオッケーです」

 となったのでした。何だよ、『性毛オッケー』って。爆笑問題カーボーイか。

 まぁ、この宣言には生徒みんなして狂気乱舞でして、その後十分以上に渡って、『はいッ! 性毛ですッ! もちろんですッ!』という品位の欠片もないワードを学年中の生徒がシャウトしましたとさ。ここに秩序なんかなかった。

 アンタらも何かに不満があったら『性毛コール』をするといいかもしれないーー

 いいワケねぇだろ。

 アスタラ。
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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