【喰われた男は胃の中で踊る】
文字数 2,003文字
勘違いというのは怖いモノだ。
そもそも自分と他の意識のズレだけでも恐ろしいのに、それが水面下で勝手に進行していくだけで多大なる誤解やトラブルを生みかねないと考えると、普段から適当なことはできないなと思ってしまう。
かくいうおれも勘違いを起こすというのはしょっちゅうだったりする。そもそも注意力が散漫で観察眼も腐っているため、ちゃんと話を聴いたつもりでも何かしらの要因でそれが形を変えて頭の中に残り続けてしまうのだ。
今日はそんな勘違いから生まれたことの話。少し開いてしまったけど、テリーからのメッセージの話の続きです。あらすじーー
『初舞台を終えた後のこと、テリーから市のイベントの司会を共同で行ってくれないかという申し出を引き受けた五条氏は、自分がとんでもない勘違いをしていることに気づくのだった』
とこんな感じ。ではやっていこうかねーー
「え、どういうこと?」
ラインの文面を再確認したおれは思わず声を上げた。そこに書いてあったのはーー
「五村のゆるキャラ『ごむリン』に入って一緒に司会して欲しいんだ。あと、着ぐるみ着たまま踊って貰うことになるかも」
……ど、どういうことでしょうか?
着ぐるみを着ての司会、しかも踊るかもしれないなんて聴いてないーーいや、おれがただ単に見落としただけなんだけど。
にしても、これだけしっかりと表記されていてどうして気づかなかったのだろうか。まぁ、元々注意力散漫なのとテリーからの依頼ってことでメッセージを斜め読みしてしまったのだろうね。
しかし、ゆるキャラの着ぐるみを着て踊るというのはどうなのだろう。
おれはたった一度だけとはいえ役者としてステージに立ち、ボーカリストとしては何度となくステージに立っている。いってしまえば、そこら辺の人と比べるとほんのちょっとだけ舞台度胸がある程度である。
着ぐるみを着て何かをするのはやったことはない。ただ、恐らくは出来なくはないだろう。
しかし、ここでやはり立ちはだかるのがパニックの問題だった。
別に閉所恐怖症でない。ただ、唐突にやってくるパニックに、着ぐるみに入った状態で陥ってしまったらどうなってしまうだろう。そう考えるだけで恐ろしくて仕方なかった。
そんなこと一々考えなければいいとも思われるかもしれないけれど、一度パニックになってしまうとこういったゴミのような思考がパッと浮かんでは、いつまでもこびりつくようになってしまう。
これは勿論、バグった防衛本能から来るモノで『予期不安』という恐らくはまったく役に立っていないであろう機能なのだけど、パニックのような精神疾患になると、この予期不安によって行動が阻害されることが多々ある。
だからこそ怠けているように見えるのだろうけど、何ともないように見えて実際内側ではドス黒い悪夢が渦巻いているというワケだ。
この時のおれはそんな悪夢の真っ只中。一番酷い時と比べればずっとマシではあったけど、一度脳に染み込んだ予期不安を払拭するには矛盾しているようではあるが、人がたくさんいる場所にいったり人前に出るようなシチュエーションに自分を置いたりして精神を慣らすしかない。
これは所謂『認知行動療法』というやり方で、薬を使うよりは時間と手間が掛かるとはいえ、効果的で末永く役立つ。
おれも薬にはあまり頼らずに認知行動に重きを置いた治療をしたのだけど、今現在のことを考えるとやはりかなり効果があったのだと思う。それはさておきーー
初めての着ぐるみを着たままの演技、パフォーマンスというワケで。おれもどうすっかなとなったのだけど、今更断るワケにもいかず、取り敢えずテリーに、
「わかりました!」
とだけ伝えたのだけど、本当は困ってしまったんよね。
そもそも着ぐるみを着たまま踊るというのも中々ハードルが高い。
この当時のおれはダンスというのが兎に角苦手だった。大学時代にお祭りバンドのゲストとして出ることになった時、本番の一週間前に即興で振り付けをしてステージに立ったことはあるとはいえ、それは本質的なダンスの上手さとはまた別の話。
今は減量にダンスエクササイズを取り入れたお陰で改善はされたけど、この時は身体全体でリズムをとって動くなんて全然できなかった。
おれはあおいに自分がとんでもない勘違いをしていたことを話して相談してみたのだけど、
「面白そう! 期待してるね!」
だからな。完全におれが『ごむリン』になるのを楽しみにしてるじゃないの。
今更だけど『ごむリン』は五村のゆるキャラなのだが、元のキャラの設定を話すと二秒で特定出来てしまうので端的にいうと、妖精だ。
そうか、おれはごむリンの中に入って踊ることになるのか……。
頭の中で複雑に絡まった思惑が、ナイーブな感情となって表面化した。
とまぁ、今日は終わり。次回からは稽古に入る。あと二回かな。というワケでーー
アスタラビスタ。
そもそも自分と他の意識のズレだけでも恐ろしいのに、それが水面下で勝手に進行していくだけで多大なる誤解やトラブルを生みかねないと考えると、普段から適当なことはできないなと思ってしまう。
かくいうおれも勘違いを起こすというのはしょっちゅうだったりする。そもそも注意力が散漫で観察眼も腐っているため、ちゃんと話を聴いたつもりでも何かしらの要因でそれが形を変えて頭の中に残り続けてしまうのだ。
今日はそんな勘違いから生まれたことの話。少し開いてしまったけど、テリーからのメッセージの話の続きです。あらすじーー
『初舞台を終えた後のこと、テリーから市のイベントの司会を共同で行ってくれないかという申し出を引き受けた五条氏は、自分がとんでもない勘違いをしていることに気づくのだった』
とこんな感じ。ではやっていこうかねーー
「え、どういうこと?」
ラインの文面を再確認したおれは思わず声を上げた。そこに書いてあったのはーー
「五村のゆるキャラ『ごむリン』に入って一緒に司会して欲しいんだ。あと、着ぐるみ着たまま踊って貰うことになるかも」
……ど、どういうことでしょうか?
着ぐるみを着ての司会、しかも踊るかもしれないなんて聴いてないーーいや、おれがただ単に見落としただけなんだけど。
にしても、これだけしっかりと表記されていてどうして気づかなかったのだろうか。まぁ、元々注意力散漫なのとテリーからの依頼ってことでメッセージを斜め読みしてしまったのだろうね。
しかし、ゆるキャラの着ぐるみを着て踊るというのはどうなのだろう。
おれはたった一度だけとはいえ役者としてステージに立ち、ボーカリストとしては何度となくステージに立っている。いってしまえば、そこら辺の人と比べるとほんのちょっとだけ舞台度胸がある程度である。
着ぐるみを着て何かをするのはやったことはない。ただ、恐らくは出来なくはないだろう。
しかし、ここでやはり立ちはだかるのがパニックの問題だった。
別に閉所恐怖症でない。ただ、唐突にやってくるパニックに、着ぐるみに入った状態で陥ってしまったらどうなってしまうだろう。そう考えるだけで恐ろしくて仕方なかった。
そんなこと一々考えなければいいとも思われるかもしれないけれど、一度パニックになってしまうとこういったゴミのような思考がパッと浮かんでは、いつまでもこびりつくようになってしまう。
これは勿論、バグった防衛本能から来るモノで『予期不安』という恐らくはまったく役に立っていないであろう機能なのだけど、パニックのような精神疾患になると、この予期不安によって行動が阻害されることが多々ある。
だからこそ怠けているように見えるのだろうけど、何ともないように見えて実際内側ではドス黒い悪夢が渦巻いているというワケだ。
この時のおれはそんな悪夢の真っ只中。一番酷い時と比べればずっとマシではあったけど、一度脳に染み込んだ予期不安を払拭するには矛盾しているようではあるが、人がたくさんいる場所にいったり人前に出るようなシチュエーションに自分を置いたりして精神を慣らすしかない。
これは所謂『認知行動療法』というやり方で、薬を使うよりは時間と手間が掛かるとはいえ、効果的で末永く役立つ。
おれも薬にはあまり頼らずに認知行動に重きを置いた治療をしたのだけど、今現在のことを考えるとやはりかなり効果があったのだと思う。それはさておきーー
初めての着ぐるみを着たままの演技、パフォーマンスというワケで。おれもどうすっかなとなったのだけど、今更断るワケにもいかず、取り敢えずテリーに、
「わかりました!」
とだけ伝えたのだけど、本当は困ってしまったんよね。
そもそも着ぐるみを着たまま踊るというのも中々ハードルが高い。
この当時のおれはダンスというのが兎に角苦手だった。大学時代にお祭りバンドのゲストとして出ることになった時、本番の一週間前に即興で振り付けをしてステージに立ったことはあるとはいえ、それは本質的なダンスの上手さとはまた別の話。
今は減量にダンスエクササイズを取り入れたお陰で改善はされたけど、この時は身体全体でリズムをとって動くなんて全然できなかった。
おれはあおいに自分がとんでもない勘違いをしていたことを話して相談してみたのだけど、
「面白そう! 期待してるね!」
だからな。完全におれが『ごむリン』になるのを楽しみにしてるじゃないの。
今更だけど『ごむリン』は五村のゆるキャラなのだが、元のキャラの設定を話すと二秒で特定出来てしまうので端的にいうと、妖精だ。
そうか、おれはごむリンの中に入って踊ることになるのか……。
頭の中で複雑に絡まった思惑が、ナイーブな感情となって表面化した。
とまぁ、今日は終わり。次回からは稽古に入る。あと二回かな。というワケでーー
アスタラビスタ。