【当たり屋稼業は割に合わぬ】
文字数 2,743文字
ご自分の注意力は如何だろうか?
中には「石橋を叩いても渡らない」と形容しても可笑しくない程に警戒心が強い人も存在するし、逆にいえば、自ら火中へ飛び込んでいく羽虫のように注意力散漫な人もいる。
まぁ、それはそれで何不自由なく暮らせているのであれば問題はないし、おれのようなチンピラが下手に口出すようなことでもないのだけど、個人的に思うのは、注意力が強すぎるのも弱すぎるのも如何なモノかということだ。
というのも、注意力が強すぎると思考を行動に移しづらくなり、いざという時に動けなくなるということも普通にあると思うからだ。
そうすれば、絶好のチャンスという時でも、「あっ、でも、どうなるかわからないし、少し様子見をしようか」という具合になってしまい、気づけば別の誰かにそのチャンスを取られてしまったり、チャンス自体が逃げてしまったりなんてこともあると思うのだ。
そういう視点から行くと、注意力がぶっ壊れているような人というのは、チャンスを掴みやすくなるのかもしれない。ただ、何でもかんでも飛び込んでいけるような注意力のなさは、チャンスだけでなくトラブルも呼び込む。
結局のところ、注意力も程よさが肝心なんだと思うのだ。強すぎても弱すぎてもそれ相応にリスクや問題が生じかねない。
それならば、ある程度のラインで警戒心を緩め、ある程度のラインはダメと、こんな感じのスタンスでいたほうがいいと思うのだ。
まぁ、それが難しいから過度に警戒心が強くなったり、注意力が散漫になったりするんだろうけどな。
さて、かくいうおれはというと、かなり注意力散漫な人間だ。
かといって警戒心がないワケではない。というか、どちらかといえば保守的な部類の人間でもあるせいで、いざという時に動けず、注意力も散漫だから不注意からとんでもないことをやらかしがちという、色んな意味でバカ丸出しの無限地獄といった感じであるワケだ。
そんな不注意なおれではあるのだけど、不意にある人を前の役職名で呼んでしまったりして、年下からも「いい加減覚えろよ」と呆れ半分にいわれるようなザマなワケだ。これが昇進した人だったから良かったモノの、降格だったら目も当てられんよな。
まぁ、とはいえ注意力散漫なクセに、変に保守的という性質がまったく役に立たなかったかといわれるとそういうワケではない。だが、そうはいってもトラブルの元にはなりやすいのはいうまでもないーー当たり前だけどさ。
さて、今日はそんな不注意が招いたトラブルの話だーー
あれは昨年のことだった。
シーズン的には夏真っ盛りといったところだった。夏と五条は犬猿の仲ともいわれるーー今勝手に造語したのだけどーーくらいなんで、やはりその夏も自律神経がやや逝ってしまっていたのだけど、そういう時に限って、仕事がやたらと忙しかったりするのだ。
まぁ、そんなとある仕事の最中である。
唐突に腹痛がやって来たのだ。
これはマズイと思ったよな。というのも、この腹痛が食中毒やただの体調不良から来るもんじゃないだろう、と何となくわかってしまったからだった。というのもーー
お尻の辺りにビッグなイベントが来やがったのだ。
朝から汚い話で本当に申し訳ないし、電車内でこれを読んで思わずという人だっていると思う。だけど、スマン。こればかりは人間の生理現象なんで本当に申し訳ない。ビッグだったのだ。
あぁ、マズイ……。そう思いつつも、こういう日に限ってワンオペで仕事しなければならず、目の前の作業を終わらせることを優先せざるを得なかったおれは、下腹部の鈍い痛みを堪えつつ、何とか作業をいつも通りの早さでこなしていたのだ。
しかし、限界は唐突に来る。
あぁ、ダメだわこれ。そう感じたおれは、目の前でおれの作業を待っている人がいるというのに、
「あっ……、ごめん……、ちょっと、トイレ……」
と敬語ゼロの不遜な態度で走り去ろうとしたのだ。まぁ、向こうも笑いながら、
「早く行け! 行け!」
といってたので大丈夫だと思う。あと、付き合いも長いんで、大丈夫だと願いたい。
そんなワケで、持ち場近くにいたトルコ人みたいな見た目をしたギャンブル狂の主任に、
「乗るしかないよな、このビッグウェーブに!
あとよろしく!」
とワケのわからないことをいい残して走行厳禁の社内を全力で走ってトイレへと向かったのである。こんなんで何故クビにならないのか、自分でも甚だ疑問ではある。
まぁ、おれのいる会社というか作業場は、トイレに行く前にひとつ、事務所だったり、二階への階段だったりを繋ぐ扉があるんで、それをくぐらないといけないんだけど、まぁ、それはどうでも良く、おれはトイレの扉への繋ぎとなる扉を思い切り開けたのだ。そしたらーー
何かにぶつかったのだ。
そして、「痛いッ!」という男性の悲鳴。
いや、これはイヤな予感がしたよな。まぁ、そんなワケで、おれは恐る恐るドアの向こう側を確かめたのだ。そしたらーー
所長が腕を庇っていたのだ。
そう、過失ではあるが、おれは所長の腕をドアで思い切りぶっ飛ばしてしまったのだ。
もうね、やっちまいましたよね。
いや、それ以前に何でドアのすぐ近くで事務員と会話してんのよ、といいたいことはあったのだけど、トイレに行きたい!という純粋なる欲望がおれに頭を下げさせたのだ。
「ごめんなさい! 急いでいたモノで!」
まぁ、トイレで急いでいたとはいえなかったよな。
そんな中、所長も苦悶の表情を浮かべながら、
「……いいよ、全然」
と、絶対いいよと思ってないだろうって雰囲気を漂わせながらいっていました。事務員の人も焦り120%の面持ちで、
「これからは気をつけて下さい」
といっていたのだ。まぁ、こん時はトイレ優先で、ドア前で話してるほうがどうかと思うぞ!とも思ったけど、考えてみれば、この時の事務員のひとことは助け船だったんだろうな。それはさておきーー
「本当に申し訳ありませんでした!」
といって、おれはその場を走り去ったのでした。まぁ、トイレはすぐ目の前だったんだけど、所長の手前、トイレに急いでドアでぶっ飛ばしてしまったとなると、心象が悪いだろうからーー、
わざわざ上の階のトイレまで走りましたよ。
結果、何とか間に合ったーーてか、この年でお漏らしは色んな意味でキツいよな。
と、一昨日、またドアの前で話していた所長を危なくドア・スマッシュしそうになって、このことを思い出した次第です。
ほんとドアの前で話すのは止めてくれ……。
ちなみに、その後は所長からどうということもなく、五条氏は平和に過ごしていますとさ。ほんと、何でクビにならないんだ、おれは。
朝からお目汚し、失礼。
アスタラ。
中には「石橋を叩いても渡らない」と形容しても可笑しくない程に警戒心が強い人も存在するし、逆にいえば、自ら火中へ飛び込んでいく羽虫のように注意力散漫な人もいる。
まぁ、それはそれで何不自由なく暮らせているのであれば問題はないし、おれのようなチンピラが下手に口出すようなことでもないのだけど、個人的に思うのは、注意力が強すぎるのも弱すぎるのも如何なモノかということだ。
というのも、注意力が強すぎると思考を行動に移しづらくなり、いざという時に動けなくなるということも普通にあると思うからだ。
そうすれば、絶好のチャンスという時でも、「あっ、でも、どうなるかわからないし、少し様子見をしようか」という具合になってしまい、気づけば別の誰かにそのチャンスを取られてしまったり、チャンス自体が逃げてしまったりなんてこともあると思うのだ。
そういう視点から行くと、注意力がぶっ壊れているような人というのは、チャンスを掴みやすくなるのかもしれない。ただ、何でもかんでも飛び込んでいけるような注意力のなさは、チャンスだけでなくトラブルも呼び込む。
結局のところ、注意力も程よさが肝心なんだと思うのだ。強すぎても弱すぎてもそれ相応にリスクや問題が生じかねない。
それならば、ある程度のラインで警戒心を緩め、ある程度のラインはダメと、こんな感じのスタンスでいたほうがいいと思うのだ。
まぁ、それが難しいから過度に警戒心が強くなったり、注意力が散漫になったりするんだろうけどな。
さて、かくいうおれはというと、かなり注意力散漫な人間だ。
かといって警戒心がないワケではない。というか、どちらかといえば保守的な部類の人間でもあるせいで、いざという時に動けず、注意力も散漫だから不注意からとんでもないことをやらかしがちという、色んな意味でバカ丸出しの無限地獄といった感じであるワケだ。
そんな不注意なおれではあるのだけど、不意にある人を前の役職名で呼んでしまったりして、年下からも「いい加減覚えろよ」と呆れ半分にいわれるようなザマなワケだ。これが昇進した人だったから良かったモノの、降格だったら目も当てられんよな。
まぁ、とはいえ注意力散漫なクセに、変に保守的という性質がまったく役に立たなかったかといわれるとそういうワケではない。だが、そうはいってもトラブルの元にはなりやすいのはいうまでもないーー当たり前だけどさ。
さて、今日はそんな不注意が招いたトラブルの話だーー
あれは昨年のことだった。
シーズン的には夏真っ盛りといったところだった。夏と五条は犬猿の仲ともいわれるーー今勝手に造語したのだけどーーくらいなんで、やはりその夏も自律神経がやや逝ってしまっていたのだけど、そういう時に限って、仕事がやたらと忙しかったりするのだ。
まぁ、そんなとある仕事の最中である。
唐突に腹痛がやって来たのだ。
これはマズイと思ったよな。というのも、この腹痛が食中毒やただの体調不良から来るもんじゃないだろう、と何となくわかってしまったからだった。というのもーー
お尻の辺りにビッグなイベントが来やがったのだ。
朝から汚い話で本当に申し訳ないし、電車内でこれを読んで思わずという人だっていると思う。だけど、スマン。こればかりは人間の生理現象なんで本当に申し訳ない。ビッグだったのだ。
あぁ、マズイ……。そう思いつつも、こういう日に限ってワンオペで仕事しなければならず、目の前の作業を終わらせることを優先せざるを得なかったおれは、下腹部の鈍い痛みを堪えつつ、何とか作業をいつも通りの早さでこなしていたのだ。
しかし、限界は唐突に来る。
あぁ、ダメだわこれ。そう感じたおれは、目の前でおれの作業を待っている人がいるというのに、
「あっ……、ごめん……、ちょっと、トイレ……」
と敬語ゼロの不遜な態度で走り去ろうとしたのだ。まぁ、向こうも笑いながら、
「早く行け! 行け!」
といってたので大丈夫だと思う。あと、付き合いも長いんで、大丈夫だと願いたい。
そんなワケで、持ち場近くにいたトルコ人みたいな見た目をしたギャンブル狂の主任に、
「乗るしかないよな、このビッグウェーブに!
あとよろしく!」
とワケのわからないことをいい残して走行厳禁の社内を全力で走ってトイレへと向かったのである。こんなんで何故クビにならないのか、自分でも甚だ疑問ではある。
まぁ、おれのいる会社というか作業場は、トイレに行く前にひとつ、事務所だったり、二階への階段だったりを繋ぐ扉があるんで、それをくぐらないといけないんだけど、まぁ、それはどうでも良く、おれはトイレの扉への繋ぎとなる扉を思い切り開けたのだ。そしたらーー
何かにぶつかったのだ。
そして、「痛いッ!」という男性の悲鳴。
いや、これはイヤな予感がしたよな。まぁ、そんなワケで、おれは恐る恐るドアの向こう側を確かめたのだ。そしたらーー
所長が腕を庇っていたのだ。
そう、過失ではあるが、おれは所長の腕をドアで思い切りぶっ飛ばしてしまったのだ。
もうね、やっちまいましたよね。
いや、それ以前に何でドアのすぐ近くで事務員と会話してんのよ、といいたいことはあったのだけど、トイレに行きたい!という純粋なる欲望がおれに頭を下げさせたのだ。
「ごめんなさい! 急いでいたモノで!」
まぁ、トイレで急いでいたとはいえなかったよな。
そんな中、所長も苦悶の表情を浮かべながら、
「……いいよ、全然」
と、絶対いいよと思ってないだろうって雰囲気を漂わせながらいっていました。事務員の人も焦り120%の面持ちで、
「これからは気をつけて下さい」
といっていたのだ。まぁ、こん時はトイレ優先で、ドア前で話してるほうがどうかと思うぞ!とも思ったけど、考えてみれば、この時の事務員のひとことは助け船だったんだろうな。それはさておきーー
「本当に申し訳ありませんでした!」
といって、おれはその場を走り去ったのでした。まぁ、トイレはすぐ目の前だったんだけど、所長の手前、トイレに急いでドアでぶっ飛ばしてしまったとなると、心象が悪いだろうからーー、
わざわざ上の階のトイレまで走りましたよ。
結果、何とか間に合ったーーてか、この年でお漏らしは色んな意味でキツいよな。
と、一昨日、またドアの前で話していた所長を危なくドア・スマッシュしそうになって、このことを思い出した次第です。
ほんとドアの前で話すのは止めてくれ……。
ちなみに、その後は所長からどうということもなく、五条氏は平和に過ごしていますとさ。ほんと、何でクビにならないんだ、おれは。
朝からお目汚し、失礼。
アスタラ。