【シスターズ・アクト】

文字数 3,480文字

 翌日からあたしは行動に出た。

 学校へいき席に座ると静かに気持ちを落ち着かせた。これから訪れる困難に打ち勝つには生半可な気持ちではいけない。勝負は、瞬間的なチャンスをモノにした者が勝つ。

 さぁ、やれるものならやってみろ。

 始業のチャイムが鳴る。ここまでは特に異常なし。だが、八重は大丈夫だろうか。慣れないことをするのは本人的にもストレスだろうが、それはあたしも同じだった。

 授業が終わる度にトイレへいく。わざと隙を作って八重にイタズラしている犯人を炙り出すためだ。

 トイレを終えハンカチで手を拭いながら廊下を歩く。

 屯している連中すべてが敵に見える。気取ったヤンキーに、派手なだけのギャル、独特な笑い声をあげるオタク、特に色のない無色透明な生徒たち。意識を集中し、感覚を研ぎ澄ます。

 足に何かが掛かった。

 あたしは、その場で転んだ。受け身を取ったからよかったものの、運動センスのない八重がこれを受けたら、下手すれば大事故になる。

 すぐさま振り返り、あたしの足を引っ掛けた名無しの権兵衛を探した。

 いなかった。

 というより人に溢れた廊下では、誰が犯人かを特定することは困難だった。

 昨日、あたしは八重に同学年で仲の悪い人はいるかと訊ねたのだが、流石の人格者といったところだろうか、八重はそういう相手に覚えはないといった。もしかしたら、八重は他人のヘイトに気づいていないのかもしれない。

 こんな目に遭っても、あたしに声を掛けてくる者はいない。ただ、野次馬的にこっちを眺めてオロオロするだけのヤツと、好奇の目を向けてくるヤツ、申し訳なさそうにその場から立ち去るヤツ、完全に無関心なヤツとろくでなしならいくらでもいる。人間なんてそんなもんだ。

 あたしは立ち上がり、衣服についた埃を払うと、改めて周りの様子を確認し教室へ戻った。

 その日の全カリキュラムが終了し、あたしはすぐさま家に帰った。八重も理由をつけてしばらく部活を休むことにしていたため、あたしに続いてすぐ帰宅した。

「大丈夫だった?」

 訊ねると八重は、「うん」と頷き、あたしにも大丈夫かと訊ね返した。あたしが事情を話すと八重は顔を青くしたが、何処にも怪我がないことをアピールして何とか場を収めた。

 しかし、こんな生活はストレスが溜まる。早い内に問題を解決して、さっさと元の生活に戻ったほうがベターなのはいうまでもない。

 あたしは八重のカバンから父の部屋から持ち出した小型のビデオカメラを取り出した。休み時間の一〇分間、八重の机の引き出しに録画状態で入れておいたモノだ。

 理由は当然、机にイタズラする誰かの証拠を少しでも手に入れるためだ。少々音質に難はあるとはいえ、ビデオカメラなら映像だけでなく、机の周りの音声も拾うことができる。

 が、この日は不発だった。

 何の証拠も取れず、カメラはホワイトノイズと騒がしい談笑を拾うばかり。映像もイスの背と微かに覗かれる教室の様子が見れるくらい。

 となると、この日の収穫はあの足掛けだけだった。あたしは更に八重にここ最近気になった出来事はないかと訊ねた。八重が唸りを上げて考え込むので、

「ほんと、ちょっとしたことでいいんだ。誰かに何かキツイことばを掛けられたりとか、人間関係で変わったことは何かなかった?」

「そうだなぁ……、クラスの女子に色々いわれたかも。あと、部活でもちょっと面倒なことがあったし。あと、何人かの男子から告白されたりとか?」

 サラッと羨ましい話ができるとは、流石は八重だ。ま、あたしは今まで誰からも告白されたことないけど。これが姉妹格差というヤツだ。

 それはさておき、八重の話を纏めると怪しいのは以下の五人ということになる。

 ひとり目ーー青田。青田は八重のクラスにいる女子で、所謂「一軍女子」のリーダー格だ。細身でだらしない格好、学校生活にはおおよそ必要のないアクセをつけた青田は、学級委員の仕事のことでイチャモンをつけてきたらしい。

 ふたり目ーー篠原。篠原は八重の部活の女子の先輩だ。といっても、篠原はもう部活を引退しているし、トラブルは起きないのではと思うのだが、篠原は引退後もよく部活に顔を出しており、新部長の八重に因縁をつけたらしい。

 三人目ーー氏田。氏田はあたしと同じクラスの男子だ。細身のイケメンで、女子からは人気があるが、どこか人を見下した態度が鼻につく。氏田と八重は一年の時に同じクラスで、氏田はその頃から八重のことが好きだったらしい。そして、つい最近八重に告白するも敢えなく撃沈したとのことだった。

 四人目ーー諸橋。諸橋はあたしとも八重とも同じクラスにはなったことがなく、詳しいことはあたしもよくはわからないのだが、野球部の新部長とのことだ。彼も氏田同様、八重に告白して撃沈したらしい。

 五人目ーー岡野。岡野はあたしのクラスにいるオタク女子だ。メガネを掛けた小太り女子の岡野は八重とは直接関わりはないのだが、何でもあたしのことが気に食わないらしく、そのことで何故か八重に食って掛かったという。いやいや、ならあたしに直接いえばいいのに。

 困った五人囃子。これで犯人を絞れたといいたいところだが、そういう感じでもなかった。

 というのも、五人の内、誰もが協力者を引っ提げていそうだからだ。

 一軍女子ならその配下となるのはいくらでもいるだろうし、部活の先輩ともなると派閥次第でいくらでも脅威は増える。野球部だってそうだ。氏田も交遊関係が不明な分、ひとりで行動に出るともいい切れない。岡野も同様だ。

 まるで解けないパズルを解いているようだ。こうではないかというアイディアを出しても結局は次から次へと反例が出てくる。

 取り敢えずは、その五人を要注意人物として念頭に置きつつ、調査を継続することにした。

 翌日からは、昨日までの調査方に加え、もうひとつトラップを仕掛けることにした。

 それは、要注意人物五人の下駄箱に、匿名でメッセージを入れておくというものだった。その内容はーー

「お前がやっていること、全部知っているぞ」

 というモノだった。これは別に相手が特に何をしたかは関係なく、ただ、それを読んで相手がどう出るか様子を見たかったのだ。当然、筆跡からあたしが書いたものだとバレないように、パソコンで書いたのだが。

 とはいえ、相手に何も覚えがなければ、メッセージは捨てられるか、怒り狂って終わりだろう。ただ、何か疚しいことがあれば、ソイツは何かしらの動揺を見せるはず。あとはそこを叩けばいい。

 が、カーストが低いほうから攻めていかなければならない。青田のようなカースト上位者になると、クラスメイトにメッセージを晒されて犯人探しが始まる可能性があるからだ。

 加えて、一度に何人もの行動を見ることはできないので、一日ひとりが限界だろう。

 そうしてあたしは行動に出た。朝、誰よりも早く登校し、ターゲットの下駄箱にメッセージを入れる。最初は身近なところから始め、最後にカースト上位の青田に狙いを定める。先輩である篠原に関しては、調査しづらいこともあって、また別の方法を考えるしかない。

 まず男子ふたりだが、やはり何かしら秘密を抱えているのだろう。ふたりともいつもより強がったように見えて、かなり焦っているようだった。スニークして学外での行動も監視したが、案の定、諸橋は後輩イジメをしており、氏田はタバコを吸っていた。

 取り敢えず、諸橋にはイジメの事実を連ねた紙を、氏田には父の私物から抜き取ったタバコを一本、下駄箱に入れておいた。

 結果、氏田はあからさまに何者かの存在に怯え、諸橋は開き直ってキレていた。

 続いて岡崎と青田だが、岡崎もやはり何かしら問題を起こしていたのだろう。何かはわからなかったが、明らかに動揺した後、唐突に泣き出してしまった。青田は、やはり周りに手紙を公表し、犯人探しが始まったーーこればかりは流石に悪手だったかもしれない。

 後は篠原だが、こればかりはどうにもならなかった。中学生でできる調査にも流石に限度がある。

 気づけばまたもや振り出し。とはいえ、イタズラは尚のこと続いていた。カバンの中にカエルや蛇を入れられたり、足を引っ掛けられたり、だ。そしてーー

 調査を始めて一週間が経った時のことである。あたしは八重とともに自室で机に仕掛けておいたビデオカメラを見ていたのだが、

 何と、ビデオカメラが犯人の身体の一部を捉えていたのだ。

 その犯人はスカートを穿いており、体型は華奢で、制服は着崩されていた。

 あたしと八重はともに声を上げた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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