【一年三組の皇帝~弐拾~】
文字数 1,061文字
敗北の味はいつだって苦い。
加えてハメられていたとわかれば、それはどれ程に悔しいモノかいい表すことなんか出来ないだろう。第一、今のぼくがそうだった。
辻は自分の手が何だったか知っていた。遠目でそれを眺めていた海野と山路のことばをブルートゥースイヤホンで聴いて。更には、わざわざぼくと引き分けになるかもしれないというリスクを犯してまでカードをチェンジし、勝負とは如何なるモノかを淡々と語る。完敗だった。ぼくの完全敗北だった。
山路と海野は笑っていた。だが、辻だけは笑うことなくこちらに冷ややかな視線を向けていた。ぼくは思わず悪態をついた。
「クソッ......」
「悔しいのか?」
そういう辻の顔は何処か冷静に物事を見詰めているような、そんな感じだった。そんな辻の様子が更にぼくの悔しさを増幅させた。
「......こんなんで復讐したつもりかよ」
ぼくがいうと山路と海野はぼくに対して因縁をつけて来た。だが、辻はそれを望まなかった。ピシャリとふたりを止めると大きくため息をついて身を少し乗り出して来た。
「......まぁ、そう思うのも無理はねえよな」
辻のことばは山路と海野にも意外だったようで、ふたりはえっとなって辻を咎めるように声を上げた。だが、辻はそれすらも制すると、鋭い視線をまるでナイフの切っ先を突き付けるようにぼくのほうへ向けて来た。
「悪ぃな、うるせえのがガヤガヤして」
これには山路と海野だけでなく、ぼくまでもが呆気に取られた。まさか自分の仲間をうるさい呼ばわりするなど、誰が思うだろう。それにふたりもこの辻のセリフは遺憾だったようで、どういう意味だと突っ掛かった。
「あぁ、悪かったな。お前らには『リベンジ』としか伝えてなかったからな」
リベンジーーつまり復讐。ぼくに対する復讐。しかし、にしてはやり方がぬる過ぎる気がしてならなかった。確かにイカサマで勝負に負けたのは屈辱もいいところだ。だが、負けたからといって何のリスクもない。失うモノなど何もないのだ。
それにただ単に復讐というのならもっと簡単で単純な方法がある。それは、シンプルにぼくを袋叩きにすることだ。前回のことがあってそれが出来ないというのはないだろう。今度はちゃんと身体検査して録音録画していないことを確めればいいだけなのだから。
「何がいいたい?」ぼくはいった。
辻の目は真剣そのモノ。ぼくはギラリと輝く辻の目にフォーカスを合わせた。とんでもない威圧感。今にも退きたくなる。そして、辻はゆっくりと口を開いた。
「おれたちで関口を倒さねえか?」
【続く】
加えてハメられていたとわかれば、それはどれ程に悔しいモノかいい表すことなんか出来ないだろう。第一、今のぼくがそうだった。
辻は自分の手が何だったか知っていた。遠目でそれを眺めていた海野と山路のことばをブルートゥースイヤホンで聴いて。更には、わざわざぼくと引き分けになるかもしれないというリスクを犯してまでカードをチェンジし、勝負とは如何なるモノかを淡々と語る。完敗だった。ぼくの完全敗北だった。
山路と海野は笑っていた。だが、辻だけは笑うことなくこちらに冷ややかな視線を向けていた。ぼくは思わず悪態をついた。
「クソッ......」
「悔しいのか?」
そういう辻の顔は何処か冷静に物事を見詰めているような、そんな感じだった。そんな辻の様子が更にぼくの悔しさを増幅させた。
「......こんなんで復讐したつもりかよ」
ぼくがいうと山路と海野はぼくに対して因縁をつけて来た。だが、辻はそれを望まなかった。ピシャリとふたりを止めると大きくため息をついて身を少し乗り出して来た。
「......まぁ、そう思うのも無理はねえよな」
辻のことばは山路と海野にも意外だったようで、ふたりはえっとなって辻を咎めるように声を上げた。だが、辻はそれすらも制すると、鋭い視線をまるでナイフの切っ先を突き付けるようにぼくのほうへ向けて来た。
「悪ぃな、うるせえのがガヤガヤして」
これには山路と海野だけでなく、ぼくまでもが呆気に取られた。まさか自分の仲間をうるさい呼ばわりするなど、誰が思うだろう。それにふたりもこの辻のセリフは遺憾だったようで、どういう意味だと突っ掛かった。
「あぁ、悪かったな。お前らには『リベンジ』としか伝えてなかったからな」
リベンジーーつまり復讐。ぼくに対する復讐。しかし、にしてはやり方がぬる過ぎる気がしてならなかった。確かにイカサマで勝負に負けたのは屈辱もいいところだ。だが、負けたからといって何のリスクもない。失うモノなど何もないのだ。
それにただ単に復讐というのならもっと簡単で単純な方法がある。それは、シンプルにぼくを袋叩きにすることだ。前回のことがあってそれが出来ないというのはないだろう。今度はちゃんと身体検査して録音録画していないことを確めればいいだけなのだから。
「何がいいたい?」ぼくはいった。
辻の目は真剣そのモノ。ぼくはギラリと輝く辻の目にフォーカスを合わせた。とんでもない威圧感。今にも退きたくなる。そして、辻はゆっくりと口を開いた。
「おれたちで関口を倒さねえか?」
【続く】