【帝王霊~漆拾捌~】
文字数 1,193文字
あまりにも酷い話を聴かされた時に涙を堪えることが出来るだろうか。
この世界では毎日何人もの顔の知らなければ、名前も知らないような人たちがこの世を去っている。
中には芸能人やアスリート、インフルエンサーといった有名人の死を、メディアを通じて目に、耳にすることもあり、それは多くの人たちに後頭部を殴り付けるような衝撃を与える。何故なら、その人に特に会ったことはなくても、テレビやラジオ、ネット配信といった媒体を通じて一方的にその人のことを知っているからだ。特にファンでなくとも知っている有名人の死は、それは衝撃的だろう。
だが、問題はそんな輝ける光の当たらない場所を生きているワケではない、とはいえ自分がその人を知っているという場合だ。
これは親族といったかなり身近なところにいる人たちとはまた違う。友人といった親族ではなくとも近しい人ともまた違う。会社や何かの仕事上のコミュニティでお世話になっている人ともまた違う。
つまり、わたしがいいたいのは、仕事の同僚や友人の親族といった存在だ。
そういった人たちとの繋がりは、基本的にそう厚くはない。もちろん、その人との関係を介する人との関係の深さにもよるのだろうけど、関係があるにしても、前述の人たちとの関係がそう深くなることはない。精々見知った間柄ぐらいにしかならないだろう。
だが、そういった間柄の人でも、その人の訃報を聴かされれば、いい思いはしないだろう。そして、それが更に残酷であれば、余計にーー
高城警部のお子さんとは警部のお家を伺った時にお会いしたことがあった。初めてお会いした当時はまだ中学生だった記憶がある。シャイで何処となく自己主張の苦手そうな少年だった。背は低めでさらさらのストレートヘアーは耳に掛からない程度で切り揃えられていた。痩せ気味で運動は苦手そうだった。
そんな彼も高校、大学と進学していき、あたしが高城警部のお家にお邪魔すると、次第にあたしに対してオープンになってきた。そんな彼がとてもかわいくて、あたしは好きだったーーもちろん、そういう感情ではなく。
ただ、男として段々とたくましくなっていく様は見ていて爽快で、きっとモテるだろうなという印象は抱いたモノだった。
だが、何処かで歯車が掛け違ったらしい。
何を間違ったか彼は成松のようなゴミに目をつけられ、全身をゴキブリに食い破られるような凄惨な殺され方をした。
全身をゴキブリにーー想像しただけで吐き気がする。そんなことを思いつき実践する成松も異常だし、それを手伝った佐野もイカれてる。そして、こんな運命を定めた神も......。あたしは自分の身体が細かく震えていることに気づいた。
「そうだったんだね......」あたしは皮肉っぽく佐野にいってやった。「アンタも所詮はこの成松と同類のゲテモノだったってことだね」
佐野の顔は珍しく笑っていなかった。
【続く】
この世界では毎日何人もの顔の知らなければ、名前も知らないような人たちがこの世を去っている。
中には芸能人やアスリート、インフルエンサーといった有名人の死を、メディアを通じて目に、耳にすることもあり、それは多くの人たちに後頭部を殴り付けるような衝撃を与える。何故なら、その人に特に会ったことはなくても、テレビやラジオ、ネット配信といった媒体を通じて一方的にその人のことを知っているからだ。特にファンでなくとも知っている有名人の死は、それは衝撃的だろう。
だが、問題はそんな輝ける光の当たらない場所を生きているワケではない、とはいえ自分がその人を知っているという場合だ。
これは親族といったかなり身近なところにいる人たちとはまた違う。友人といった親族ではなくとも近しい人ともまた違う。会社や何かの仕事上のコミュニティでお世話になっている人ともまた違う。
つまり、わたしがいいたいのは、仕事の同僚や友人の親族といった存在だ。
そういった人たちとの繋がりは、基本的にそう厚くはない。もちろん、その人との関係を介する人との関係の深さにもよるのだろうけど、関係があるにしても、前述の人たちとの関係がそう深くなることはない。精々見知った間柄ぐらいにしかならないだろう。
だが、そういった間柄の人でも、その人の訃報を聴かされれば、いい思いはしないだろう。そして、それが更に残酷であれば、余計にーー
高城警部のお子さんとは警部のお家を伺った時にお会いしたことがあった。初めてお会いした当時はまだ中学生だった記憶がある。シャイで何処となく自己主張の苦手そうな少年だった。背は低めでさらさらのストレートヘアーは耳に掛からない程度で切り揃えられていた。痩せ気味で運動は苦手そうだった。
そんな彼も高校、大学と進学していき、あたしが高城警部のお家にお邪魔すると、次第にあたしに対してオープンになってきた。そんな彼がとてもかわいくて、あたしは好きだったーーもちろん、そういう感情ではなく。
ただ、男として段々とたくましくなっていく様は見ていて爽快で、きっとモテるだろうなという印象は抱いたモノだった。
だが、何処かで歯車が掛け違ったらしい。
何を間違ったか彼は成松のようなゴミに目をつけられ、全身をゴキブリに食い破られるような凄惨な殺され方をした。
全身をゴキブリにーー想像しただけで吐き気がする。そんなことを思いつき実践する成松も異常だし、それを手伝った佐野もイカれてる。そして、こんな運命を定めた神も......。あたしは自分の身体が細かく震えていることに気づいた。
「そうだったんだね......」あたしは皮肉っぽく佐野にいってやった。「アンタも所詮はこの成松と同類のゲテモノだったってことだね」
佐野の顔は珍しく笑っていなかった。
【続く】