【冷たい墓石で鬼は泣く~漆拾漆~】

文字数 683文字

 わたしも必死だった。

 相手は自分のことばなど微塵も通じないであろうオオカミだ。それもこの群れの頭。仮に頭を殺したとしても残党たちが即座にわたしを噛み殺しに来るだろう。

 普通、相手が人間ならばその動きの拍子の取り方はある程度予測もつくし、それに合わせることも難しくはない。

 だが、相手がオオカミともなれば人間よりも比べモノにならない速さもあれば、姿勢も低いせいで刀も当たりづらい。下手すれば自分の刀を折ってしまうだろう。確かに腹を空かし、身体が弱っている分、動きが遅くなっていると考えればまだ何とかなりそうではあったが、所詮それはわたし自身がそうあって欲しいと考えているだけのこと。過信しては自分の身が危ない。

 そもそもわたしとオオカミの頭である彼とでは背負うモノが違う。彼は自分の命だけでなく、今うしろで待っている仲間たちの命をも背負っている。ならば、彼も引きはしない。行けば斬られて死、引けば空腹で死、どっちに行こうと死ぬのだ。仮に自分が生き残れる可能性を考えてみても、ならばわたしに向かって行けば、わたしが死ぬという結果の末に彼は生き残れる。ならば、少しでも自分が生き残れる可能性があるほうを選ぶだろう。

 対するわたしはどうだ。縁もゆかりもない村に呼び出され、今日はじめましての人に「野武士」とウソをつかれてオオカミを斬るはめになっている。確かに対価としてメシは貰っているが、それで果たして釣り合うかはわからない。そもそもわたしは何の感情も持たずにただ仕事をすればいい。しかし、こんなにも情念の渦巻いている相手を前にしてーー

 わたしは刀を納め直した。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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