【一年三組の皇帝~弐拾伍~】
文字数 1,169文字
優等生と不良は水と油のようだ。
どちらも交わることなく、それどころか質量の軽い油のほうが浮いてしまう。逆に綺麗な水は静かに沈み、落ち着いている。まるで学内での互いの立場を象徴しているようだ。
そして、その油がギトギトで汚い油ともなれば、誰も触ろうとはしないだろう。
声のしたほうにはいうまでもなく、辻の姿があった。相変わらずの汚い茶髪にやや伸びきった髪の毛、目はまぁまぁ大きくて、雰囲気的にはイケメンなのかもしれないといった感じだった。
山路と海野の姿はなかった。しかし、面倒なことになった。クラスの支配者となり、教師からの信頼も厚い関口とぼくの手によって完全に厄介者となった不良の辻が表だって対立し、ぼくはその真ん中にいる。最低最悪なシナリオだった。吐き気が止まらない。
「待てって、何が?」
関口はワケがわからないといった様子でいった。だが、そのブラックホールよりも深いであろう黒目の先には、辻が何を思い、何を考えているかを知り尽くしているようにも見えた。辻はズカズカと関口に近づいて行き、そして胸ぐらを掴んだ。悲鳴。
「何がじゃねぇよ。テメェ、田宮に続いて今度は林崎に手ぇ出そうとすんじゃねぇ!」
「手を出すなんて人聞きが悪い。ぼくはただ、林崎くんにあいさつしてただけなのにーーねぇ?」
関口がぼくに同意を求めて来た。ICレコーダーの下りや何を考えているかといった問いは別としても、ぼくと関口がした会話といえば、せいぜいあいさつくらい。何も間違ったことはない。それに、何か変なことをいってことを荒げれば、それはそれで面倒なことになりそうだとわかっていた。
ぼくは関口に同調した。
「マジかよ......」
辻はことばを失っていた。ぼくには辻を庇う理由はないし、そもそも関口のいっていることはほぼ真実。こうなるのも無理はなかった。と、関口が不敵な笑みを浮かべていった。
「そんなことより、急にどうしたの? この前までは和田くんのことで対立してて、あんな感じでハメられたっていうのに、急に彼のことを庇うなんて、何かあったの?」
マズイ。これでは辻がぼくに協力を持ち掛けた話がバレてしまうーーというか、この男にかかっては、もうバレてしまっているかもしれなかった。終わった。
「あ? 関係ねぇだろ」辻はいった。「テメェよぉ、最近調子のり過ぎなんだよ。どうせ、ここで林崎を味方につけとけば心強いとでも思ってんだろ?」
心臓が跳ね上がりそうになった。関口は不敵な笑みを浮かべていった。
「それはお互い様じゃないかな?」
そのことばで再び辻は関口へと突っ掛かった。が、突然ーー
「おい、シンゴぉー」
名前を呼ばれ、声のほうへと振り返ると、教室の前方入口のところで長野いずみが片足に重心を掛けながらダルそうにしていた。
また面倒なことに......。
【続く】
どちらも交わることなく、それどころか質量の軽い油のほうが浮いてしまう。逆に綺麗な水は静かに沈み、落ち着いている。まるで学内での互いの立場を象徴しているようだ。
そして、その油がギトギトで汚い油ともなれば、誰も触ろうとはしないだろう。
声のしたほうにはいうまでもなく、辻の姿があった。相変わらずの汚い茶髪にやや伸びきった髪の毛、目はまぁまぁ大きくて、雰囲気的にはイケメンなのかもしれないといった感じだった。
山路と海野の姿はなかった。しかし、面倒なことになった。クラスの支配者となり、教師からの信頼も厚い関口とぼくの手によって完全に厄介者となった不良の辻が表だって対立し、ぼくはその真ん中にいる。最低最悪なシナリオだった。吐き気が止まらない。
「待てって、何が?」
関口はワケがわからないといった様子でいった。だが、そのブラックホールよりも深いであろう黒目の先には、辻が何を思い、何を考えているかを知り尽くしているようにも見えた。辻はズカズカと関口に近づいて行き、そして胸ぐらを掴んだ。悲鳴。
「何がじゃねぇよ。テメェ、田宮に続いて今度は林崎に手ぇ出そうとすんじゃねぇ!」
「手を出すなんて人聞きが悪い。ぼくはただ、林崎くんにあいさつしてただけなのにーーねぇ?」
関口がぼくに同意を求めて来た。ICレコーダーの下りや何を考えているかといった問いは別としても、ぼくと関口がした会話といえば、せいぜいあいさつくらい。何も間違ったことはない。それに、何か変なことをいってことを荒げれば、それはそれで面倒なことになりそうだとわかっていた。
ぼくは関口に同調した。
「マジかよ......」
辻はことばを失っていた。ぼくには辻を庇う理由はないし、そもそも関口のいっていることはほぼ真実。こうなるのも無理はなかった。と、関口が不敵な笑みを浮かべていった。
「そんなことより、急にどうしたの? この前までは和田くんのことで対立してて、あんな感じでハメられたっていうのに、急に彼のことを庇うなんて、何かあったの?」
マズイ。これでは辻がぼくに協力を持ち掛けた話がバレてしまうーーというか、この男にかかっては、もうバレてしまっているかもしれなかった。終わった。
「あ? 関係ねぇだろ」辻はいった。「テメェよぉ、最近調子のり過ぎなんだよ。どうせ、ここで林崎を味方につけとけば心強いとでも思ってんだろ?」
心臓が跳ね上がりそうになった。関口は不敵な笑みを浮かべていった。
「それはお互い様じゃないかな?」
そのことばで再び辻は関口へと突っ掛かった。が、突然ーー
「おい、シンゴぉー」
名前を呼ばれ、声のほうへと振り返ると、教室の前方入口のところで長野いずみが片足に重心を掛けながらダルそうにしていた。
また面倒なことに......。
【続く】