【ナナフシギ~漆拾死~】
文字数 655文字
血の気の引いた顔ーーこの世の地獄に顔を突っ込んだような表情だった。
祐太朗は信じられなかったーーいや、信じたくなかったのだろう。あの夜に起きたことがすべて現実で、クラスメイトのみんなが未だにあの地獄のような霊道の中にいるだなんて。もはや、歩くことすらままならない様子だった。まるで躓くような歩き出し。そして、急激に早くなる歩調は祐太朗の怒りを象徴しているようだった。
祐太朗は岩淵の胸ぐらを思い切り掴んだ。怒りや悲しみ、絶望、あらゆるネガティブな感情が複雑に交錯しているのがわかるほどに祐太朗の表情は歪んでいた。
「何で......助けなかった......!」
もはやことばすらまともに紡ぐことが困難になっていた。強すぎる感情という感情が祐太朗からことばを奪っていた。祐太朗の目は涙に溢れ、真っ赤に充血していた。
だが、そんな祐太朗を他所に、岩淵はまるで祐太朗を軽蔑するかのような微笑を浮かべていた。そして、こう口を開いた。
「子供を三人抱えるだけでもかなりな労力だというのに、他の数人を何とかしろだなんて無理な話ですよ」
その口調に罪悪感などというモノは微塵も感じられなかった。祐太朗は更に強く岩淵の胸ぐらを掴み、右手を胸ぐらから外してしっかりと握ると、岩淵を殴りつけようとした。だが、ダメだった。祐太朗の手はそのままスルリと抜け、祐太朗はその場で膝に手を着くと、さめざめとすすり泣き出した。
岩淵は大きく溜め息をついた。
「そんなに泣かなくとも、まだ彼らを助ける手がなくなったワケではないですけどね」
【続く】
祐太朗は信じられなかったーーいや、信じたくなかったのだろう。あの夜に起きたことがすべて現実で、クラスメイトのみんなが未だにあの地獄のような霊道の中にいるだなんて。もはや、歩くことすらままならない様子だった。まるで躓くような歩き出し。そして、急激に早くなる歩調は祐太朗の怒りを象徴しているようだった。
祐太朗は岩淵の胸ぐらを思い切り掴んだ。怒りや悲しみ、絶望、あらゆるネガティブな感情が複雑に交錯しているのがわかるほどに祐太朗の表情は歪んでいた。
「何で......助けなかった......!」
もはやことばすらまともに紡ぐことが困難になっていた。強すぎる感情という感情が祐太朗からことばを奪っていた。祐太朗の目は涙に溢れ、真っ赤に充血していた。
だが、そんな祐太朗を他所に、岩淵はまるで祐太朗を軽蔑するかのような微笑を浮かべていた。そして、こう口を開いた。
「子供を三人抱えるだけでもかなりな労力だというのに、他の数人を何とかしろだなんて無理な話ですよ」
その口調に罪悪感などというモノは微塵も感じられなかった。祐太朗は更に強く岩淵の胸ぐらを掴み、右手を胸ぐらから外してしっかりと握ると、岩淵を殴りつけようとした。だが、ダメだった。祐太朗の手はそのままスルリと抜け、祐太朗はその場で膝に手を着くと、さめざめとすすり泣き出した。
岩淵は大きく溜め息をついた。
「そんなに泣かなくとも、まだ彼らを助ける手がなくなったワケではないですけどね」
【続く】