【ナナフシギ~死拾壱~】
文字数 1,123文字
丑三つ時にかがり火は大きく揺らぐ。
地獄へ連れて行くーー確かにそうはいわれたが、そこが既に地獄のような場所であれば、これ以上何を想像すれば良いというのだろうか。あの世とこの世、そのふたつを繋ぐ霊道、そこだけでも地獄らしさは充分あった。呻き生ある者にすがって来る亡霊の姿に極楽を感じられる者などいないだろう。
そして、そんなあの世とこの世の狭間でもピアノの音は鳴り響く。まるでそれはこれから地獄へ堕ちるであろう魂に対して送る鎮魂歌を奏でているようだった。皮肉な話だった。地獄へ堕ちた魂を癒やすことなど、まず無理な話であるだろうから。
地獄へ連れて行くーーそう発言した弓永の姿をした何者かは不敵に笑って見せた。エミリは祐太朗の肩を強く握った。祐太朗は奥歯を噛み締め、目をしっかりと見開き、身体中に走る震えを必死に抑えようとしているようだった。動きがギコチなくなっていた。
「地獄だぁ? 調子に乗るなよ」祐太朗はゆっくりと低い声でいった。「いつまでそんな格好してんだよ。いい加減ムカツクから正体を現したらどうなんだよ?」
祐太朗はニヤリと笑って見せた。だが、その表情の動きに滑らかさはなく、口角も小さく震えていた。弓永らしき存在は余裕を見せた表情で祐太朗に視線を向け、いった。
「......確かに、ずっとこの姿は不愉快かな。とっくに友達じゃないってバレてるしね」
「友達なんかじゃねえけどさ」
「本当にそう思ってるの?」弓永らしき存在はニヤリと笑っていった。「もし本当に今日、これから先、彼に会うことが出来なくなっても、キミは何も後悔はしない?」
祐太朗は何も答えなかった。答えられなかったといったほうが正しかったかもしれない。苦しそうな表情でジリジリと肝を削るばかりだった。弓永らしき存在はいったーー
「あんま友達を粗末にするモンじゃないよ」
「だからーー」祐太朗は口を閉ざした。
「だから、何?」問い掛けたところで祐太朗は答えず、弓永らしき存在は大きくため息をついた。「まぁいいや」
そういうと、弓永らしき存在は大きく歪んだ。歪み姿形が変わっていった。祐太朗の表情は険しくなり、エミリは恐怖に顔を引きつらせた。まるで異形。だが、その異形も徐々に姿を整え、まともな人の姿形へと変わっていった。そして、姿は固定された。
少女だった。
そこにいたのは少女だった。
年齢的にいえば、祐太朗とエミリと変わりはしないくらいだろう。メガネを掛け、頭の両サイドで髪の毛を結んで垂らしていた。服装はピンクのTシャツに白のスカートに上履き姿。太ってはおらずどちらかといえばほっそりとしていた。どうみても普通の少女でしかなかった。
「さぁ、どうする?」
少女は首を傾げた。
【続く】
地獄へ連れて行くーー確かにそうはいわれたが、そこが既に地獄のような場所であれば、これ以上何を想像すれば良いというのだろうか。あの世とこの世、そのふたつを繋ぐ霊道、そこだけでも地獄らしさは充分あった。呻き生ある者にすがって来る亡霊の姿に極楽を感じられる者などいないだろう。
そして、そんなあの世とこの世の狭間でもピアノの音は鳴り響く。まるでそれはこれから地獄へ堕ちるであろう魂に対して送る鎮魂歌を奏でているようだった。皮肉な話だった。地獄へ堕ちた魂を癒やすことなど、まず無理な話であるだろうから。
地獄へ連れて行くーーそう発言した弓永の姿をした何者かは不敵に笑って見せた。エミリは祐太朗の肩を強く握った。祐太朗は奥歯を噛み締め、目をしっかりと見開き、身体中に走る震えを必死に抑えようとしているようだった。動きがギコチなくなっていた。
「地獄だぁ? 調子に乗るなよ」祐太朗はゆっくりと低い声でいった。「いつまでそんな格好してんだよ。いい加減ムカツクから正体を現したらどうなんだよ?」
祐太朗はニヤリと笑って見せた。だが、その表情の動きに滑らかさはなく、口角も小さく震えていた。弓永らしき存在は余裕を見せた表情で祐太朗に視線を向け、いった。
「......確かに、ずっとこの姿は不愉快かな。とっくに友達じゃないってバレてるしね」
「友達なんかじゃねえけどさ」
「本当にそう思ってるの?」弓永らしき存在はニヤリと笑っていった。「もし本当に今日、これから先、彼に会うことが出来なくなっても、キミは何も後悔はしない?」
祐太朗は何も答えなかった。答えられなかったといったほうが正しかったかもしれない。苦しそうな表情でジリジリと肝を削るばかりだった。弓永らしき存在はいったーー
「あんま友達を粗末にするモンじゃないよ」
「だからーー」祐太朗は口を閉ざした。
「だから、何?」問い掛けたところで祐太朗は答えず、弓永らしき存在は大きくため息をついた。「まぁいいや」
そういうと、弓永らしき存在は大きく歪んだ。歪み姿形が変わっていった。祐太朗の表情は険しくなり、エミリは恐怖に顔を引きつらせた。まるで異形。だが、その異形も徐々に姿を整え、まともな人の姿形へと変わっていった。そして、姿は固定された。
少女だった。
そこにいたのは少女だった。
年齢的にいえば、祐太朗とエミリと変わりはしないくらいだろう。メガネを掛け、頭の両サイドで髪の毛を結んで垂らしていた。服装はピンクのTシャツに白のスカートに上履き姿。太ってはおらずどちらかといえばほっそりとしていた。どうみても普通の少女でしかなかった。
「さぁ、どうする?」
少女は首を傾げた。
【続く】