【地獄の先は、ひとつのオアシス】
文字数 2,609文字
しっかし、昨日のシナリオは何だったのか。
まぁ、誕生日ということでショートショートを一本書くと宣言したはいいものの、何の起伏もない、それこそこの駄文集に相応しいような駄文に仕上がっていたわけで。
一応は和雅と外山の話を書いたけど、あのシナリオは完全なパラレル扱いとして見なければならない。というのもーー
あのシナリオが、令和二年の話だからだ。
外山田会の令和二年一〇月というと、『この夜が~』での設定では、外山が和雅ともはるかとも連絡を断っていた時期で、しかもあのシナリオは「ウイルスが蔓延していない世界線」を描いた話なので、根本的に話が矛盾している。
ま、具体的な年齢は書いてないんで、令和二年に限定しなければいつの話でもいいってことにはなるんだけど。
さて、そんな話は終わりにして、一日ぶりの『初舞台篇』である。あらすじーー「佐野のメッセージに導かれた武井愛は、指定された場所へ赴いた。そこで出会ったのは、不良女子高生に変装した佐野だった」
まぁ、昨日投稿した『ミスラス』のあらすじなんだけど、昨日のチャプターは流石に短かったよな。でも、前日に手直しする前までは、もっと短かったんよ。どうでもいいね。
さて、本当のあらすじは、五条氏は劇団員から失望されつつある大野さんの話を聞き、残酷な現状に憂えたのだった。って感じかな。では、いくわーー
本番まで一ヶ月を切り、稽古も佳境に入った。おれは順調に自分の芝居をやれていたが、あおいと大野さんの芝居は相変わらずギコチナイままだった。
そんな中、朝から晩までずっと稽古をする一日稽古の日がきた。一日稽古は、本番前の普通の小劇団なら当たり前にやることなのだが、如何せん『ブラスト』にはそんな余裕はなく、全員の都合がつく日に的を絞って一日稽古をするのが慣例となっていた。
実をいえば、八月と九月にそれぞれ一度ずつ一日稽古はしていたのだけど、あれは本当に地獄だった。
というのも、朝九時から夜の一〇時まで昼と夕飯を除けば稽古しっぱなしなのだ。
おれは出番が少なかったとはいえ、その中で自分の出番は必ずあるため、他の役者との擦り合わせだったり、台本を読んで思考を凝らしたりとやることは多かった。
まぁ、それをいったら、物語の後半にてほぼ出ずっぱりのあおいはもっとキツかったろうけど。
でもな、やっぱり一日稽古はキツイんだわ。終わり頃になると頭痛くなるし、吐き気もするしな。それはさておきーー
一日稽古も中盤に差し掛かった頃、衣装を担当していた夏美さんがミシンで一部の役者がモブとして使う死神のマントを作っていた。おれがその作業をじっと見ているとーー
「ジョーも手伝ってくれるの?」
裁縫なんて高校の時に家庭科でやった以来だろう。が、ずっと台本とにらめっこするのも、演出の前で芝居をするのにも、少し疲れてしまい、息抜きに衣装の手伝いでもしてみるか、と夏美さんの手伝いをすることにしたのだ。
まぁ、これが楽しいんだわ。
普段やらないことをこういう場でやるのもなかなか面白いもので、一度布に針を通すと夢中になって作業してしまった。
そんなおれを横目で見ていたヨシエさんは、
「ジョーが、裁縫やってる……!」
とストリーキングする変態でも見たように驚いてました。まぁ、おれと裁縫って全然結びつかんよな。それはそれとしてーー
稽古自体は随分と捗った気はした。もはや、どの役者も仕上げに入っており、いい感じで役に入り込んでいたーー大野さんを除いて。
大野さんは相変わらずだった。セリフの大きさとトーンは1か100。演技のパターンも凝り固まってしまい変更が利かない。そんな彼もすっかり落胆しており、裏でおれに愚痴をこぼすこともしょっちゅうだった。
そんな一日稽古が終了すると、おれも大きく息をつき、稽古の緊張から解かれたのだ。
帰りの会、ヨシエさんが翌日の稽古は二度目の通しをやると宣言した。
二度目の通し。今度は上手くいくだろうか。前回のトラウマが蘇る。できたと思っていたにも関わらず、結果は予想の逆をいっていた。……いや、今度は。今度こそはーー
ヨシエさんが話を終える。と、突然ーー
Xとゆーきさんが稽古場入り口から現れ、その当時流行っていた芸人の一発芸をやりだした。そもそもいつの間に稽古場から姿を消したのか、おれは全然気づいてなかった。
ワケもわからずにその様子を見ていると、Xとゆーきさんは唐突にハッピーバースデーと歌い始めた。かと思いきやーー
ヨシエさんが、きらびやかな袋を持っておれの前に来たではないか。
「ジョー、誕生日おめでとう。これは劇団からのプレゼントだよ」
そういってヨシエさんは手に持った袋をおれに渡してくれた。そして、Xも細長い段ボールの箱をおれに渡す。
ちなみに、日付としてはちょうど今日、一〇月一八日だった。誕生日は前日だったのだが、ちょうど稽古がある翌日に渡すつもりでいたとヨシエさんとXは説明した。
感激だった。
ヨシエさんに開けてみてといわれ袋の中を見ると、入っていたのは「仮面ライダーV3のフィギュア」と「仮面ライダーXのキーホルダー」、仕込み作業に使えるサブバッグと手袋だった。神敬介ェッ!
次にXから渡された段ボールの中身を確かめた。中には、脇差大の模造刀が入っていた。
何故、模造刀か。
それは、本稽古が始まる少し前にXに誘われて殺陣を始めたことが影響している。当然、模造刀は殺陣には使えないし、脇差大なので使い道はない。
だが、殺陣を始めてからというもの、刀に興味を持ち始めたこともあって、脇差でも全然嬉しかった。ちなみにこの脇差は、後に居合を始めた時に体捌きを改善させるのに非常に役に立ったし、居合で使わなくなった今でも部屋で大切に保管してある。
幸せだった。かつてはパニック障害にて辛酸と苦渋を舐め続けた人生がウソのようだった。
おれは、翌日の通し稽古も頑張ろうと気持ちを鼓舞するのだったーー
と、今日は終わり。本当は二回目の通し稽古まで書く予定だったのだけど、一日稽古だけで結構使ってしまったな。次回は二回目の通し稽古とその後の話だな。んじゃ、
アスタラビスタ。
まぁ、誕生日ということでショートショートを一本書くと宣言したはいいものの、何の起伏もない、それこそこの駄文集に相応しいような駄文に仕上がっていたわけで。
一応は和雅と外山の話を書いたけど、あのシナリオは完全なパラレル扱いとして見なければならない。というのもーー
あのシナリオが、令和二年の話だからだ。
外山田会の令和二年一〇月というと、『この夜が~』での設定では、外山が和雅ともはるかとも連絡を断っていた時期で、しかもあのシナリオは「ウイルスが蔓延していない世界線」を描いた話なので、根本的に話が矛盾している。
ま、具体的な年齢は書いてないんで、令和二年に限定しなければいつの話でもいいってことにはなるんだけど。
さて、そんな話は終わりにして、一日ぶりの『初舞台篇』である。あらすじーー「佐野のメッセージに導かれた武井愛は、指定された場所へ赴いた。そこで出会ったのは、不良女子高生に変装した佐野だった」
まぁ、昨日投稿した『ミスラス』のあらすじなんだけど、昨日のチャプターは流石に短かったよな。でも、前日に手直しする前までは、もっと短かったんよ。どうでもいいね。
さて、本当のあらすじは、五条氏は劇団員から失望されつつある大野さんの話を聞き、残酷な現状に憂えたのだった。って感じかな。では、いくわーー
本番まで一ヶ月を切り、稽古も佳境に入った。おれは順調に自分の芝居をやれていたが、あおいと大野さんの芝居は相変わらずギコチナイままだった。
そんな中、朝から晩までずっと稽古をする一日稽古の日がきた。一日稽古は、本番前の普通の小劇団なら当たり前にやることなのだが、如何せん『ブラスト』にはそんな余裕はなく、全員の都合がつく日に的を絞って一日稽古をするのが慣例となっていた。
実をいえば、八月と九月にそれぞれ一度ずつ一日稽古はしていたのだけど、あれは本当に地獄だった。
というのも、朝九時から夜の一〇時まで昼と夕飯を除けば稽古しっぱなしなのだ。
おれは出番が少なかったとはいえ、その中で自分の出番は必ずあるため、他の役者との擦り合わせだったり、台本を読んで思考を凝らしたりとやることは多かった。
まぁ、それをいったら、物語の後半にてほぼ出ずっぱりのあおいはもっとキツかったろうけど。
でもな、やっぱり一日稽古はキツイんだわ。終わり頃になると頭痛くなるし、吐き気もするしな。それはさておきーー
一日稽古も中盤に差し掛かった頃、衣装を担当していた夏美さんがミシンで一部の役者がモブとして使う死神のマントを作っていた。おれがその作業をじっと見ているとーー
「ジョーも手伝ってくれるの?」
裁縫なんて高校の時に家庭科でやった以来だろう。が、ずっと台本とにらめっこするのも、演出の前で芝居をするのにも、少し疲れてしまい、息抜きに衣装の手伝いでもしてみるか、と夏美さんの手伝いをすることにしたのだ。
まぁ、これが楽しいんだわ。
普段やらないことをこういう場でやるのもなかなか面白いもので、一度布に針を通すと夢中になって作業してしまった。
そんなおれを横目で見ていたヨシエさんは、
「ジョーが、裁縫やってる……!」
とストリーキングする変態でも見たように驚いてました。まぁ、おれと裁縫って全然結びつかんよな。それはそれとしてーー
稽古自体は随分と捗った気はした。もはや、どの役者も仕上げに入っており、いい感じで役に入り込んでいたーー大野さんを除いて。
大野さんは相変わらずだった。セリフの大きさとトーンは1か100。演技のパターンも凝り固まってしまい変更が利かない。そんな彼もすっかり落胆しており、裏でおれに愚痴をこぼすこともしょっちゅうだった。
そんな一日稽古が終了すると、おれも大きく息をつき、稽古の緊張から解かれたのだ。
帰りの会、ヨシエさんが翌日の稽古は二度目の通しをやると宣言した。
二度目の通し。今度は上手くいくだろうか。前回のトラウマが蘇る。できたと思っていたにも関わらず、結果は予想の逆をいっていた。……いや、今度は。今度こそはーー
ヨシエさんが話を終える。と、突然ーー
Xとゆーきさんが稽古場入り口から現れ、その当時流行っていた芸人の一発芸をやりだした。そもそもいつの間に稽古場から姿を消したのか、おれは全然気づいてなかった。
ワケもわからずにその様子を見ていると、Xとゆーきさんは唐突にハッピーバースデーと歌い始めた。かと思いきやーー
ヨシエさんが、きらびやかな袋を持っておれの前に来たではないか。
「ジョー、誕生日おめでとう。これは劇団からのプレゼントだよ」
そういってヨシエさんは手に持った袋をおれに渡してくれた。そして、Xも細長い段ボールの箱をおれに渡す。
ちなみに、日付としてはちょうど今日、一〇月一八日だった。誕生日は前日だったのだが、ちょうど稽古がある翌日に渡すつもりでいたとヨシエさんとXは説明した。
感激だった。
ヨシエさんに開けてみてといわれ袋の中を見ると、入っていたのは「仮面ライダーV3のフィギュア」と「仮面ライダーXのキーホルダー」、仕込み作業に使えるサブバッグと手袋だった。神敬介ェッ!
次にXから渡された段ボールの中身を確かめた。中には、脇差大の模造刀が入っていた。
何故、模造刀か。
それは、本稽古が始まる少し前にXに誘われて殺陣を始めたことが影響している。当然、模造刀は殺陣には使えないし、脇差大なので使い道はない。
だが、殺陣を始めてからというもの、刀に興味を持ち始めたこともあって、脇差でも全然嬉しかった。ちなみにこの脇差は、後に居合を始めた時に体捌きを改善させるのに非常に役に立ったし、居合で使わなくなった今でも部屋で大切に保管してある。
幸せだった。かつてはパニック障害にて辛酸と苦渋を舐め続けた人生がウソのようだった。
おれは、翌日の通し稽古も頑張ろうと気持ちを鼓舞するのだったーー
と、今日は終わり。本当は二回目の通し稽古まで書く予定だったのだけど、一日稽古だけで結構使ってしまったな。次回は二回目の通し稽古とその後の話だな。んじゃ、
アスタラビスタ。