【すべてはウソのために】

文字数 3,418文字

 ウソは基本バレる。

 ウソの上手い人もたまにはいるけれど、そういう人は大抵ご馳走の中に微かに毒を混ぜるようにしてウソをつくからバレづらいのだ。

 それはすなわち、語っていることの八割ほどが真実で、隠したい残りのクリティカルな部分でウソをつくということだ。そうすれば、語っていることの殆どが事実となって信憑性も高くなり、ウソもバレにくくなるというワケだ。

 或いは演技力によってあたかも語っている内容が本当に思えるように仕向ける方法もあるけど、やはりそれもウソの内容次第で名演技にもなるし、大根芝居にもなる。

 さて、問題なのはバレバレなウソに関して、だ。

 下手なウソというのは、例外なく上記のような巧妙なウソとは真逆のものーーすなわち、真実などこれっぽっちもない、ウソだけで塗り固めたモノだと思っていい。

 例えば、おれが改造人間で、肉体が機械によって改造された仮面ライダーだといったら、まず間違いなくウソだとわかるだろう。

 まぁ、機械による肉体の改造というのも、広義ではペースメーカーやボルト、人口臓器や義手義足というのも、当てハマってしまうので、あながちウソの概念ではないのだけどーー確か、平成ライダーが改造人間じゃなくなった理由のひとつがそれだったはずだしな。

 それはさておき、バレバレなウソに加えて、誰にでも嫌われるウソというのが存在する。それは自分の保身のためにつくウソと、自分を大きく見せようとするウソだ。

 そういったウソは基本的にバレバレで、誰かを傷つける材料にもなりがちだし、何よりみっともなくて信用をなくす原因になりかねない。

 結局、正直が一番なのだろうけど、ここでもうひとつのウソの存在が浮かぶ。それはーー

 自分に関するウソではなく、他人に関するウソについて、だ。

 まぁ、このタイプのウソもバレたら、いった人間が嫌われるのはいうまでもないのだけど、このウソのたちが悪いのは、ウソの対象である人物の評判がどうであろうと、その評価を著しく傷つけるということだ。

 それは、そのウソに真実味があろうとなかろうと関係ない。中にはウソ丸出しでも信じてしまうバカもいるし、仮に信じていなくとも、ネガティブ・キャンペーン目的で放たれたそのウソは、少なからず人のこころに傷跡を残す。

 まぁ、ウソの内容にも限度があるけどなーー

 さて、今日はそんなウソに纏わる話。これを読んでいる人は誰かにダマされるということはないとは思うのだけど、世の中にはウソに鈍感な人もいうということで。じゃ、やってくーー

 これは中学三年の末期の話だ。

 ことの発端は高橋によるウソだった。

 高橋を覚えているだろうか。そう、あの自称『遊☆戯☆王世界チャンピオンで、極真空手世界王者、プロスカウトが来るほどの野球の腕の持ち主であり、数学の天才』というウソの総合商社、辻本清美にいわせれば、『疑惑のデパート』みたいな男だ。

 その高橋がある日突然、こんなことをいい出したのだーー

「もこみちのア◯ルからチ◯コが生えたんだってよ!」

 まったく以てウソもいいところーーてか、ワザワザ伏せ字にしなければならないような品のない話で甚だ恐縮なのだけど、誰がこんな話を信じるんだって話でおれも思わず笑ってしまったよな。そもそも、何で男のお前が、もこみちのデリケートな部分のことを知ってるんだよって話だけど、それはさておいて、だーー

 もこみちとは、あのガリガリのホネホネの、調子に乗る割にビビりで、ジェットコースターに乗って気絶してしまったり、高橋に教科書に卑猥な落書きをされたりと中々の受難の道を歩んでいた男だった。

 そんなこともあって、もこみちをイジるヤツも多く、その筆頭が高橋だったワケだ。

 まぁ、そんな感じでまた高橋のもこみちイジリが始まったワケなのだけど、今回は何故か高橋にも気合いが入っていたらしくーー

 学年中にそのウワサを広め出したのだ。

 そんなウワサ、誰も信じねぇだろって話だけど、「得意科目は体育ですッ!」とか恥も外聞もなくいい切っちゃうような女子の中には、

「えッ!? もこみちってア◯ルからチ◯コ生えてんの!?」

 とかマジなトーンで信じちゃってるヤツもいたというーー何食って育ったらこんな話を信じられるようになるんだよ。

 まぁ、そんな感じでもこみちのウワサが学年中に広まり、気づけば本人の耳にも届いてしまったようで、おれも本人にそのウワサについて訊いてみたのだけどーー

「有り得ねーだろ。マジ高橋◯ねよ」

 とか桃井かおりも真っ青なくらいアンニュイなトーンでいってました。

 まぁ、ここでふたりのケンカを煽っても悲劇しか生まないことはわかっていたので、高橋にこの話はしなかったのだけど、如何せん五条氏である。

 イタズラをしたくて仕方なくなってしまったのだ。

 とはいえ、高校受験が迫っている中で下らないトラブルを起こすなどナンセンスーーそうはわかっていても、悪意はまるでおれの身体を愛撫するように欲望を駆り立てるじゃない。

 でもね、必死に我慢したのよ。下らないイタズラなどするべきではないと。

 そんな中、受験も迫っているということで、帰りのホームルームにて担任のブタさんが、黒板にメールアドレスらしきアルファベットの羅列を書き、こういったのだ。

「はい、受験のことでも何でもいいから、何かあったら先生にメールで相談してね。その時はちゃんと名前を書いて送ることを忘れないで」

  これだ、と思ったよな。

 とうとうおれの悪意が首をもたげてしまったのだ。

 おれはホームルームが終わるとすぐさま帰宅し、塾に行く前の僅かなモラトリアムの時間にパソコンを起動させると、とある無料メールサービスにて使い捨てのメールアドレスを作ったのだ。そのアドレスは、

 高橋のメールアドレスを模したモノだった。

 当然、名前の表記も「高橋」にしたよな。まぁ、高橋なんて沢山いるし、特定できんだろと思われるかもしれんけど、うちの学年には「高橋」という苗字はひとりしかいなくてな。

 二秒で特定できるよな。

 おれは次々に沸き上がる悪どい妄想と先走る思いを押さえつけ、新規メール作成の送り先にブタさんのメールアドレスを打ち込むと、続いて本文を打ち込み始めた。完成したメールの内容は次のようになったーー

「ブタ先生、二組の高橋です。ちょっとお聞きしたいんですが、もこみちのア◯ルからチ◯コが生えたらしいんですが、本当ですか?」

 もはや隣のクラスの生徒がブタさんにメールを送っている時点で不自然だし、そもそも内容自体、本名で教員に送るモノじゃねえ、と思わずパソコンの前で爆笑してしまったよな。

 そんな感じで、おれはそのメールをブタさんに送り、そのまま塾へと向かったのだ。

 そして翌朝のホームルーム、ブタさんは神妙な顔をして教室に入ってきた。おれは胸のワクドキが止まらなかったが、あくまでポーカーフェイスでホームルームに臨むことにした。

 ブタさんは教卓に着くといった。

「昨日、わたしのメールアドレスをイタズラのメールを送った人がいます。とても残念です」

 それに対し、命知らずのクラスメイトが、

「どんな内容のメールだったんですか?」

 と訊ねたのだけど、流石に「もこみちのア◯ルからチ◯コが生えた」なんてことはいえなかったようで、ブタさんは、

「みなさんには関係のないことです」

 と言い張るばかりーーてか、みなさんには関係ないって、このクラスの人間の犯行じゃないっていっちゃってるようなもんだよな。

 とまぁ、その日はメールの件では特に何も進展はなかったように思えたのだけど、実はーー

 事件は隣のクラスで起きていたのだ。

 というのも、塾で高橋がこんなことをいい出したのだ。

「今日、小野寺に突然呼び出されてさぁ、『もこみちのお尻に男性◯が生えたって本当かい!?』って訊かれたんだけど、何か、誰かがブタにメール送ったんだってな。マジ、ふざけんなし!マジ、誰がメール送ったんだよ!」

 まさか、そのメールを送ったのがおれだとは口が裂けてもいえなかったよな。

 結局、そのメール事件は、高橋の嫌疑も晴れ、犯人不明のまま風化したのでした。危なかったわ、マジで。まぁ、今日の話ーー

 全部ウソなんだけどな。

 もちろん、過去に書いたエピソードとそこで記した登場人物の人物像は本当なんだけど、今日のエピソードに関してはーー

 エイプリルフール!

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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