【藪医者放浪記~百死~】

文字数 535文字

 10年、長かったーー長すぎた。

 いや、むしろ復讐を遂げるには短かったといったほうがいいのかもしれない。川越から北上し、蝦夷へ渡って各地を転々とし、そしてまた本土へ戻り、更に歩き回る。

 結局、源之助が復讐を果たしたのは父が殺された10年後、場所は常陸だった。 

 10年の歳月は源之助を老化させるどころか、むしろ身体を引き締めさせつつも肥大化させ、顔は旅に出た時よりずっと精悍にさせていた。まるで苦労そのものが肉体に刻まれたかのようだった。

 復讐の相手はもはや痩せ細って、かつて源之助が知っていた時のような元気さはまったくなかった。手は震えていた。酒の飲み過ぎで、もはや酒自体に飲まれてしまったようだった。かつて道場最強と呼ばれた男の姿は、そこにはなかった。

 ふたつ名に身体を強張らせはしたが、いざ決闘してしまえば大したことはなかった。

 何故、父を殺したかーーそう訊ねると男はいった。妬み、憎しみ。それだけだった。そして、息絶えた。

 血生臭さとは裏腹に爽やかな風が吹いた。心地よいはずなのに、何処か気持ち悪さが漂っていた。源之助は大きく息を吐いて天を仰ぎ見た。

 終わったーー復讐は終わった。

 でも、これからどう生きていけばいい?

 源之助の目には涙が浮かんでいた。

 【続く】

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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