【帝王霊~百拾睦~】
文字数 668文字
深い深い海の底でも生き物は存在している。
それらは真っ暗な中で生活していることもあって目は殆ど見えず劣化しており、だが他の器官が発達したがために生きることには何の支障もなく過ごせている。
お兄さんの目はまるで機能を失った深海の生物のように死んでいた。だが、あたしにはわかった。その死んだ目は単純な殺人者の目から少し変化を見せていた。お兄さんの目は、今そこにある悲しみから目を逸らさんとするようにしているようだった。
悲しい、でもそんなことを思っていてはいけない。自分にはやらなきゃいけないことがある。だから、自分は非情でなければならない。間違いなく、お兄さんは殺人者ではなく、列記とした暖かなこころを持つ人間そのモノだった。
「本当に、あたしを殺せる?」
あたしは問う。まるで挑発するようなことばではあったが、これはある意味お兄さんのこころへのノックでもあった。そして、あたしは確信していたーーお兄さんがあたしを殺さない、ということを。
「出しゃばるなよ」弓永くんがいった。「コイツはただの女じゃない。今すぐにでも殺しておかないと面倒だ」
弓永くんは腰元から右手を出した。そこにはコルトのセミオートが握られていた。100年以上前に作られた古いタイプで、弓永くんが最も好きな拳銃。人差し指がトリガーを圧迫するのが見えた。
「やめて。だからこそ、逮捕してこれまでに起こったことを白日のもとにーー」
何かが弾けた。
あたしは、立っていることが出来ず、フラッと倒れていることに気づいた。そして、冷たい床に頬を擦り付けていた。
あたしはーー
【続く】
それらは真っ暗な中で生活していることもあって目は殆ど見えず劣化しており、だが他の器官が発達したがために生きることには何の支障もなく過ごせている。
お兄さんの目はまるで機能を失った深海の生物のように死んでいた。だが、あたしにはわかった。その死んだ目は単純な殺人者の目から少し変化を見せていた。お兄さんの目は、今そこにある悲しみから目を逸らさんとするようにしているようだった。
悲しい、でもそんなことを思っていてはいけない。自分にはやらなきゃいけないことがある。だから、自分は非情でなければならない。間違いなく、お兄さんは殺人者ではなく、列記とした暖かなこころを持つ人間そのモノだった。
「本当に、あたしを殺せる?」
あたしは問う。まるで挑発するようなことばではあったが、これはある意味お兄さんのこころへのノックでもあった。そして、あたしは確信していたーーお兄さんがあたしを殺さない、ということを。
「出しゃばるなよ」弓永くんがいった。「コイツはただの女じゃない。今すぐにでも殺しておかないと面倒だ」
弓永くんは腰元から右手を出した。そこにはコルトのセミオートが握られていた。100年以上前に作られた古いタイプで、弓永くんが最も好きな拳銃。人差し指がトリガーを圧迫するのが見えた。
「やめて。だからこそ、逮捕してこれまでに起こったことを白日のもとにーー」
何かが弾けた。
あたしは、立っていることが出来ず、フラッと倒れていることに気づいた。そして、冷たい床に頬を擦り付けていた。
あたしはーー
【続く】