【一年三組の皇帝~弐拾壱~】

文字数 1,019文字

 昨日の敵は今日の友なんてことばは、殆ど昭和や平成初期あたりの少年マンガで絶滅したようなことばだと思っていた。

 まるでそれを裏付けるかのように、ぼくをはじめ、山路と海野も呆然としていたのはいうまでもなかった。唯一真剣な表情を浮かべていたのは辻ただひとりだった。

「お前、マジかよ......」

 山路がそう呟いたのも無理はなかった。ぼくもそう思っていたし、きっと海野だってそう思っていたはずだから。だが、辻はーー

「当たり前だろ」

 とまったく冗談を交えない感じでいった。そうなるといよいよ信憑性は高まって行く。やはりこの男はマジでいっている。

「何で?」ぼくは思わず訊ねた。「何でおれと一緒になんだよ?」

 山路と海野も同じ気持ちだったらしく、微かに首を縦に振ったのが見えた。

「何でって、テメェは今のクラスの状態を見て何とも思わねえのか?」

 何とも思わないワケがない。だが、同時に辻の申し出に対して何も思わないワケもない。ぼくは曖昧な口振りで、そんなことはないとだけ答えた。と、辻はぼくのほうへ鋭い視線を投げ掛けながら身を乗り出して来た。

「だったら、やることはひとつだろ」

「......でも、お前がおれと組んで関口たちのグループを潰したところで何になる?」

 ぼくはこころからの疑問を投げ掛けてみた。そう、仮にぼくと辻が組んで関口のグループを潰したからといって何になるというのか。辻がもし関口たちを潰してクラスのトップに立ちたいというのであれば、協力者であったぼくは目的を達成した後には逆に邪魔な存在へと早変わりするはずだ。ともなれば、ぼくと協力することは目的の達成を早めはしても、その後のことではトラブルを招きかねない。一体コイツは何を考えているのか。

「どうなるって、気取った学級会を崩壊させて終わりってだけだ」辻はいった。

「学級会を崩壊させてどうする? 待ってるのは学級崩壊だけだぞ」

「今の状態が続けばそれこそ学級崩壊は目の前だろ。それにテメェは田宮がパシられてる姿をいつまでも遠目で眺めてるつもりか?」

 そんなつもりは毛頭なかった。ぼくだって、いつまでも関口たちにパシられている田宮のことを遠目で眺めているつもりなんかなかった。確かにぼくは生活安全委員だ。この手のトラブルの解決のために何かしなければならないのはいうまでもない。

 だけど、それ以上にぼくはーー

「だったら、もう答えは決まってるよな?」

 辻が真剣な視線でこっちを見てきた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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