【帝王霊~伍拾玖~】

文字数 1,230文字

 大原美沙、そう名乗った少女の姿は和雅の目には写っていなかった。

 和雅は美沙の姿を探すようにキョロキョロした。だが、見つからないことは和雅も知っていた。幽霊。美沙本人がそういい、しかも声が聴こえるのならば、そうであることは間違いない。それに祐太朗と詩織から恨めし屋の話を聞いていたこともあって、疑う素振りはまったくなかった。

「なるほど......、まさかおれも幽霊に憑かれる日が来るとは思わなかった」和雅は微笑した。

「憑かれるとか人聞きの悪いことはいわないで貰えるかな? まぁ、間違いではないんだけど」

「はは、ごめんごめん」

「そんなことはどうでもいい。さっさと動くよ」

「動くって、何をすればいいかわかるのかい?」

「わかるも何も、今回はただの誘拐騒ぎじゃない。犯人は悪霊に身体を乗っ取られてる」

「なるほど、おれと同じか」

「まぁ、そんな感じ。でも良かったでしょ? こんな可愛い女子高生の霊に憑かれてるんだから」

「自分でいうなって。それに、おれはキミの姿が見えないんだから、可愛いかどうかなんてわからんよ」

「それもそうだね。でも、全然驚かないね。普通幽霊が憑いてるなんて聞かされたら、取り乱して全力で否定するか、怖くてことばを失うかなんだけど。流石に祐太朗たちと付き合いがあると驚きもしなくなるか」

「その通り。取り敢えず、動かんと。でも、どうやってその悪霊を探すんだい? もしかして、霊なら霊の気配を探れるとでも?」

 美沙はそれに近いと答えた。人は死んで霊になることで、所謂「第六感」を得る。それは自分が霊になったことでそっちの世界の住人になるが故に必要な感覚であるからだ。美沙は祐太朗からそう聞いたと説明した。

「なるほど。てことは、その悪霊の居場所をピンポイントで見つけることが出来る、と」

「それは無理。でも、目撃者ってのは、ストリートに誰もいなくてもちゃんといるってこと」

「......どういう意味?」

 和雅は美沙のことばの意味を理解出来ていなかった。それも無理のない話だ。そもそも和雅は霊の世界の云々は何も理解していないのだから。

 美沙は説明した。要はストリートに生きた人間はいなくとも、死んだ人間はいくらでもいる、と。つまり、霊が誘拐の現場を目撃していることは全然ある話で、それを追えばいくらでも犯人の追跡が可能になる、ということだ。これはすなわち、恨めし屋で祐太朗が使っている捜査法と同じということになる。

「なるほど、結局情報は足で稼げってことか。でも、犯人が車で逃走してるってことは?」

 美沙は幾ばくか唸ってからいった。

「多分ない。だって、犯人の目的は身代金や何かではないし。捕まったところで魂が身体から抜けてしまえば影響はない。それに、犯人の目的は恐らく、シンゴくんて中学生の子とヤエさんって先生を困らせることだろうから」

「シンちゃんとヤエさんを?」

「うん。それよりも、誘拐された子を探さないと、ね。......さぁ、行こう」

 和雅は頷いた。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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