【冷たい墓石で鬼は泣く~弐拾壱~】

文字数 1,044文字

 わたしの身体はまるで鎧をまとったように重かった。

 確かに衣服は泥と雨水にまみれて重かったが、それ以上に重かったのは、紛れもないわたしの精神そのモノだった。

 絶望していた。わたしにはもはや生きる道などないとすら思った。雨の中、濡れたままで屋敷へと戻った。縁側に上がり、雨水を滴ながら歩いた。わたしの通った跡は雨でびしょ濡れになっていた。まるでナメクジが這った跡のようだった。こんなことをすれば、間違いなく両親からおとがめを喰らうだろう。

 だが、今のわたしにはそんなことはどうでも良かった。それよりも優先して考えるべきことがあったからだ。

 わたしはどうするべきか揺れていた。このまま行けば、おはるの無念を晴らすことが出来るかもしれない。だが、それは同時にわたしの『牛野』の姓を剥奪されると同じであることも承知していた。

 逆に今ここで行くのを止めれば、『牛野』の姓は守ることは出来る。だが、同時にそれは家柄に負けておはるの無念を果たすことを放棄することとなる。それはすなわち、馬乃助にいわれた通りになってしまう。

 家柄か、愛かーー

 愛。しかし、この愛はもはや今生何処を探したところで存在はしないのだ。彼女の墓を拝みに行く。これも確かに愛は愛かもしれない。だが、そこには生きたぬくもりはない。笑顔の彼女は存在しない。まるで片想い。それも決して報われることのない、終わりのない地獄の輪廻。

 愛はもう手に入らない。だが、このまま彼女の存在をお座なりにはしたくはない。仮にわたしが牛野の姓をついだとして、格ばかりが肥大したわたしに彼女の墓を参る資格があるだろうかーー

 あるだろうか?

 ない。きっとーーいや、絶対にないだろう。

 馬乃助が強かった本当の理由、それは馬乃助が下らないしがらみに縛られていなかったからではないか。あの男に躊躇いはなかった。だからこそ、前に前に進むことが出来た。対するわたしはどうか。色んなことに縛られ、家柄がどう、長男だからどうと自分で自分を縛り付けていた。

 確かに両親から跡継ぎとしてあれこれいわれては来た。そのせいだといおうと思えばいえるし、責任をわたしに圧を掛け続けた両親に転嫁することは簡単だった。だが、結局のところ、最後の責任はわたしにこそある。

 だからこそ、わたしは自分の責任を果たさなければならないのだ。

 わたしは再び歩き始めた。まだ、灯りの灯っている部屋がある。障子の向こうには座っている人の影がひとつあるばかり。

 わたしは障子戸の縁に手を掛けたーー

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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