【お前の名前は下半身】
文字数 3,777文字
アダ名というのは残酷だと思う。
基本的にアダ名というのは、本人の意向とはまったく関係のないところでつけられることが殆どだ。というか、自分から、
「◯◯って呼んでー!」
みたいなことをすれば、大抵の場合はドン引きされるのがオチだし、そんなのが通用するのは、薄っぺらい女子グループか爆笑問題のウーチャカぐらいしかいない。少なくともおれは太田さんタイプなんで無理。
まぁ、爆笑問題の話はさておき、アダ名っていうのは中々に上手い具合にいかない。
毒にもクスリにもならないような無味無臭のアダ名といえば、例えるなら、「佐藤」を「サトちゃん」、「鈴木」を「スズちゃん」、「秀明くん」を「ヒデちゃん」だとか、「近藤」を「コンドーム」とかそんな具合だろう。最後のは悪い例だったな。
まぁ、いってしまえば、名前や苗字を短くしてちゃん付けみたいな簡易的で当たり障りのないモノなら別に何でもいいのだ。問題なのは、
完全に悪意しかないアダ名のことだ。
子供の頃、多分、ひとりはこんなアダ名の子がいたのではないだろうか。「バイ菌」ーー理由は多分、不潔だからとかそんな感じだろう。
子供というのは本当に残酷だ。自分と異なる者を受け入れるだけの許容力が低いこともあってか、基本的に異物を排除しようとする。
まぁ、これは大人も同じなのだけど、子供のほうがもっと大っぴらに、あからさまにそれをやるし、逆に大人は、本音と建前を使い分けるようになった結果、やり方が陰湿になりがちだ。まぁ、あからさまか陰湿か、どっちがいいのかって話でいえば、どっちもイヤなのが正直な話で、そう考えると子供の世界も大人も世界も生きづらくて、引きこもりやニートになる気持ちもわからないでもない。
そんな中、近頃では、「アダ名禁止」の学校もポツポツと出始めているらしい。
その効果がどんなモンかはわからんのだけど、おれが聞いた限りでは「否」の意見のほうが多いように思える。
まぁ、アダ名なんて表立って呼ばなくても裏で呼ぶだろうし、表立ってやらない分、やり方が陰湿になるのは目に見えているしな。
そもそも、子供っていうのはそういう生き物なんだと思う。だからこそ躾が必要なワケで。
かくいうおれはというと、基本的に他人に不名誉なアダ名をつけることが多い。
例えるなら、自称「極真空手世界覇者で数学マエストロで、遊☆戯☆王世界チャンピオン」の高橋のことは、背が高く色黒という理由で「アフガン」。色白の日本人離れした顔のヤツのことを「KGB」、色んな意味でヤバそうなヤツのことを「歌舞伎町」、仏みたいな小野寺先生のことを「ヤクザ」、「エンコ」だとか色んな意味で真っ黒なアダ名ばかりつけがちだ。
だが、逆にアダ名をつけられることもある。
大体、おれという人間はアダ名をつけられるほど特徴的でもなければ、人から認知されないほどに影も薄い。だから、アダ名など殆どつけられないのだけど、そんな五条氏がつけられた数少ないアダ名には、
「デビル」や「歩くガン細胞」がある。
これはいずれも高校時代につけられたモノで、前者は、靴下にハチが入っていて一週間学校を休んだヨースケ、後者はア◯ルからち◯こが生えたという加藤くんにつけられたワケだ。何から何が生えたって?って思われるかもしれないけど、加藤くんに関してはまた後ほど。
まぁ、由来について話すと、「デビル」は笑い声と人の不幸を目の前にして爆笑する性格の悪さから。「歩くガン細胞」に関しては、とある夜にある人物のウワサを三人に話したら、次の日の朝には学年中に広まっているという進行の早さを形容したモノだったりする。
まぁ、このふたつのアダ名も、イヤな人はとことんイヤだと思う。だが、おれは逆に結構気に入っていたりする。だって、おれのパーソナリティをこんな短いワードで的確にいい表しているなんて、秀逸だと思うしな。
さて、今日はそんなアダ名の話ーー
あれは高校二年の時のことだった。
その当時の五条氏といえば、野良犬、狂犬といっても過言ではないほどにイカれた少年で、表向きはマジメを装いつつ、裏では普通に素行が悪くてどうしようもなかった。
まぁ、素行が悪いといっても、セックス、バイオレンスとは無縁で、酒も煙草もギャンブルもやりはしなかったので、そういったベクトルの素行の悪さは皆無だった。
では、何がそんなに素行が悪かったのかというとーー
イタズラばかりしていたのだ。
これは中学時代のエピソードにもあったけど、教員の悪意しかない似顔絵を描いては、それを見える場所に掲示したり、調子に乗っているヤツのことを悪意あるモノマネのネタにしたりとそんな感じの具合だった。
まぁ、おれの通っていた「川澄城南高校」は男子校で、調子に乗るヤツ、不良ぶるヤツ、太鼓持ち、キョロ充といったジャンルの人間たちが不思議と淘汰されていく環境だったこともあって、そういった流れも普通ーーというか、トラブルの原因になりがちなジャンルのヤツラが自然と淘汰されていくんで結構快適に過ごせはしたんで、これはこれで良かった。
まぁ、そんな野良犬である五条氏ではあったのだけど、二年生になると、おれが悪意ある教員の似顔絵ばかり描いていることが他の生徒にネタにされ、それが美化されて教員に伝わり、担任の小木田先生に伝わってしまったのだ。
この小木田先生は、「川澄城南」でも比較的武闘派、というか革命派で、中年でありながら古くさい手法による教育よりも、生徒のことを理解し、効率のよいやり方で指導していこうというスタンスの先生だった。
そんな感じの尖った先生だったこともあって、生徒でも教師でも敬遠する人は多かったが、逆に好感を持ち信頼する人も多かった。
おれも後者で、今の自分があるのも、この小木田先生に影響を受けたからなのだけど、それはまた今度の話ーー
そんな中、毎年恒例の学校の会誌のゲラ書きの時期となった。学校会誌には、そのクラスごとで出されたお題に対し、生徒一人ひとりが回答していくというモノなのだけど、まぁ、ろくな答えはないのが恒例でもあった。
そんな会誌ではあるけど、そこでーー
クラスのプロモーション用の絵を描くよう小木田先生にいわれたのだ。
まぁ、これは別にいいんだけど、ただ、一年生の時点で小木田先生のクラスのプロモーション絵を描いていた栗田くんも同じクラスで、おれひとりでプロモーション絵を描くというのが、どうも極り悪いというか、申し訳なく感じてしまったのだ。
そこで、小木田先生の絵を栗田くんにお願いし、おれは副担であり、数学担当の「森満」先生の絵を担当することとなった。
森満先生は、まぁ、その名の通りアダ名はーーいわないでおくわ。とはいえ、授業はわかりやすく面白かったんで、生徒からは大変好かれていた。そんな森先生の絵を何でおれが描くこととなったかといえば、
高一の時から描いていたからだ。
それも悪意あるマッチョ姿で。
お前、そればっかだなといわれたら否定できない。そんな感じで、先に栗田くんに担任の絵を描いてもらい、続いておれが森先生を描くこととなったのだ。というわけで、いざ、絵を描こうとしたその時、クラスメイトの小野が、
小木田先生の名前を絶妙な下ネタに変換したのだ。
まぁ、小木田っていうのは勿論フェイクネームなのだけど、仮に小木田先生の本名が「増田」だったとしよう。それでいえばーー
「増田ーベー◯ョン」みたいな感じだ。
そのネタ自体、普通な気もするけど、小木田先生の本名はもっと珍しい名前でかつ、小野がいったのも、もっと凝った下ネタだったのだ。まぁ、今回は便宜上、そのネタを使おうと思うのだけど、このワードというのがーー
頭から離れなくなってしまったのだ。
だから、おれはーー
その下ネタを絵の横に添えて書いてしまったのだ。
すべてを書き終え、しれっとした顔で絵を小木田先生に提出する。が、特にこれといったおとがめもなく、絵は採用されてしまった。
それから時が経って、会誌が配られた。うちのクラスの人間は、すぐにその下ネタに気づいて、クラス内は爆笑の渦に巻き込まれた。おれとしてはヒヤヒヤものだったけど、もはやどうでもよくなっていた。なるようになれだ。
それからホームルームの時間となった。小木田先生はいつも通りの笑顔。で、学級委員が挨拶をし、いざホームルーム。と思いきや、
「五条、『増田ー◯ーション』って何だ?」
バレてた。
普通に小木田先生にバレてた。
「あ、いや、その、あれはーー」
狼狽する五条氏、だがーー
「お前、何てこと書いてくれたんだ! 職員室でメチャクチャ笑われたんだぞ!」
そりゃそうだ。
「オマケに女房からは離婚だとかいわれるし」
それはウソだろう。
「兎に角、お前ってヤツはぁ!」
そんな感じで小木田先生はおれの頭を叩き出したのだ。まぁ、おれが高校の時点でも体罰は普通にアウトな時代だったのだけど、うちの学校は別。学内は普通に治外法権。暴力なんてなかったーーってことになるワケだ。
「止めてください! あのネタ考えたのは、小野なんですぅ!」
「小野ぉ!」
とまぁ、そんな感じで次は小野が叩かれ、クラスは爆笑に包まれましたとさ。
やっぱ、アダ名ってよくないわ。
アスタラ。
基本的にアダ名というのは、本人の意向とはまったく関係のないところでつけられることが殆どだ。というか、自分から、
「◯◯って呼んでー!」
みたいなことをすれば、大抵の場合はドン引きされるのがオチだし、そんなのが通用するのは、薄っぺらい女子グループか爆笑問題のウーチャカぐらいしかいない。少なくともおれは太田さんタイプなんで無理。
まぁ、爆笑問題の話はさておき、アダ名っていうのは中々に上手い具合にいかない。
毒にもクスリにもならないような無味無臭のアダ名といえば、例えるなら、「佐藤」を「サトちゃん」、「鈴木」を「スズちゃん」、「秀明くん」を「ヒデちゃん」だとか、「近藤」を「コンドーム」とかそんな具合だろう。最後のは悪い例だったな。
まぁ、いってしまえば、名前や苗字を短くしてちゃん付けみたいな簡易的で当たり障りのないモノなら別に何でもいいのだ。問題なのは、
完全に悪意しかないアダ名のことだ。
子供の頃、多分、ひとりはこんなアダ名の子がいたのではないだろうか。「バイ菌」ーー理由は多分、不潔だからとかそんな感じだろう。
子供というのは本当に残酷だ。自分と異なる者を受け入れるだけの許容力が低いこともあってか、基本的に異物を排除しようとする。
まぁ、これは大人も同じなのだけど、子供のほうがもっと大っぴらに、あからさまにそれをやるし、逆に大人は、本音と建前を使い分けるようになった結果、やり方が陰湿になりがちだ。まぁ、あからさまか陰湿か、どっちがいいのかって話でいえば、どっちもイヤなのが正直な話で、そう考えると子供の世界も大人も世界も生きづらくて、引きこもりやニートになる気持ちもわからないでもない。
そんな中、近頃では、「アダ名禁止」の学校もポツポツと出始めているらしい。
その効果がどんなモンかはわからんのだけど、おれが聞いた限りでは「否」の意見のほうが多いように思える。
まぁ、アダ名なんて表立って呼ばなくても裏で呼ぶだろうし、表立ってやらない分、やり方が陰湿になるのは目に見えているしな。
そもそも、子供っていうのはそういう生き物なんだと思う。だからこそ躾が必要なワケで。
かくいうおれはというと、基本的に他人に不名誉なアダ名をつけることが多い。
例えるなら、自称「極真空手世界覇者で数学マエストロで、遊☆戯☆王世界チャンピオン」の高橋のことは、背が高く色黒という理由で「アフガン」。色白の日本人離れした顔のヤツのことを「KGB」、色んな意味でヤバそうなヤツのことを「歌舞伎町」、仏みたいな小野寺先生のことを「ヤクザ」、「エンコ」だとか色んな意味で真っ黒なアダ名ばかりつけがちだ。
だが、逆にアダ名をつけられることもある。
大体、おれという人間はアダ名をつけられるほど特徴的でもなければ、人から認知されないほどに影も薄い。だから、アダ名など殆どつけられないのだけど、そんな五条氏がつけられた数少ないアダ名には、
「デビル」や「歩くガン細胞」がある。
これはいずれも高校時代につけられたモノで、前者は、靴下にハチが入っていて一週間学校を休んだヨースケ、後者はア◯ルからち◯こが生えたという加藤くんにつけられたワケだ。何から何が生えたって?って思われるかもしれないけど、加藤くんに関してはまた後ほど。
まぁ、由来について話すと、「デビル」は笑い声と人の不幸を目の前にして爆笑する性格の悪さから。「歩くガン細胞」に関しては、とある夜にある人物のウワサを三人に話したら、次の日の朝には学年中に広まっているという進行の早さを形容したモノだったりする。
まぁ、このふたつのアダ名も、イヤな人はとことんイヤだと思う。だが、おれは逆に結構気に入っていたりする。だって、おれのパーソナリティをこんな短いワードで的確にいい表しているなんて、秀逸だと思うしな。
さて、今日はそんなアダ名の話ーー
あれは高校二年の時のことだった。
その当時の五条氏といえば、野良犬、狂犬といっても過言ではないほどにイカれた少年で、表向きはマジメを装いつつ、裏では普通に素行が悪くてどうしようもなかった。
まぁ、素行が悪いといっても、セックス、バイオレンスとは無縁で、酒も煙草もギャンブルもやりはしなかったので、そういったベクトルの素行の悪さは皆無だった。
では、何がそんなに素行が悪かったのかというとーー
イタズラばかりしていたのだ。
これは中学時代のエピソードにもあったけど、教員の悪意しかない似顔絵を描いては、それを見える場所に掲示したり、調子に乗っているヤツのことを悪意あるモノマネのネタにしたりとそんな感じの具合だった。
まぁ、おれの通っていた「川澄城南高校」は男子校で、調子に乗るヤツ、不良ぶるヤツ、太鼓持ち、キョロ充といったジャンルの人間たちが不思議と淘汰されていく環境だったこともあって、そういった流れも普通ーーというか、トラブルの原因になりがちなジャンルのヤツラが自然と淘汰されていくんで結構快適に過ごせはしたんで、これはこれで良かった。
まぁ、そんな野良犬である五条氏ではあったのだけど、二年生になると、おれが悪意ある教員の似顔絵ばかり描いていることが他の生徒にネタにされ、それが美化されて教員に伝わり、担任の小木田先生に伝わってしまったのだ。
この小木田先生は、「川澄城南」でも比較的武闘派、というか革命派で、中年でありながら古くさい手法による教育よりも、生徒のことを理解し、効率のよいやり方で指導していこうというスタンスの先生だった。
そんな感じの尖った先生だったこともあって、生徒でも教師でも敬遠する人は多かったが、逆に好感を持ち信頼する人も多かった。
おれも後者で、今の自分があるのも、この小木田先生に影響を受けたからなのだけど、それはまた今度の話ーー
そんな中、毎年恒例の学校の会誌のゲラ書きの時期となった。学校会誌には、そのクラスごとで出されたお題に対し、生徒一人ひとりが回答していくというモノなのだけど、まぁ、ろくな答えはないのが恒例でもあった。
そんな会誌ではあるけど、そこでーー
クラスのプロモーション用の絵を描くよう小木田先生にいわれたのだ。
まぁ、これは別にいいんだけど、ただ、一年生の時点で小木田先生のクラスのプロモーション絵を描いていた栗田くんも同じクラスで、おれひとりでプロモーション絵を描くというのが、どうも極り悪いというか、申し訳なく感じてしまったのだ。
そこで、小木田先生の絵を栗田くんにお願いし、おれは副担であり、数学担当の「森満」先生の絵を担当することとなった。
森満先生は、まぁ、その名の通りアダ名はーーいわないでおくわ。とはいえ、授業はわかりやすく面白かったんで、生徒からは大変好かれていた。そんな森先生の絵を何でおれが描くこととなったかといえば、
高一の時から描いていたからだ。
それも悪意あるマッチョ姿で。
お前、そればっかだなといわれたら否定できない。そんな感じで、先に栗田くんに担任の絵を描いてもらい、続いておれが森先生を描くこととなったのだ。というわけで、いざ、絵を描こうとしたその時、クラスメイトの小野が、
小木田先生の名前を絶妙な下ネタに変換したのだ。
まぁ、小木田っていうのは勿論フェイクネームなのだけど、仮に小木田先生の本名が「増田」だったとしよう。それでいえばーー
「増田ーベー◯ョン」みたいな感じだ。
そのネタ自体、普通な気もするけど、小木田先生の本名はもっと珍しい名前でかつ、小野がいったのも、もっと凝った下ネタだったのだ。まぁ、今回は便宜上、そのネタを使おうと思うのだけど、このワードというのがーー
頭から離れなくなってしまったのだ。
だから、おれはーー
その下ネタを絵の横に添えて書いてしまったのだ。
すべてを書き終え、しれっとした顔で絵を小木田先生に提出する。が、特にこれといったおとがめもなく、絵は採用されてしまった。
それから時が経って、会誌が配られた。うちのクラスの人間は、すぐにその下ネタに気づいて、クラス内は爆笑の渦に巻き込まれた。おれとしてはヒヤヒヤものだったけど、もはやどうでもよくなっていた。なるようになれだ。
それからホームルームの時間となった。小木田先生はいつも通りの笑顔。で、学級委員が挨拶をし、いざホームルーム。と思いきや、
「五条、『増田ー◯ーション』って何だ?」
バレてた。
普通に小木田先生にバレてた。
「あ、いや、その、あれはーー」
狼狽する五条氏、だがーー
「お前、何てこと書いてくれたんだ! 職員室でメチャクチャ笑われたんだぞ!」
そりゃそうだ。
「オマケに女房からは離婚だとかいわれるし」
それはウソだろう。
「兎に角、お前ってヤツはぁ!」
そんな感じで小木田先生はおれの頭を叩き出したのだ。まぁ、おれが高校の時点でも体罰は普通にアウトな時代だったのだけど、うちの学校は別。学内は普通に治外法権。暴力なんてなかったーーってことになるワケだ。
「止めてください! あのネタ考えたのは、小野なんですぅ!」
「小野ぉ!」
とまぁ、そんな感じで次は小野が叩かれ、クラスは爆笑に包まれましたとさ。
やっぱ、アダ名ってよくないわ。
アスタラ。