【空から地雷が降ってくる】
文字数 2,454文字
世の中には、色んな地雷が存在する。
それは、実際の紛争地域に仕掛けられたモノもあるが、比喩的な意味での地雷もこの世にはたくさんある。
というのも、この世には踏み込んではいけない領域がたくさんあるということだ。例えるなら……、例えるのが難しいな。
そう考えあぐねてしまうくらい人の地雷というのはどこにあるかわからない。気づいたら地雷を踏んで大爆発なんてこともない話ではない。
これはおれが大学二年の時のことである。
おれが通っていた大学では、二年生になると特定の学部はキャンパスを移り、それに合わせて引っ越しをしなきゃならないのだけど、おれもそのひとりで。インチキ都市部から海沿いの街に引っ越すこととなったのだ。
引っ越してすぐは慣れないもので、これまで住んでいた地域と比べると田舎っぽく、飲食店やレジャー施設なんかは八時に閉まるし、コンビニバイトの時給は六〇〇円。やれることといえば、自宅にいるか、人の家で飲むかぐらいしかないという何とも寂れた街だった。
引っ越しをして数日、サークルの新二年生歓迎会が行われることとなった。
当時おれが所属していたサークルは、所謂バンドサークルで、この時はおれもギターを弾いていたのだけど、それに関してはまた別の話。よくよく考えたら、そこら辺の話題でもネタがあることはあったわ。それに関しては後日。
さて、そんなサークルの新二年生歓迎会だったのだけど、その会場というのがーー
とある新二年生の家だった。
何で歓迎すべき新二年生の家で歓迎会をやるんだよって話だけど、理由はシンプルに広いからで、プラス、そのアパートにはふたつ上の先輩も住んでおり、ロケハンもほぼできていたからだった。
そんな感じで、日程と場所も決まり、予定通り新二年生歓迎会は行われることとなったのだ。
歓迎会は非常に盛り上がった。これまで会ったことのない隠れキャラ的な先輩もたくさんいて、そんな先輩たちと話をするのは、不安と好奇心が入り交じって何とも不思議な感じだった。
そんな中、おれは目黒さんと柳さんというふたりの先輩と話していた。
目黒さんはおれのひとつ上の学年で、ヒョロっとした体格に人が良さそうな顔、右側に偏った思想に、ナヨッとしていながらどこか強硬な姿勢と、書いている内容から考えても結構面倒くさそうに思える人なのだけど、まぁ、実際そうで。
とはいえ、目黒さんは同学年の男子たちから「目黒・ザ・ヴァイオレンス」といって唐突に暴行を受けたり、落とし穴にはめられたりとそんな扱いだった。
ふたり目の先輩である柳さんは、おれがいた学科のふたつ上の先輩で、ある種、こちらのキャンパスの首領というか、若頭というか、どこかそのキャンパスの色を象徴する先輩だった。
見た目は厳つく、どこか近寄りがたい雰囲気なのだが、実はこの歓迎会以降、一番お世話になった先輩だったりもする。
さて、そんな感じであまり交流のなかった先輩たちと話をしながら、楽しい時間を過ごしたのだけど、唐突に事件は起こった。
その時はちょうどおれも別の先輩と話していたところだった。そんな中、目黒さんが、
「おい、柳ぃ! 酒飲んでんのか?」
みたいな感じではしゃぎだしたのだ。そんなこといって大丈夫なのか、とも思ったのだけど、どうやら目黒さんは、柳さんの同期にそういうように煽られていたらしく、尚も止まらない。そしてーー
「おい、柳ぃ! 聴いてんのか?」
そういった時である。音が聞こえた。ぶちっという音である。と思いきや、
柳さんが目黒さんに二、三発の蹴りを見舞ったのだ。
これには場も凍りつき、一瞬時が止まったようになったのだけど、柳さんもスパークしてしまい、目黒さんに飛びかかろうとしたのだ。
これには周りの先輩もヤバイと感じたのか、柳さんを押さえつけ、そのまま部屋から連れ出したのだが、
「目黒ぉ! テメェ、調子乗んじゃねぇぞ!」
とブチギレる柳さんは、まるで阿修羅のようだった。逆に目黒さんは怒られた子犬のように萎縮してしまい、何とも情けなかった。
柳さんが摘まみ出されると、場は静寂に包まれた。おれたち新二年生は、あまりの空気にお葬式ムード。先輩たちも苦い顔をしながら、
「目黒、それはねえんじゃねえか?」
と苦言を呈されていました。しかも、目黒さんを煽っていた先輩までもそんなことをいうもんだから、目黒さんも完全に泣きそうになってた。てか、煽ってたんは誰よ。
新二年生歓迎会ももはや地獄のムード。最悪の空気感の中、どう落とし前をつけるべきかわからないような状態となり、さらに数人の先輩が柳さんを説得するために出ていったのだ。
それから数分後、柳さんは他の先輩たちとともに帰ってきた。どういうわけか、笑顔で。そしてーー
「はい、ドッキリ大成功!」
そういって柳さんは盛大に笑い始めたのだ。しかも、柳さんを止めに入った先輩まで。
おれらは何があったのか、まるでわからなかった。が、目黒さんは何かを察したようで、
「おーい、マジかよぉ……」
それで詳細を聞いたのだけど、この新二年生歓迎会は、毎年新二年生の中からひとりをターゲットに絞り、ドッキリを仕掛けるのだそうな。が、この年はイレギュラーに新二年生ではなく、新三年生にドッキリを仕掛けるということになったのだとか。
ちなみに、一年前のターゲットは、目黒さんだったとのこと。二年連続で仕掛けられるとは思ってもみなかっただろうな。
そんな感じで、目黒さんはその後も先輩後輩関係なくネタにされまくるようになり、何ともいえないような状況になってました。
まぁ、ある種の男社会を象徴するような話だけど、今考えると、あんな狂った空間はそうそうないよな、と思う。
急な地雷にはご注意を。
アスタラビスタ。
それは、実際の紛争地域に仕掛けられたモノもあるが、比喩的な意味での地雷もこの世にはたくさんある。
というのも、この世には踏み込んではいけない領域がたくさんあるということだ。例えるなら……、例えるのが難しいな。
そう考えあぐねてしまうくらい人の地雷というのはどこにあるかわからない。気づいたら地雷を踏んで大爆発なんてこともない話ではない。
これはおれが大学二年の時のことである。
おれが通っていた大学では、二年生になると特定の学部はキャンパスを移り、それに合わせて引っ越しをしなきゃならないのだけど、おれもそのひとりで。インチキ都市部から海沿いの街に引っ越すこととなったのだ。
引っ越してすぐは慣れないもので、これまで住んでいた地域と比べると田舎っぽく、飲食店やレジャー施設なんかは八時に閉まるし、コンビニバイトの時給は六〇〇円。やれることといえば、自宅にいるか、人の家で飲むかぐらいしかないという何とも寂れた街だった。
引っ越しをして数日、サークルの新二年生歓迎会が行われることとなった。
当時おれが所属していたサークルは、所謂バンドサークルで、この時はおれもギターを弾いていたのだけど、それに関してはまた別の話。よくよく考えたら、そこら辺の話題でもネタがあることはあったわ。それに関しては後日。
さて、そんなサークルの新二年生歓迎会だったのだけど、その会場というのがーー
とある新二年生の家だった。
何で歓迎すべき新二年生の家で歓迎会をやるんだよって話だけど、理由はシンプルに広いからで、プラス、そのアパートにはふたつ上の先輩も住んでおり、ロケハンもほぼできていたからだった。
そんな感じで、日程と場所も決まり、予定通り新二年生歓迎会は行われることとなったのだ。
歓迎会は非常に盛り上がった。これまで会ったことのない隠れキャラ的な先輩もたくさんいて、そんな先輩たちと話をするのは、不安と好奇心が入り交じって何とも不思議な感じだった。
そんな中、おれは目黒さんと柳さんというふたりの先輩と話していた。
目黒さんはおれのひとつ上の学年で、ヒョロっとした体格に人が良さそうな顔、右側に偏った思想に、ナヨッとしていながらどこか強硬な姿勢と、書いている内容から考えても結構面倒くさそうに思える人なのだけど、まぁ、実際そうで。
とはいえ、目黒さんは同学年の男子たちから「目黒・ザ・ヴァイオレンス」といって唐突に暴行を受けたり、落とし穴にはめられたりとそんな扱いだった。
ふたり目の先輩である柳さんは、おれがいた学科のふたつ上の先輩で、ある種、こちらのキャンパスの首領というか、若頭というか、どこかそのキャンパスの色を象徴する先輩だった。
見た目は厳つく、どこか近寄りがたい雰囲気なのだが、実はこの歓迎会以降、一番お世話になった先輩だったりもする。
さて、そんな感じであまり交流のなかった先輩たちと話をしながら、楽しい時間を過ごしたのだけど、唐突に事件は起こった。
その時はちょうどおれも別の先輩と話していたところだった。そんな中、目黒さんが、
「おい、柳ぃ! 酒飲んでんのか?」
みたいな感じではしゃぎだしたのだ。そんなこといって大丈夫なのか、とも思ったのだけど、どうやら目黒さんは、柳さんの同期にそういうように煽られていたらしく、尚も止まらない。そしてーー
「おい、柳ぃ! 聴いてんのか?」
そういった時である。音が聞こえた。ぶちっという音である。と思いきや、
柳さんが目黒さんに二、三発の蹴りを見舞ったのだ。
これには場も凍りつき、一瞬時が止まったようになったのだけど、柳さんもスパークしてしまい、目黒さんに飛びかかろうとしたのだ。
これには周りの先輩もヤバイと感じたのか、柳さんを押さえつけ、そのまま部屋から連れ出したのだが、
「目黒ぉ! テメェ、調子乗んじゃねぇぞ!」
とブチギレる柳さんは、まるで阿修羅のようだった。逆に目黒さんは怒られた子犬のように萎縮してしまい、何とも情けなかった。
柳さんが摘まみ出されると、場は静寂に包まれた。おれたち新二年生は、あまりの空気にお葬式ムード。先輩たちも苦い顔をしながら、
「目黒、それはねえんじゃねえか?」
と苦言を呈されていました。しかも、目黒さんを煽っていた先輩までもそんなことをいうもんだから、目黒さんも完全に泣きそうになってた。てか、煽ってたんは誰よ。
新二年生歓迎会ももはや地獄のムード。最悪の空気感の中、どう落とし前をつけるべきかわからないような状態となり、さらに数人の先輩が柳さんを説得するために出ていったのだ。
それから数分後、柳さんは他の先輩たちとともに帰ってきた。どういうわけか、笑顔で。そしてーー
「はい、ドッキリ大成功!」
そういって柳さんは盛大に笑い始めたのだ。しかも、柳さんを止めに入った先輩まで。
おれらは何があったのか、まるでわからなかった。が、目黒さんは何かを察したようで、
「おーい、マジかよぉ……」
それで詳細を聞いたのだけど、この新二年生歓迎会は、毎年新二年生の中からひとりをターゲットに絞り、ドッキリを仕掛けるのだそうな。が、この年はイレギュラーに新二年生ではなく、新三年生にドッキリを仕掛けるということになったのだとか。
ちなみに、一年前のターゲットは、目黒さんだったとのこと。二年連続で仕掛けられるとは思ってもみなかっただろうな。
そんな感じで、目黒さんはその後も先輩後輩関係なくネタにされまくるようになり、何ともいえないような状況になってました。
まぁ、ある種の男社会を象徴するような話だけど、今考えると、あんな狂った空間はそうそうないよな、と思う。
急な地雷にはご注意を。
アスタラビスタ。