【帝王霊~漆拾弐~】

文字数 1,061文字

 それはまるで地獄の底から響いて来るようだった。

 その声は生きた人間の声にしては苦痛と絶望に満ち溢れていた。あたしの中では簡単な引き算が行われていた。オカルトやスピリチュアルに懐疑的なあたしの性質、鈴木詩織という女の持つ特殊な霊能力、そしてあたしの耳にも確かに聴こえたグロテスクな呻き声。

「今の......」

 まるでひとりごとを呟くようにあたしはいった。それをさも自分に掛けられた問いであるかのように、詩織は答えた。

「幽霊の呻き声だね」

 詩織はあっけらかんとしていた。何がそんなに彼女を冷静ーーいや、楽天的にさせているのだろうか。人間、未知のモノほど恐ろしいモノはない。すなわち、あたしにとっての霊現象は未知のモノで恐ろしく感じられるのは当たり前だが、詩織にとっては当たり前の日常で、もはや慣れ親しんでしまったモノだとでもいうのだろうか。

 あたしは久しぶりに逃げ出したくなった。怖いモノは当たり前に怖い。これが人間相手ならまだ何とか対処出来るだろう。だが、相手は生きた人間ではない、幽霊なのだ。

「......これは良くないかもね」

 詩織はいった。その表情は一見すると何も感じていないようではあるが、詩織にしては強張っていたような印象も受けた。あたしは恐る恐る訊ねた。

「良くない、って......?」

「ここにいる霊、低級霊と怨霊ばっかり」

 低級霊と怨霊。その本質がどのようなモノかは知らないが、それらがまともでないことはオカルト音痴のあたしにでもわかった。詩織は更に続けた。

「しかも、こっちへどんどん近づいて来てる」

 見えない集団が自分たちのもとへと近づいて来るなんて、ホラー映画でしか観たことないが、少しずつ重苦しくなっているこの空気がそれに現実味を与えていた。そして、聴こえている呻き声もそのボリュームが少しずつ上がっている。深淵から聴こえて来たモノが競り上がって来るような。

 あたしは今にも嘔吐しそうだった。声が大きくなるにつれて心臓が粟立つような気持ち悪さを増幅させた。

「来るよ!」

 詩織がいうと、一気に呻き声が大きくなった。あたしは覚悟を決めた。だが、声はそれ以上大きくなることはなかった。

「......何があったの?」

 あたしは思わず訊ねた。と、詩織は辺りを見回しながらいった。

「近づいて来ない」

 耳を疑った。

「どうして急に......?」

 あたしが訊ねると詩織はあたしのほうを見てボーッとしたかと思いきや、ふと笑って見せた。何があったのか訊ねた。とーー

「アイの守護霊が守ってくれてるみたい」

 守護霊?

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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