【藪医者放浪記~百壱~】

文字数 574文字

 桧皮色の陽射しが道場内に差し込んでいた。

 格子状の窓によって道場は闇と桧皮に切り裂かれていた。カナカナカナというヒグラシの鳴き声が虚しく響いていた。長い影が道場の端に溜まっている色濃い影へと延びていた。

 長い影ーー猿田源之助のモノだった。

 源兵衛が死んだ、死んだーー死んだ。何度も何度もそのことばが繰り返されていた。死んだ、何で。答え、殺された。殺された、誰に。わからない。わからないが、どんなヤツかはわかる。どんなーー背が低く、左手に鬼の刺青の入った男。顔には右目のすぐ下に横に入った切り傷。左目は若干弱いのか、黒目が白く濁っていたという。一見してわかったのは、その刀捌き。血振りが刀を一回転させつつ逆手に納刀するモノーー即ち、香取神道流なのは源之助にもすぐにわかった。

「源之助さん」

 名前を呼ばれて振り返ると、そこには師匠の丑瀧がいた。普段は武士には似つかわしくないような柔和な表情をしている丑瀧だが、この時ばかりは神妙で堅苦しい顔をしていた。

「行かれるのですか」源之助の反応がないのを見て更にいった。「気持ちはわかりますが......復讐しても、どうもなりません。それに復讐なんてうしろ向きな理由で生きていれば、それが果たされた時、必ず生きる意味を失う、そうすればーー」

 源之助は頭を下げた。源之助の影が暗闇に大きく飲み込まれた。

 【続く】

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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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