【湿気た花火~玖~】

文字数 576文字

 地区の祭りは二日後の予定だった。

 その間、稽古は特になかった。セリフは覚えなければならないが、比較的暇な時間ではあった。まぁ、役者というのは稽古外でもやらなければいけないことは多い。特にいえば、稽古の時だけ役になりきればいいというモノでもなく、一度、その役を引き受けたら、その役を日常生活でも地続きで引き継がなければならない。もちろん、そこから完全に脱却してもいいのだが、そうすると次の稽古で痛い目を見るのが殆どだ。

 そういう意味でいえば、役者というのもなかなか気が抜けなくて窮屈な商売だと思う。自分でありながらも自分でない。そんな瞬間がたくさんあり、時には自分の人生を捨てなければならないのだから。これにウンザリして辞めて行くヤツなんて年に何人いるかわからない。少なくとも、おれはそれで何度か辞めようとしたひとりだ。

 地区の祭りに行こうと思ったのは、そういった日常を縛る緊張から一瞬でも逃避するためだった。

 もちろん、現実逃避は良くないのはわかっている。だが、ずっと縛られていれば血流は悪くなり、いずれ動きは鈍ってくる。適度に空気を入れ換えるのが人生には大切なことなのだろう。変に自分に何かを課そうとする悪いクセから少し脱却したほうがいいと思った。でなきゃ、長生きは出来ないだろう。

 おれは決めたーー生きるために過去の記憶へ潜り込む、と。

 【続く】
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登場人物紹介

どうも!    五条です!


といっても、作中の登場人物とかではなくて、作者なんですが。


ここでは適当に思ったことや経験したことをダラダラと書いていこうかな、と。


ま、そんな感じですわ。

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