【湿気た花火~拾睦~】
文字数 533文字
まるで追体験のようだった。
確かに存在した時間ではあったが、同時に何処か夢見心地というか、浮世離れしたような感じの気分だった。やはり、過去の記憶というのは、何処か桃源郷のような独特な世界観というか、雰囲気を持っているのだろう。確かに自分が経験したはずの時間も、今となっては手が届かないのはいうまでもない。だからこそ、それは理想の時間として美化される。そうに違いなかった。
確かに祭りの規模は縮小された。だが、あそこでの僅かな時間は、紛れもなく特別というか、日常から離れた場所に存在していたといっても過言ではなかった。
さて、それからのおれといえば、あの祭りがいい息抜きになったのか、気持ちが楽になっていた。実家から住まいの部屋へと戻った後も、現実は何処か彩りを持っているように思えた。薄暗くなってもそれはネイビーという暗くも美しい色を持っておれの水晶体に色を与えていた。
それからの一週間は芝居の稽古。だが、変に緊張することはない。かなり気楽に過ごせたと自分でも思ったほどだった。肩からは力が抜けて、いつも以上に感じやすく、芝居中の空気を読むことも出来たと思う。
そんな時である。休憩時間に共演するキャストがこんな話を始めた。
「そういえば、明日花火だね」
【続く】
確かに存在した時間ではあったが、同時に何処か夢見心地というか、浮世離れしたような感じの気分だった。やはり、過去の記憶というのは、何処か桃源郷のような独特な世界観というか、雰囲気を持っているのだろう。確かに自分が経験したはずの時間も、今となっては手が届かないのはいうまでもない。だからこそ、それは理想の時間として美化される。そうに違いなかった。
確かに祭りの規模は縮小された。だが、あそこでの僅かな時間は、紛れもなく特別というか、日常から離れた場所に存在していたといっても過言ではなかった。
さて、それからのおれといえば、あの祭りがいい息抜きになったのか、気持ちが楽になっていた。実家から住まいの部屋へと戻った後も、現実は何処か彩りを持っているように思えた。薄暗くなってもそれはネイビーという暗くも美しい色を持っておれの水晶体に色を与えていた。
それからの一週間は芝居の稽古。だが、変に緊張することはない。かなり気楽に過ごせたと自分でも思ったほどだった。肩からは力が抜けて、いつも以上に感じやすく、芝居中の空気を読むことも出来たと思う。
そんな時である。休憩時間に共演するキャストがこんな話を始めた。
「そういえば、明日花火だね」
【続く】