シュテファン・ツヴァイク(8)
文字数 1,194文字
阿部十三は書評でツヴァイクが「独自の視点で歴史の内側にあるエネルギーの波形を読み取り、決定的な配剤がなされた瞬間をえぐり出している」とし、「ツヴァイクの筆力に凄みが感じられる」と評した。尾崎喜八も書評で『人類の星の時間』の意図が「人類の運命の歴史的・劇的転回点をクローズアップして、これを溌剌と描き出そう」だとしている。尾崎はこの意図が「ゲオルク・フリードリッヒ・ヘンデルの復活」と「ウォーターローの世界的瞬間」が最も顕著な例で、これら2本を傑作だと評した。著述の手法は『エミール・ヴェルハーレン』などツヴァイクのほかの伝記作品に通じるという。一方個々の章が多くても30ページ程度なので、出来事の背景の描写が足りず、歴史の瞬間や主人公の性格をロマン主義的、神秘的に書くことができても、ツヴァイクのいう「歴史の力」を汲み取ることはできないとする批判もある。
阿部は「歴史のエネルギーが凝縮されている瞬間」に着目しているという、日本放送協会の『その時歴史が動いた』との共通点を指摘しており、『日経ビジネス』における書評でも「『その時歴史が動いた』の欧州版のような内容」と紹介している。
台湾の作家Emeryは本作が戦間期の作品であることに着目した。この時代では第一次世界大戦の余波を受けて悲観主義が広まっており、Emeryは『人類の星の時間』をツヴァイクの一連の歴史伝記の1つとして捉えた。これらの作品の目的は、人々が過去の『星の時間』に目を向けることで、諦めず希望を持てるようにするためだった(ただし、ツヴァイクは結局第二次世界大戦の衝撃を受けて、1942年に自殺した)馮はツヴァイクの著作から「世界の未来は人類が観測できない運命によって形作られるが、それ以上に人類から奪うことのできない、人の意思次第である」ことがわかるだろうと述べた。
Emeryは後に2014年の映画『グランド・ブダペスト・ホテル』を引き合いに出し、「良い過去」への懐古という共通したテーマがあると評した。一方で「1881年生まれヨーロッパ人」という出自もあって、題材選びにおけるヨーロッパ中心主義が強く、Emeryは「ツヴァイクの考える『歴史』は、『人類の一部』のものである」と評し、ほかにも「ツヴァイクが選んだ題材は人類というよりは有名人で(偉人とも限らず)、輝いているとも限らない」とする評論もある。