愛がなければ漫画の主人公にはなれない

文字数 1,419文字

どうして祖国アラゴン王国や余の名前、ラミロ2世の名前を知る日本人が少ないのか、そなたはわかるか?
やっぱり学校の世界史で習ってないのが原因だと思います。
誰かレコンキスタ時代の王で日本人にもよく知られている者はいないのか?
ペドロ1世などはどうでしょうか?
なんと!わが兄上ペドロ1世が日本人の間で有名になっているのか。
いいえ、アラゴン王ではなくてカスティーリャ王のペドロ1世です。1334年に生まれて1369年に死んでいます。残酷王、あるいは正義王と呼ばれています。
なんでその残酷王とか呼ばれた王がそんなに日本でもてはやされているのだ。
漫画の主人公になったからです。
そのペドロ1世の人生がどんなものか、ざっとでいいから教えて欲しい。
ペドロ1世はカスティーリャ王アルフォンソ11世とポルトガル王女マリアとの間に生まれました。アルフォンソ11世には愛妾レオノール・デ・グスマンがいて、彼女との間に10人の子をもうけていました。
愛妾との間に10人も子がいるとは、なんとふしだらで不道徳な王だ。余は王妃との間に子は1人しかいない。
でもレオノールの子は次々亡くなり、ペドロ1世より少し先に生まれたエンリケが長男として育てられました。物語はこの異母兄エンリケとペドロ1世の争いや他の国との戦争などを中心に進んでいきます。
なるほど、戦争や複雑な人間関係の争いがあれば漫画には描きやすいのかもしれない。余は子供の時からずっと修道院で育った。40年間ずっと修道院、これでは背景がずっと一緒でつまらない。
でもペドロ1世が漫画の主人公として成功したのは、泥沼の人間関係や戦争体験によるものだけではないです。彼の人気の秘密は生涯1人の愛妾を愛し続けたことだと思います。その純粋で一途な愛に女性読者は痺れるのです。
余も結婚ぐらいはしている。
お相手はどんな方ですか?
彼女はフランス貴族の娘だった。
ラミロは子供の頃、修道院に入る前に1度だけ出会った美しい彼女のことが忘れられなかった。運命のいたずらにより王になった時、真っ先に彼女の顔が浮かんだ。周囲の者には反対されたが、2人は王と貴族という身分の差、アラゴンとフランスという国の違い、すべてを乗り越えて固い絆で結ばれていた。
そんなに美しい話ではない。ナバラやカスティーリャから王妃を迎えると面倒なことになる。フランス貴族なら実家から口出しされることもない。その時彼女は未亡人ですでに子が3人もいたから余との間にもすぐ子供が生まれる。もちろん結婚するまで会ったこともない。
ずいぶんドライですね。でも結婚してからは愛が芽生え、子供が生まれたのではないですか?
娘のペトロニーラが生まれてすぐ、余は王妃と離婚した。彼女は来た時と同じようにピレネーを越えてフランスに帰った。
ちょっと待ってください。随分冷たいじゃないですか。
ピレネーの雪が冷たいのは余のせいではない。
いえ、そういう意味ではなくて、娘が産まれてすぐ離婚するなんて、あまりにもひどい、人間として冷たいと言っているのです。
余は修道士として生きてきた。修道の誓いを破って結婚したのは跡継ぎが必要だったからだ。娘が産まれたのだから離婚するのは当然であろう。
わかりました、ラミロ2世。あなたは結婚生活だけでなく漫画の主人公にも向いてない人です。やっぱり小説を書きます。
最初からそう言っているだろう。
というわけで、ペトロニーラは漫画の原作者となることは諦め、小説を書き始めました。
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登場人物紹介

ラミロ2世。アラゴンの王様だったがいろいろあって今は亡霊となっている

ペトロニーラ。アラゴン女王の名前を使っているがただの主婦。小説家になりたいと思っている。

フェリペ、16世紀のスペインの修道院で暮らすユダヤ人の少年。父親に捨てられて心を閉ざしていたが、ニコラス医師の指導で本来の明るさを取り戻す。まじめで勉強熱心。

ニコラス医師。修道院内の病院の医師で、孤児たちに勉強も教える。心を閉ざしていたフェリペを気にかけ、特別にラテン語や歴史、医学の基礎なども教える。

フアン1世。不真面目王と呼ばれ業績を残さずに死んだが、娘のヨランド・ダラゴンが勝利王シャルル7世を支えている。

ハインリヒ7世。皇帝フリードリヒ2世の長男でアラゴンの血も引いている。父と対立して反乱を起こし降伏して目を潰され。幽閉されて悲劇的な人生の幕を閉じる。

ペドロ2世。ラミロ2世のひ孫でレコンキスタの英雄。戦闘能力はかなり高く、ファンタジー映画やゲームの中では主要キャラになるタイプだが、なぜか小説の中で影が薄い。

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